和解
更にハラハラするお茶会は続いていく。
王族の皆様はお忙しいので、三十分も時間を取れれば良い方だ。
そろそろ一時間になろうとしていたので、アリシアの胃が酸で溶ける前にどうにか終わりそうだと思っていたが、国王陛下は第二王子に、感想を求めた。
アリシアは人生で初めて肝がヒュンと冷えると全身が寒気で総毛立つのを知った。知りたくなかった。
(陛下!分かってますよ!浮気と一括りに出来ないのは重々分かりますよ!でも側室の子にこの話題の感想を聞かないで陛下!)
「本当に『男性って愚か』ですね」
王妃様が夫を牽制するような助け船を出された。ふわふわした笑顔はそのままに、ティアラの先から何か吹雪みたいなものが出ているように思う。
(そう!そうですよね!)
アリシアとミアは壊れた人形みたいにブンブン頭を振って頷いた。
続いて第一王子が発言する。
「ええ、愚かな男たちのせいで女性たちが傷ついたことには同情します」
その言葉にアリシアはわずかに違和感を覚えた。
同情というどこか他人事の響きに、王族だから当たり前ではあるのだが、視点が上すぎるような、母親とは違い寄り添っているのとは違う、やはり理解は得られていないような感覚があった。
(まあでも仕方ないわね、この短期間で新しい価値観に変更するというのは難しいもの。男性でしかも古い考えの貴族に囲まれていて、『王位継承者たる者、安易に他人の言葉に流されるな』と口酸っぱく教育されているでしょうし)
しかし第一王子は父親に似て地雷を踏む癖があるのか、続けて言い放った。
「ですが、少々騒ぎすぎでは?」
空気が止まった。
王妃様の目が細くなる。
クラウス殿下も表情を消した。
兄さん何余計なこと言ってんの!?と言うように小さく動いてしまった視線を固定し、開きかけた口をギュッと引き結んでいた。
第一王子は気づいていないのか続けて話す。
「正直、貴族社会では昔からあることでしょう。ウッド男爵の性的ビジネスは女性の奴隷貿易とも捉えられて問題ですが、『どこの王家も側室がいます』し、切り離して考えた方が良いかと。
確かにオリバー・ブラウンはやりすぎましたがね。
これ以上騒ぎが大きくなると、加熱したマスコミによってグレイ嬢やスミス嬢や証言者の方々がまた悪いように書かれるなどの被害も考えられますし、市民の意識も一定変化があったと思うので、そろそろ鎮静化させながら、性的ビジネスについて法整備を整える方向に舵を切っていくべきではないでしょうかね」
彼なりに弟を庇おうとしたのかもしれないし、多忙な王族の業務の注力優先度としては合理的なのかもしれないが、あまりにも招待客であるアリシアとミアへの配慮が抜けていた。
「それは違います」
ミアが、はっきりと言った。
部屋が静まり返る。アリシアが目を見開いた。
(ミア〜〜!何を言い出すの!?)
だがミアは止まらなかった。
「ウッド男爵のビジネスだけが問題なのではありません。男性たちの『浮気程度』のために、女性が安心して生きられないのは、鎮静化という言葉で黙らせられていい問題ではありません」
その声は震えていた。怖いのだ。
当然だ。相手は王族でしかも第一王子殿下だ。
だが、それでもミアは言葉を続けた。
「女だからって黙れって言われて、我慢しろって言われて、傷ついても仕方ないって扱われて」
ミアは第一王子アルベルトを真っ直ぐ見た。
「それで人生が壊れる人がいるんです。生きていても死んだと同じです」
その瞬間、王族の従者の一人が鋭く声を上げた。
「無礼であるぞ!!」
ミアの肩がびくっと跳ねた。咄嗟にアリシアがミアの上に被さる。
「第一王子殿下に向かって何たる――!」
「黙れ」
国王陛下が低い声で命じた。
怒鳴るわけではなかったが、一瞬で空気が凍った。
国王は従者を見もせず言った。
「今、口を挟めと言ったか?」
「も、申し訳ございません!」
従者が青ざめて下がる。
国王はミアを見る。
その目は、どこか誇らしげでもあった。
アリシアがハッとしてそろそろとミアの上から退く。
「スミス嬢」
「は、はい……!」
「よく言った」
ミアがアリシアに潰された姿勢のまま固まった。
国王はゆっくり頷く。
「王族が誤ったことを言った時、それを諌めるのもまた、貴族の役目だ」
アルベルトの眉がぴくりと動いた。
国王は横にいる息子を見た。それは今までのちょっと鈍感で、でも親しみやすくて民に優しい王様ではなく、とても厳しい顔だった。
(ああ、陛下は本当に息子二人に次代を考えてほしかったのね)
「アルベルト、お前は自分が何故その発言をしたのか、一度考えろ」
アルベルトはしょげた犬のような顔で、ミアに向けて頭を下げた。
「ひいいえ!全然全然!やめてくださいそんな!」
ミアは高速でブンブン手を振っていた。
クラウスが、ふっと笑う。
その笑みは柔らかかった。




