ゴミ処理方法
けれど、オリバーから届いたのは、その一通だけではなかった。
三日後に二通目の手紙があった。
今度はアリシア宛てではない。
王都で最も発行部数の多いゴシップ新聞社へ届けられていた。
そして、その内容は翌朝の紙面を大きく飾った。
『ブラウン家の仕事を実際に行っていたのは、アリシア・グレイである』
記事を読んだアリシアは、朝食の席で動きを止めた。
「……そう来たの」
記事には、オリバーの証言としていくつもの内容が掲載されていた。
ブラウン家の事業に関する書類を作っていたのはアリシアで、取引先との調整をしていたのもアリシアで、問題が起きた際に処理していたのもアリシアだった。
それ自体は、ほとんど事実だった。
だからこそ、厄介だった。
記事の最後には、こう書かれている。
『ウッド男爵との関係が疑われるブラウン家。その実務に深く関わっていたグレイ侯爵令嬢は、本当に何も知らなかったのだろうか』
アリシアは新聞を置いた。
しばらく黙っていた。
「……あの馬鹿」
低い声が漏れた。
手の中のカップが怒りでカタカタと揺れ、悲鳴をあげる。
(やっぱり徹底的に私の手でぶっ潰してやろうかしら……!!)
「グレイ嬢」
聞き慣れた声がして顔を上げる。
いつの間に来たのか、エドガーが立っていた。
「大丈夫ですか?」
「シルバー子爵様、気が付かず申し訳ありません。ええ、私は大丈夫です」
アリシアは立ち上がって礼をした。
「事実関係を整理して、私が説明すれば……」
「それです」
「何でしょう?」
エドガーが、珍しく少し険しい顔をしていた。
「また全部、一人でやるつもりでしょう」
「……だって私のことですもの。それにこんな低俗なこと、皆さまのお手を煩わせるまでも……」
「いえ、違いますよ」
きっぱりと言われた。
アリシアが目を瞬く。
そして気がついた。
気がつくスピードが遅れすぎていた。
(この色ボケ!シルバー子爵様は、女性の居住エリアにノックもなく来られないし、それを詫びないこともないわ!)
「そうですね……、何か違うようですね」
「……クソ、勘付かれたか」
「クソはあんたよ!」
エドガーもどきがアリシアに手を伸ばすと同時に、アリシアは紅茶のポットをその顔面にぶん投げた。
「熱っーーー!!!」
続いて椅子を振り上げた。
そう、アリシアは裁判に備えてさまざまな情報を手に入れた。
そして今はクリニックで働いている。
どの程度なら治療魔法で治せるか、事例を知っている。
「ぬぐぁあ!!」
椅子の背もたれを持って男にぶつける。
鳩尾から下半身の始めにかけて、木製のふちと脚が叩きつけられ、エドガーもどきは下半身の始めを抑えて丸まって床に転がった。
(続いて出来ること!とにかく動きを抑えないと!)
アリシアが迷っている内に、寮のドアがバアアァーン!!と派手に開いた。
「アリシアさ……!このクソ野郎……!!!」
職員の朝食準備のために廊下を歩いていたミアが駆けつけた。
そして床で死にかけの蝉のように足をジタバタしているエドガーもどきを見つけると、今まで見たこともないほど鬼の形相になって罵った。
怒りが溢れ出る勢いで、靴で顔面を踏みつける。
「んぐぅ!」
男がミアの脚を掴むが、ミアは怯まずに体重をかけ続け、エプロンからバッサァと何か大きな袋を取り出し男に被せると、アリシアを見た。
「!」
声を出すより先に、視線で意図を察したアリシアは、ミアと反対の端を持った。そして二人で踏んだり踏んだり蹴ったりしながら、男を袋に収納した。
袋が、何かを収納したと検知すると自動的に高速で縮む機能が付いた魔具だったために出来たことだった。
「ミ、ミア。これは……?」
肩で息をしながらアリシアが尋ねると、ミアは鬼から人間に戻り、心から心配そうに言った。
「アリシア様!ご無事ですか!?オリバーに何もされていませんか!?」
「オリバー!?やっぱり!」
未だミアの足に踏まれ続けている小さな袋は、魚を入れた網のようにピチピチしている。
「あーあ……。どうしましょうこれ、うっかり踏み潰して良いかしら」
「ミア!ミア待って!こいつ相手に過剰防衛と言われるのは癪すぎるわ!」
「ちっ、命拾いしましたね!」
「レディーたち!どうしました!?」
「アリシア様!ミア様!」
「大丈夫!?」
続いてドドドっと雪崩のようにエドガーとエリス、フレイヤ、看護師たちが現れた。
「警備の魔具から緊急の通知があ……、これは??」
「仕入れの際に、肉屋のマークさんから預かっていた、精肉移送用空間拡大巾着で、腐った肉を封入してしまいました。ちょっとゴミ捨て場に行ってきます」
棒読みで言うミアに、アリシアがブンブンと顔を振る。
「だめだめだめミア!袋はマークさんに返しましょう!」
「そうですね!借りたものは返さないと!中身は捌いてもらえばいいですしね!」
「待って待って!」
アリシアはミアの手をぎゅっと両手で握りしめた。
「ヤるなら、他人を巻き込んじゃいけないわ。二人でヤりましょう!」
「アリシア様……!」
二人が結束を固めている横で、待っていられないという呆れ顔をしたエリスが、座り込んでツンツンと巾着を突つき、中を見た。
「……粗大ゴミですね」
フレイヤも屈んで中を見る。
「ん〜、一応ナマモノですから、感染予防に加熱処理してから捨てた方が良いのではないでしょうか?」
巾着は一層ビチビチと跳ね回った。
「あ!エリスさん!例のちょん切る器具を貸してください!」
ミアが輝く笑顔と共に言ったセリフで、巾着はクッタリと動かなくなった。




