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レイナルドの器

 王都は、新しい話題に完全に浮き足立っていた。

 新聞売りの少年たちが、朝から声を張り上げて走り回っている。


「大貴族!公爵家の醜聞だよーッ!!」

「女性売買に暴行!次期公爵失脚か!?」

「法廷で婚約破棄宣言!氷の才女の大逆転ー!!」


 「氷の才女が定着し始めてるじゃない……」

寮のキッチンで鍋をかき混ぜながら、アリシアはげんなりした顔をした。


 「でも格好良いですよ?良いじゃないですか。これからは格好良い女性の時代ですよ〜」

そういうミアはテーブルで新聞を広げている。

仕入れはミアの担当で、価格交渉や多めの備蓄が必要かなどの仕入れ時期判断のため、市場動向チェックは欠かせなかった。


「冷血令嬢みたいに思われないかしら、パン屋としては温かいイメージで行きたいところなんだけど」


 「それは実際に会った時にギャップ効果にしたら良いんじゃないかしら?」

職員ではないが、もうすっかり馴染んでしまったレイナルドが、ミアの向かいで優雅にコーヒーを飲んでいた。

「ハードルの高さを考えたら大成功よ。世論は王妃陛下、そして貴方たちに寄り添う方向に動いている」


 その通りだった。

今まで、『少し遊びすぎた』『浮気程度』『多少の過ち』程度に捉えていた層まで、真面目な顔で「許しがたい行為」と言っている。


本心であれ、王妃陛下の涙という権力や、貴族男性より圧倒的な数がいる一般市民の怒りの感情を恐れただけであれ、これはこの国や口を噤まされてきた女性たちにとって非常に良い変化だった。


 特に影響が大きかったのは複数の新聞や雑誌が載せた、

【被害女性が出廷、録画による事実確認と証言】という記事だった。

二人が実際に証拠を以って、証言をしたことで、【ミアとアリシアが特殊であり、目立ちたがりなだけ】という意見を封じていた。


 実際、今朝だけで自らコメントを載せたいと出版社に申し出た貴族男性たちによる「実は以前からウッド男爵は危険だと思っていた」「私は関係していない」「若者への教育方針には疑問があった」などという短いインタビューが、いくつも出ていた。


 「掌返しが早いわねぇ、昨日まで一緒に酒飲んでた癖に」

レイナルドの声は低かった。


 ミアが新聞をめくり、「あっ」と声をあげた。

「どうしたの?」

「レイナルド様の記事がありますよ!」


 ミアが広げて見せた紙面には大きく、

【女性が動ける服を――レイナルド・ロゼット氏のブランド、新作発表会開催!】と書かれていた。


「あら、色の映りも良い感じね」

レイナルドがパッと雰囲気を明るくし、目を細めた。


 「コルセット不要、活躍する女性向けで動きやすさ重視、女性職人による製作……。これは!凄いですレイナルド様!これ本当にコルセットなしですか!?可愛い〜でもお子様っぽくないですね!クラシカルで上品な雰囲気のまま動きやすくて可愛いなんて、欲張りセットですね!!」


「とても良いタイミングではないでしょうか!素晴らしいですレイナルド様!あのモモヒキ公爵の影響なんか紙屑以下ですね!」

ミアが目を輝かせ、いつもよりも更に饒舌に話した。


 「ええ、私は絶対二人が世間を変えると思っていたもの。女性の自立とか働きやすさに世間の注目が集まっているタイミングを狙って用意していたの。読みが当たったわね」


「レイナルド様……」

会場を借りてのショーとなれば、世の中がこのように変化してから用意するのでは遅すぎる。

レイナルドは本当にアリシアとミアを信じてくれていた。


穿った見方をすれば、レイナルドなら世の中がどうであってもその才で乗り切れたのかもしれないし、この場限りの言葉かもしれないが、だとしてもアリシアは嬉しかった。


アリシアもレイナルドを信じていた。信じられるようになっていた。


 その時だった。師長の女性がアリシア宛に届いた郵便を持ってきてくれた。

「アリスちゃん、王城からよ。今手渡しで受け取ったわ」


「え?」

 アリシアとミアは顔を見合わせた。


ちなみにアリスはアリシアの偽名だ。

具体的な脅威は分からないけれど、アリシアたちの居場所は公にバレていて、魔法による盗聴や盗撮騒動もあったため、念のために偽名を使うことにしている。


「ええっと、本日午後、王城へお越しいただきたい……。え!?今日!?」

「王城!?」

二人の声が裏返った。


「理由は?書いてないわねぇ、不親切な……」

「最近の件について、王家がアリスとミリシャと仲が良いところを見せて、より市民の好感を集めておきたいのかしらね」


 ちなみにミアは偽名を考える際にフレミアを希望していたのだが、フレイヤとの呼び間違い聞き間違いが多くなって、夕食時に新しいミアの偽名付け会があってミリシャになった。


 ホワイトボードに案を書いて投票し、多数で決める会は、アリシアが今まで経験した学校生活のどの会議よりも穏やかで、面白かった。


 「あら、付き添いを連れて行って良いのね、じゃあ勿論私が行くわ!二人とも可愛いドレスを用意するから、一緒に行きましょう」

レイナルドが忙しいだろうに付き添うと言ってくれ、ウインクを飛ばした。

ミアはレイナルドに嬉しさを爆発させて抱きつき、アリシアも有難うございます!と頭を下げた。

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