今夜はピザパーティーです
検察官が問う。
「グレイ嬢。貴女は、オリバー・ブラウンが女性に対して不誠実な関係を繰り返していたと証言するのですね」
「はい」
「それは噂ではなく、貴女自身が確認した事実ですか」
「はい。私自身がオリバー様に代わり謝罪対応をした女性だけで十名以上おります」
ざわめきが走った。
「十名……」
「あんな行いを……十名以上……」
「謝罪対応について具体的に教えてください」
「薬の手配、医師への付き添い、縁談への配慮、口止めではなく、その女性がこれ以上傷つかないための調整等です」
「つまり、オリバー様の行為によって実際に被害を受けた女性が複数いたと。オリバー様と女性の合意ではないため、貴女が謝罪や調整をする必要があったということですね?」
「はい」
「弁護士だけでなく、何故婚約者の貴女が対応する必要があるのですか?貴女が正妻になるのだという強調でしょうか?」
アリシアは一瞬だけ目を伏せた。
「私が女性だからです。ここでオリバー様が出てい行って、お相手を怒らせて叩かれでもした場合、次期公爵に暴力を振るった被害女性の方が悪くなります。
でも私なら、女性同士の嫉妬からのケンカに出来ます。
弁護士の先生お一人に任せなかったのは……」
アリシアは沈黙した。
真実に誠実な対応をしていないと言外に指摘され、怒りと羞恥で顔をまだらに赤く染めている弁護士を見た。
「オリバー公子に圧倒的に非があるため、弁護士の先生が、お相手に有利すぎる条件を呑んでしまうことを防ぐためです。
いっそ被害者の方が私という責めやすい対象に怒って手をあげ、お相手にも非があるように話を持って行きたかったのです、ブラウン公爵は」
最早ざわめきも起こらなかった。
その沈黙は、目の前にいる少女が、完璧な令嬢でも目立ちたがりでも、元婚約者の所業に怒って感情的になっている女性でもなく、被害者の後始末を押し付けられた、もう一人の被害者なのだと理解した凪の時間だった。
弁護人は額に汗を浮かべていた。
「し、しかし、グレイ嬢。貴女の証言は、婚約破棄による私怨が混じっている可能性が――」
「その可能性を考慮していただいて構いません」
アリシアは即答した。
「ですので、どうぞ私の証言だけを証拠にしないでください。
今後の捜査では私が彼女たちに付き添ってかかった医師、薬師、当時の馬車などの記録、ブラウン家から出た見舞金記録、オリバー公子の隠し魔記録。必要であれば、すべて調べてください」
その目を見て、アリシアははっきりと言い切った。
「オリバー公子、ブラウン公爵、そして私が損なってきた女性たちの名誉を、取り戻してください」
法廷は、水を打ったように静まり返った。
その後の質問に答えきったアリシアは、美しい姿勢のまま証言台から降りた。
◇◇◇
静々と退廷し、人通りのない廊下に来ると、スカートをたくしあげて短距離走の勢いで救護室に向かった。
「ミアっ!」
「アリシア様!」
スパァン!とスライド式のドアを開け、スパイのように転がり込む勢いで入室した。
ミアは起きており、アリシアを見留めて今にも飛びつきそうな顔でこちらを見ていた。
「大丈夫?ごめんなさい負担を掛けてしまって」
「全然ですよ!それにアリシア様のせいではありませんよ。どうなったんでしょう、あの馬鹿公子はコテンパンになりましたか?」
「弁護士まで口を滑らせて馬鹿息子って言ってたわ」
「ええ〜!凄いですね!明日の新聞『弁護士まで馬鹿息子と認める』って見出し出ますね」
アリシアは小さく笑った。
「本当ね、また新聞沙汰だわ」
「いやぁ、今日は体力使いました〜。ピザ焼きませんか?ほら八百屋のジョンさんの息子さんが、田舎で野菜を育ててる敷地の側に小さい釜を作ったって言ったじゃないですか。あれ貸してくれるって約束したんですよ」
「さすがはミアね!」
今夜はピザパーティーだ。




