たまご焼き
「代わりの人が見つかるまでの代わり」
と言う言ってて自分でも訳の分からん立場を貰う事になりそうな俺は、ホストクラブのお客さん、業界用語で"姫"と呼ぶ人から、ツマミが不味い! とのクレームを受けた、張本人の山本さんと。
その山本さんにガン詰めしてる内勤の纏め役の。
"中村秀吉"さん。
の間に立たされ、小刻みにプルプルと震えていた。
いや……別に山本さんに詰め寄るマネージャーさんが怖くて。とかじゃないんだが、さっきから震えが止まらない。
(太閤……太閤殿下きた……)
だって、店長が信長でマネージャーが秀吉だぜ? これ絶対に内勤かホストの中に"家康"居る流れじゃん! 確定じゃん!
「山本さんどうします?姫は作り直せって言ってますけど?」
秀吉さんが詰め寄る。
俺はそんな中村さんと山本さんから離れ1人、冷蔵庫のトビラを開いた。中から生たまごを3個取り出すと、置いてあったボウルの中が綺麗な事を確認すると、たまごを3個割り入れて泡立て器を使い。
"シャッカシャッカ"と黄身と白身がよく混ざり合った卵液を作った。
「山本さん、"漉し器"漉し器どこ?」
そう言って山本さんに漉し器の場所を聞くと。
中村さんから詰め寄られていた山本さんはフリーズから解かれ。
「え? 氷室くん何してるの?」
「え? いや作り直したらいいんだよね?」
(とっても心の広い優しいお客さんじゃん)
そう思いながら。
(おい! おっさんはよ漉し器出せや客待ってんだろ)
とツッコミも忘れず。山本さんから渡された漉し器を使い別のボウルに先程混ぜた卵液を2回程濾した物の中に、調味料置き場から。
・小さじ4杯の砂糖
・小さじ1杯の醤油
・ひとつまみの塩
・少量のお湯で溶かしたダシの素
これらを濾した卵液の中に入れ混ぜ合わせる。
そして、コンロの上に磁石でくっ付いてるフックにぶら下がるたまご焼き用の長方形のフライパンを、コンロに置き火を点け熱を通したフライパンにサラダ油を少量敷くと、余分な油をキッチンペーパーに吸い取らせ、卵液の1/3程を流し入れた。
ここに来てようやく俺がクレームの入った、姫から"作り直せ"と言われているたまご焼きを作ろうとしている事に気づいた中村さんは。
「いや……え? 君何してるの?」
「え? クレーム対応っすけど?」
と言って、コンロの横に置いてあった菜箸を使い熱せられたたまごが立てる泡を丁寧に潰し、半熟に固まった物をテコの原理を使い。
「よっ! っと」
フライパンの中で半分に折ると空いたスペースに先程の余分な油を染み込ませたペーパーで油を薄く敷きボウルの中の卵液をまた流し込む。
油を敷く→卵液を流す→焼く→泡を潰す→半分に折る。を何度か繰り返し、分厚い中がフワフワの俺がヒルトン名古屋のラウンジに勤務していた頃に日本料理屋の大将に教わったレシピ通りの。
"フワトロたまご焼き"
をまな板の上に乗せ、文化包丁を使い両端を少しだけ切り揃えた後に6等分する。
切ったたまご焼きとまな板の間に包丁をすっと滑り込ませると長方形の陶器の白い皿に移し。
皿の隅に冷蔵庫から出したマヨネーズを添えて完成させた。
それを皿ごと太閤殿下に差し出し、切った両端の端切れを1つずつ、山本さんとマネージャーの中村さんに渡し味見をさせる。
2人からは同時に。
「美味い! 何これ? どうやって作ったの?」
と聞かれたが。
(いや……混ぜて焼いたんだが?お前ら見てたよな?)
「味に問題ないなら早く持って行ったら? 冷めるよ?」
中村さんにそう言うと。
「これなら姫もお気に召す、絶対に」
そう言ってキッチンから料理を持って出て行った。
俺は未だに固まっている山本さんを置いてきぼりにしたまま、使った調理器具を。
"燃えよドラゴンズ"
を鼻歌で歌いながら洗い物に入った。
頭の中ではまだ見ぬ"家康"に思いを馳せながら……




