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押し掛け

 その後、しきりに"先程のたまご焼きの味"について煩い山本さんと一緒にホストクラブの厨房で、ボケターンと過ごしていると。


 "第六天魔王"


 いや……違う、店長の清須信長さんが厨房に飛び込んできた。


 「氷室くん! 何? 何したの?」


 酷く慌てている店長に普通に。


 「え? たまご焼き作り直しただけだけど? 勝手な事しない方が良かった? 太閤……いや……中村さんはお気に召したようで持って行ったけど?」


 「違うって! さっきクレーム入れてきた姫に呼ばれて席に行ったら、たまご焼きを一切れの半分の半分を箸で切って渡されて、食べたらめっちゃ美味しいじゃん!」


 (ただたまごを混ぜて焼いただけの物に何を大の大人が興奮してんだ? 頭、ちぃー昇るぞ?)


 「はぁ? そっすか普通に食べてましたか? そら、良かったっすね。クレーム解決出来て」


 「だから! そうじゃなくて! あーもう……」


 (この目の前の人はさっきから何言ってんだ? おーい! 濃姫引き取りお願いします。あっ! お市ちゃんでも大丈夫っす蘭丸くんも目、離すなや)


 訳の分からん事をひたすら言ってくる第六……違う違う、店長の相手を一緒になって騒いでいる山本さんに押し付け。


 「あっ店長、ここの冷蔵ケースの中の飲み物って飲んでいいんすか?」


 と聞きはしたものは、答えを聞かず勝手にパックに入った牛乳を取り出すと、冷蔵ケースの上に置かれたカルピスの原液をグラスに適量入れた後に、牛乳で割り。


 "カルピスミルク"


 を作ると、履いているデニムのハーフパンツのポケットに手を突っ込み、小さな箱に入った"ショートPIECE"の濃紺の箱と、長年愛用したであろう表面に使い込んだ品にしか出来ない小さな傷の入ったZIPPOのオイルライターを取り出すと……


 (あー今は何処でも禁煙か分煙ブームだったな……)


 と取り出した愛用品をまたポケットの中に戻し、ひと仕事終えた後の一服を我慢して。


 「えっと……何でした?」


 と店長に向けて問うと店長は先程よりかは時間も経過した事により、蘭丸が連れて帰るほどには興奮もしておらず。


 「あーそうそう。氷室くんって前はどこの居酒屋で働いてたの?」


 そう聞いてくるので。


 (うん? 誰かこの人に俺が居酒屋で働いてとかウソ吹き込んでる? 居酒屋で働いた経験は無いんだが……)


 「いや……居酒屋で働いた経験は無いっすね」


 「え? だってめっちゃたまご焼き美味しかったし、もうちょいちょうだいって言ったら皿ごと姫に、ダメ! ってテーブルから避けられたのに……あんなの居酒屋かどっかで料理バッチリ学んだ人しか作れないでしょ?」


 (うーん……経歴言ってもいいが、ココは踊らせといた方が部下に裏切られて謀反起こされた人らしいな)


 と言う酷く個人的かつゲスな考えにより俺は。


 「あーいや、居酒屋じゃないっすけどまぁ、小料理屋みたいなトコっすわ」


 と誤魔化した。


 等と適当に作り話を店長と山本さんに向け話していると突然、店長が耳に挿しているインカムのイヤホンに指を当て。


 「え? こちら店長。何? もう1回流せ」


 と話始めた。


 インカムから流れる誰か知らないが内勤の内の誰かからの、多分だが急を要する連絡に耳をすませて聞いていた店長が"ガバッ"と伏せていた顔を上げ、俺に。


 「ちょ! 氷室くんそのパンツ何か代わり……いやいや落ち着け信長。えっとね……氷室くんよく聞いて、たまご焼きのクレーム出した姫が"これ絶対に山本さん作ってない"って言い始めて、誰が作ったのか見にココに来るって言ってるらしい……と言うかもう来る」


 「へぇ……そっすか」


 何か慌ててる店長を尻目に(料理美味しかったよ。と客が料理人にお礼を言いに来ると言う文化に慣れ過ぎている男は)正に。


 「で?」


 であった。


 先程、大……店長に案内され通った表と裏を繋ぐ通路の向こうから何やらガヤガヤとした話し声が聞こえてくる。


 「あっ! いや……生駒ちゃん、ちょっと待って……」


 (おーー濃姫でも市でも無く生駒と来たか……やるな! 流石無駄に店名が長いだけある! ヒネリ入れてきたか)


 と俺も周りが騒いでいるのに釣られ変なテンションで1人ツッコミしていると。


 イケメンのスーツ着た集団に囲まれながらも"行く手を無理やりどうこうする事も無く"厨房の中に入って来た。


 「どの人? 誰作ったの」


 と入って来た可愛らしい女の子が、どうやらお礼を言いにわざわざ来てくれたお客さんらしい。


 たまご焼き作ったヤツの事だと理解している俺は右手を軽く挙げ。


 (はい! ココっす)


 と作った本人の所在を教えると。俺の方に向き直りマジマジと数十秒は、上から下まで眺めた後に。


 「えーーーー! この人なの?」


 と、割と失礼な事を言ってきた。


 (なんや? 生駒のくせに、検索しないと詳しく無い人はお前の事なんぞ知らんわ)


 俺も割かし酷い反論を心の中で返した。


 


  

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