胃が痛いお茶会
「レディたちには急に呼びつけて申し訳なかった。王からの用件として書くと命令のようになってしまうので省いてしまったが、礼を伝える他に、次代を担う若者同士交流をしてもらおうと思ってな。
王妃が言ったように、城中の者や高位貴族たちも頭が古い者が多い。
アルベルトとクラウスに正しい知識を身につけてほしいと考えたのだが、まあ堅く捉えなくて良いぞスミス嬢、ただの茶会だ、茶会」
王がガハハと口を開けて笑う。
王の手前のテーブルに置いてあったベルを鳴らすとすぐにお茶が運ばれてきた。
ガハハと笑う王は親しみやすく、今回の件でも以前のコーヒーハウスの件でもかなり臣下や民の声を重視してくれるように思う。
王妃様は国王の隣でニコニコしている。謁見の際は涙まで流してくれる共感性の高い優しい方のようだ。
その息子の第一王子は王妃によく似ているが、目が国王に似ている。
アリシアも高位貴族の令嬢として、多忙な仕事の中でも幾つか断りきれないパーティーに出た際などに第一王子の噂は聞いていた。
外国語が複数出来、社交が得意らしい。国内ではなく魔法技術に秀でた外国に留学していたが、どうやらそこでの成績も優秀だったそうだ。
その隣にいる側室の子の第二王子はやはり目が笑っていない。彼も第一王子とは別の外国で良い成績を修め、射撃や剣術なども得意らしいし、アリシアには専門外だが軍事や防衛について相当な知見があるらしい。
(あれ、いや待って。)
第二王子のなんとも言えない怒りというか不満は、アリシアとミアだけでなく、恐らく国王にも向かっている。
何かこう、もし感情に色があったら第二王子からモヤモヤしたものが王に向かって漂っているに違いない。
さすがにオリバーのように、大っぴらに不満を表すような、子供っぽい真似はしないが、明らかに苛立っている。
(いやそうよね!?そうだわ!『この世の中の流れ』は『側室の子』である第二王子には居心地が悪いのだわ。貴族はそういう嫌がらせだの嫌味だのが好きなのだもの!それを作ってしまった私たちは、クラウス殿下にとって会いたくない相手に違いないわよ!
お父さんそれなのに、正室と正室の子まで連れて仲良くしなさいって!?クラウス殿下からしたら嫌に決まってるわよね!?)
ミアを見ると、ミアはなんだか共感しているような表情をしていた。目が虚無を映している。
どうやらアリシアと同じ境地に達したらしい。
(子供の気持ちがわからない親……?豪快で突き進む親……?もしかしたらミアには共感出来るところが多いのかしら)
バチっとクラウス殿下と視線が合った。これだけ見ていれば自然と合ってしまう。逸らすのも失礼だし、なんとなく会釈をする。
クラウス殿下は小さく頷いた。
何とは言えないが、怒りのオーラが少なくなった気がする。
(そうなんです、困った親なんですとでもいう感じね……)
「……?どうしたの?三人とも、なんか三人の世界が出来てる気がするけど」
レイナルドがキョトンとしていた。
◇◇◇
話題は今までの男性優位で貴族が絶対的権威を持っていた社会を過ごしてきた世代が軽視している、女性を性的娯楽として消費することがどのような危険があるのか、女性の心身や、ウッド男爵のような外国も巻き込んだ性的ビジネスの脅威などの概要をおさらいするようなものだった。
謁見や裁判のために、エリスの模擬練習やフレイヤによる表には出ていない有力近隣国の取り組みなどを頭に叩き込んでいたアリシアとミアにとって、話すことはなんともなかった。
話すことだけならなんともなかったのだが、浮気を否定する話を側室の子の前でするのは心理的にダメージがあった。
しかも正室と正室の子も同席している。
王家の血筋を残すというのは一般市民とはまた別の意味がある。
側室の存在も一概に否定は出来ない。
ましてや側室の子に何の罪もない。
(キツイ……、せめて側姫様はいらっしゃれなかったのかしら。いや浮気を否定するお茶会を側姫様の前では出来ない……。クラウス様をお呼びしないという手はなかったのかしら。何か適当なお仕事を入れるとか出来なかったのかしら)
「私はね、二人の王子が共に国を支えてくれるよう願っている。王家と言うと争いがある国もあるが、我が国は私と法務大臣の弟もそうだが、今までは比較的穏やかに過ごしてきた。
これから魔法技術が発展し、商人が力を持ち、ビジネスが加速する新たな時代を、二人で協力して乗り越え国を栄えさせてほしいと思っているんだ。」
国王陛下はうんうんと頷きながら言った。
「クラウスにはね、仕事が入っていたのだが、これから益々女性の力は必要となるだろう。
君たちのように権力に屈せず忖度なく発言出来る女性の意見は貴重だ。
秘書に仕事をずらしてもらって。今日は同席してもらったんだよ」
(陛下ーー!それ多分秘書が気を利かせて入れた仕事です!)
アリシアがブリキの人形になったように、ギギギっと視線を向けると、ニコニコしている両陛下と第一王子と違い、クラウス殿下は遠い目をしていた。




