ミアを取り合う二人
「ミアが王城附魔法医様に診せてくれたのね!有難う!ミア!」
アリシアは目覚めたその日にお見舞いに訪れたミアと話し、ミアが第二王子を頼って王城附魔法医に診てもらったことで、回復した可能性が高いことを知った。
アリシアがベッドに座って、しっかりと意識を保ってこちらを見る様子を捉えると、ミアの瞳には涙がとめどなく溢れており、抱きついたアリシアの肩も濡らした。
泣き続けるミアに代わって、大まかな説明をしたのは第二王子のクラウスだった。
「手続きなど実務は僕がやったんですよ、あのアリシア嬢、もう少し僕を見て御礼を言っても良いんですよ?」
ミアがハッとして顔を上げたが、アリシアがグイと自分に抱き寄せ直して、クラウスをニッコリと見据えた。
「ええ感謝いたしますわ、殿下。『ミアが』殿下に知らせてくれたおかげで、このように回復できました。『ミアが』私のことをそんなに大事に思ってくれていたなんて、『神に』感謝しなくてはいけませんね」
「凄く貴族らしい会話だアリシア嬢!さすが青い血が流れている生粋の貴族だね!一般市民になっただなんて信じられないなあ」
ミアが大事にしているのは自分だと主張するアリシアに、一般市民という階級で王子である自分に嫌味を向けていることを暗に批判するクラウス。
蒼白い火花が散りそうな空気の真ん中で、ミアは予想とは違う展開に固まっていた。
(こんなことになるなんて……)
ミアが行ったことは、大方の人間からするとあまり心象の良い戦略ではない。
伝え方にもよるだろう。
返せるものはないけれど、大事な人を助けてくれと頭を下げる女に、王子様が情けをかけると言う図は美談になりそうではある。
ただその王子様が自分を好きだと知っていた上での依頼となると話は別だ。
本当に返せるものがないわけではなくなってしまう。
ミアが王子の求愛に応えるということで取引が成立してしまう。
が、言い方を悪くすれば、「付き合ってあげるから、私の言うことをタダで聞いてくれ」とも取れる。
しかもミアの場合、オリバーにされたことを、多くの人間が知っている。
勿論クラウスも知っている。
清廉性というものが、ミアに関する噂話の始めから、決して高くは維持されていないのだ。
軽蔑されてもおかしくなかった。
求愛に応える代わりにアリシアを助けてくれと願ったクラウスにも。
自分のためだとはいえ、そのような手段で救われれば、ミアの噂話に巻き込まれる形でアリシアだって評判を落とすかもしれないし、そもそもそんな手段を講じる女だと、アリシアにも軽蔑されるかもしれなかった。
ミアのそんな恐ろしい想像は、あっさりと杞憂に終わった。
今までの経験ではありえないことだった。
誰もがミアの行いを責めた。
今まで面白おかしく話を聞いていた友人が、旗色が悪くなれば離れていき、ミアの噂話を面白おかしく加工して広めた。
父親は思い通りに競合店の噂話を広められなかったり、キーマンとされる人物に気に入られなかった際には、引っ叩くこともしょっちゅうだった。
家業の魔法道具の商店で、販売員として店頭に立つ際も売上の未達で怒鳴られ、社交で商機に繋がる話がなければ詰られた。
いつもそうだった。
母は疲れた顔で、ミアのことを視界に入れるのさえ鬱陶しいという態度だった。
ミアが歯を食いしばって働き、社交界で成り上がりと笑われても受け流しながら、必死に商機を模索している裏で、貴族学校に通えている弟は、ミアをゴミを見るような目で見ていた。
特に肌を露出する、父親が無理矢理着せたドレスの時には。
まるで、ミアが好んで、好色な権力持ちジジイに媚びるために、そんな服を着ているとでも思っていそうだった。
それぞれに事情があって、ミアにも悪いところはあったのだろう。
それでも、ミアには辛い記憶で、繰り返されることによって、そうなるに違いないとさえ思える経験だった。
いつも必ずミアは一人ぼっちだった。
親のために、家のために、家族のために、頑張れば頑張るほど一人だった。
それが、今は親友の腕の中で、まるでミアを取り合うかのような会話を聞いている。
親友はミアに感謝を伝えてくれる。
まるで背後に花が咲いたような笑顔で。
彼女は侯爵令嬢で、次期公爵夫人だった。
あまりにも身分に違いがあるのに、しかもミアは婚約者のベッドで寝ていた女なのに、アリシアは対等のように接してくれる。
あまりにも自然にミアを見てくれ、受け入れてくれる。
それはミアが長年、ずっとずっと幼い頃から欲しかった無条件の愛に近かった。
ミアはぎゅうっとアリシアに抱きついた。
大切な人をもう二度と話さないように。
「あのミアさん、俺と恋仲になってくれるんだよね?ポジションが違う気がするんだけど……」
クラウスの声が聞こえていないミアの頭を撫でながら、アリシアがふふんと勝ち誇った顔をしていた。
「やっぱり生粋の貴族だ君は!」
クラウスがどう言ってもアリシアの顔から余裕の笑みが消えることはなかった。




