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王族大集合

 王城は輝くように白かった。

昔々に石を積み上げて造られた外壁は、特殊な魔法によって劣化を抑制しており、その魔法と石材の白色に光が反射して、キラキラと小さな光が城を覆っているように見える。


 磨き上げられた白大理石の床。

 緻密な絵画が描かれた高い天井。

 重厚なカーテンに巨大な窓。

 そして、息が詰まるほど整えられた空気。


 ミアは完全に縮こまっていた。

「無理です……」

「三回目よ、それ」

 アリシアが小声で返す。


「だって!! 床がもう高そうです!!この石の方が私の生涯年収より高そう!踏むのが怖い!」


「床の感想初めて聞いたわ」

レイナルドは楽しそうに肩を震わせている。

「可愛いわねぇ」

「レイナルド様は何でそんな余裕なんですか!?」

「ああ私はね、王妃様のお茶会に呼ばれたことあるのよ」

「さすがレイナルド様」


ミアが尊敬の文字を目玉に浮かべているので、レイナルドは苦笑した。

「『女の服を作る変な男がいる』って興味を持たれただけよ、そんなにキラキラしなくて大丈夫」

「でも!」


 その時、案内役の従者が恭しく頭を下げた。

「こちらでございます」

巨大な扉が開かれる。

中は、想像していたような謁見の間ではなかった。

もっと小規模だが、その分だけ距離が近い部屋だった。


 長いテーブルに暖炉、こちらは飾りだろう。壁際には本棚。

 まるで家族用の応接室のような空間。

きっとカジュアルな会ということを演出したいのだ。政治的利用ではなく、王家は心からミアやアリシアを心配して、活躍を応援しているのですよという。


 そしてそこに座っていた人々を見て、ミアがぴしりと固まった。

両陛下とこんなに近い距離で会うことなど、一代限りの男爵令嬢であれば、本来あり得なかった出会いだ。

生まれた時から侯爵令嬢として育てられたアリシアとでは、緊張の程度が数段違う。


 中央に座している国王は、五十代半ばほどだろうか。

黒髪に銀が混じり始めている。

だが目は鋭く、まだまだ生気に満ちていた。


「よく来てくれた」

 三人がドレスで、レイナルドも含めてドレスで礼をしているのを見て、国王は穏やかに笑った。

「楽にしてくれ。今日は形式ばった場ではない」


 その瞬間、ミアの肩が少し下がった。

分かりやすい。アリシアは少し笑いそうになる。


ミアが少しでも安心したなら良かった。


 「陛下、本日はお招きいただき光栄です」

「うむ」

国王は二人をじっと見た。どこか、労わるようでもある。

「まずは礼を言おう」


「……礼、でございますか?」

 アリシアが目を瞬かせる。


「そうだ。二人はよく声を上げた」

 部屋が静まる。


「貴族社会は長く、見ないふりをしすぎた」

 国王は低く言った。

「特に女性たちの苦しみについてな」


 ミアが少し俯く。


 国王は続けた。

「今回の件は、国としても看過できん。特にウッド男爵による女性売買のネットワークは他国にまで網が広がっている。

同意なく巻き込まれた女性の身体的心理的苦痛は計り知れない。

皮肉だが、他国まで巻き込んでいることで、男尊女卑な思考の男性たちも経済的視点からこちら側に巻き込めるだろう。

経済的にも良くないことだし、我が国の信用問題にもなる。私は我が国の女性たちの奴隷貿易で栄えたいなどとは思わない」


 王妃が国王の視線を受けて言葉を続けた。

「女性たちが担っている役割について、私がもっと国民に背中を見せるような活動が出来たら良かったのですけれど、残念ながら世の中の変化スピードに着いて来られない古い価値観の人々の目を覚ますことができませんでした。

 女性は飾り物でも、子供を産んで育てるモノでもありません。勿論国として次世代を産んで育ててくれることは尊いことです。

けれど、決してそうでなくても、女性たちが軽視されていい存在ではない。ましてその身体や心を傷つけられていいなどということはありません」


 「ドレスを着た」レイナルドが、「女性たち」という言葉を受けて、両陛下の礼の言葉に返事をした。

「両陛下、有り難いお言葉でございます」


 これは公式にアリシアとミアへの礼を伝える会となっているようで、王家付きの報道担当者が一通りメモや写真を撮り終えると、従者によって退出させられて行った。


 ミアが空気の抜けた風船のように、緊張という湯気を頭からぷしゅうと放出しているように見えた。


 マスコミが去るのと入れ違いに、今度は城の内部の方に通じるドアが開いた。


「失礼します」

入ってきたのは、二人の青年だった。

片方は金髪で片方は黒髪だった。

雰囲気はまるで違う。


 金髪の青年は、柔らかな笑みを浮かべていた。

青い軍服のような装飾のスーツがよく似合う。

姿勢が真っ直ぐで、目にも知性があった。


 対して黒髪の青年は、美しい顔立ちをしていたが、首元まで覆った黒いスーツと同じく、何かから距離を取りたいような印象があった。

口元には薄い笑みを浮かべているが目は笑っていない。


 「第一王子アルベルトです」

金髪の青年が穏やかに礼をする。

「お会いできて光栄です、グレイ嬢、スミス嬢、ロゼット殿」


 ミアは二人の王子の登場という更なる緊張に、こっそりとアリシアに距離を近づけており、アリシアもこっそりミアに寄っていた。

王子の挨拶を受けて、ミアはアリシアの腰あたりの飾りをぎゅっと握って耐えていた。


 アリシアが王子の言葉に礼をしながらチラッとミアを見ると、顔が全力で心情を物語っていた。

(王族がこんなに……!無理無理無理!!)


目がキョロキョロしないように見開いて、唇をぐっと引き締めている。顔は血の気が引き、礼から顔を上げた瞬間によろめきそうになっていた。


 「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

「は、はいぃ……申し訳ありません」

アルベルトの余裕ある優しい言葉に、ミアは恥ずかしさなのか今度は真っ赤になっていた。


 そして黒髪の青年が、ゆっくり口を開く。

「第二王子、クラウスです」

声は低く、静かだった。

垂らした前髪が優美で、今起きたことだけを見れば美しく丁寧な素敵な王子様だ。


 だがアリシアは本能的に察した。

この男は今この場にいることに不服なのだと。


 ミアも少し身を固くしている。

言語化が難しいが、クラウス王子はミアやアリシアが気に入らないようだ。

何か敵意を感じた。


 アリシアがミアを庇うように一歩前に出る。王城で王子を相手にトラブルを起こすわけにはいかない。


ここは侯爵令嬢としてミアよりは登城経験があるアリシアがなんとかしなければ。そうアリシアは決意した。


アリシアは明確な目的が分からないまま呼び出され、王城にしては些か狭い部屋で、王族四人に囲まれて、足がガタついていることなど微塵も感じさせずに、侯爵令嬢らしい人形のような微笑みを浮かべた表情をキープしてみせた。

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