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型破りな枢機卿に会いに行きましょう!

 時は遡って数日前。


 アリシアは教会に赴いた。正しくは教会の総本山にだ。

この国は一神教で、教会は、王族、貴族と同等の権力を有していた。


 その理由は、国民の信仰心の高さゆえに寄付が多く集まっているということや、オリバーやウッド男爵のようなクソ貴族が、己の行いから地獄に落ちるのを怖がって寄付を多くしているということなどもあるが、最大の理由は一つだった。


貴族相手に金貸しをしていたからだ。


◇◇◇

 貴族がそこら辺の金貸しから金を借りることは出来ない。

物理的には可能だが、もし反社会的勢力が運営するような金を借りようものなら、一気にその貴族が管理する領地そのものが価値を失う。


明確な理由が分からずとも、人々は、金貸しから借金をするほど困窮している貴族の領地に魅力や将来性があるとは思わない。


どれだけ社交パーティーに出ようがお茶会に行こうが、出資も投資も得られず、むしろ縁を切られていくようになる。


 貴族は評判と信頼で生きている。それは領民の生活にも直結する。


 だから貴族は教会に寄付をするふりをして金を借りに行っていた。


 この制度を考えたのは、今の枢機卿=教会のトップのご老人が跳ねっ返りの若人だった頃だ。


 教会が力を付け過ぎることを快く思わない貴族の弱みを握り、宗教という性質上大手を振ってビジネスを展開することが難しく、金を集めづらいという自らの弱点を克服した。


 古い教会や乳幼児養護施設は修繕され、貧民街の炊き出しは増え、路地裏の清掃ボランティア活動なども出来るようになった。

 貴族に物申せるようになったので、上記のような領地の代官や貴族にも改善を促せるようになった。


 ただし、金貸しというのは回収出来なければビジネスモデルとして成立しない。


 どうしたかというと、跳ねっ返りの若人だった現枢機卿は、牢獄や犯罪者の温床に直接出向いて、職がないために犯罪をせざるを得なかった、更生の意思のある者たちを直接スカウトしてきた。


 教会付きの回収人にしたのだ。死罪や終身刑でない以上、牢屋を出たならば犯罪者にも更生の機会がないと、また犯罪をするしかないので、教会が職の斡旋をして助けたという建前だ。


 跳ねっ返りとは言え、枢機卿は本音で彼らを救いたいとも思っていた。


 その頃の、あまりにも杜撰なというか、旧態依然として金稼ぎは良くないと言うばかりで、資金が目減りして、結局養護施設や古い教会の職員などに皺寄せが行っていることを理解しない教会の態勢に反発して改善しただけだった。


 しかし教会と元犯罪者が手を取り合うというビジネスモデルを、国が警戒しないわけがなかった。

教会は、どこの誰にどれだけ貸して、いつ頃誰から幾ら回収したかを法務大臣に報告することを義務付けられた。


 そして常に悪徳高利貸しとならないか国から見張られることになった。

これにより元犯罪者たちが再犯をすることが物理的に難しくなり、結果的に全てうまく行った。


 この功績を認められたことが特に大きく、他にも既存の考えに囚われない発想で教会改革に留まらず、国民の生活改善に尽力した跳ねっ返りは、枢機卿にまで上り詰めていった。


◇◇◇


 かつて、犯罪者の巣窟に足を踏み入れ、彼らの身の上話を聞いてスカウトしていた跳ねっ返りは、犯罪者たちに反発されて攻撃されることもしばしばだったそうだ。


 枢機卿の顔や首周りには傷跡が多く、初めて会う人はギョッとすることが多い。

しかしこの枢機卿、今まで無敗とのことで、悪人の巣に度々赴いてここまで生き残っているのだから当然だが、物凄く強かった。


老齢となった今でも、胸筋は厚く、白い衣装を押し上げており、姿勢は鉄骨でも入っているのかと思うほどまっすぐで、最早軍人のように見える。


 そんなムキムキおじいちゃんだが、何度も言うが、根は優しいのだ。

困っている人を救いたいという気持ちは本当で、そのため領内の孤児院の修繕や従業員の労働環境の整備や、里親事業を積極的に行っていたアリシアには非常に優しかった。


 通常、枢機卿という最高位の人物と、侯爵家の令嬢とはいえ、まだまだ貴族の子供の一人に過ぎないアリシアが接する機会は殆どない筈だが、この枢機卿は通常、で縛れる行いをしない人なので、アリシアとは年に二、三回は顔を合わせていた。


◇◇◇


 「ほいほい、グレイ嬢これをお食べ。これはねえ、最近養護施設を出た子達が頑張ってお店を作ってね、そこで今人気のお菓子なんだよ〜」

三本線が走る目尻をにこーっと下げて、枢機卿は自らもぐもぐと焼き菓子を食べていた。


こじんまりとした枢機卿の応接間はテーブルと椅子くらいしかものがないのに、貧相には見えなかった。


 「お忙しい中、お時間をいただきまして有難うございます」

アリシアが深々と頭を下げると、枢機卿は固っ苦しいのはナシナシ〜とガハハと大口を開けて笑った。


 「グレイ嬢は真面目で良い子だが、潰されてしまいそうなほどに真っ直ぐ正しく、自分で抱え込みすぎるきらいがあったからねえ、私を頼りに来てくれるようになって嬉しいよ」

孫を見るように穏やかな眼差しで見つめられ、危うく涙をこぼすところだった。


「それでは、グレイ嬢が個人的な恨みつらみや、自分にだけ都合の良い嘘なんてことは言わないのは知っている。

更にお持ちのファイルは王城で使用されているものだね?どうして外部に持ち出せたのかは聞かないでおこう。

その人物からは早めに『回収』した方が良いということだね」

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