コゲ落としに丁度良いですね
大会議場の大きな扉がゆっくりと開いた。
オリバー・ブラウンが入場すると場内が一気に静まり返った。
裁判長を中心に、半円を描く机に、裁判長の隣が裁判官、その隣が裁判員として貴族から選ばれた男性が二人、それぞれ机の端に座っている。
裁判長は法務大臣だ。この方は王弟殿下でもある。自分は法務大臣として国を支えていくと、権力争いの舞台から自ら退いた人物で、清廉潔白で知られている。
裁判長の後ろには大きな臙脂色の幕が掛かっていて、重大な事件の場合には国王陛下や王太子殿下が座られる席が置いてある。
アリシアはミアの勧めで扇子を持参していた。証人として証言するまでは傍聴席にいることになるが、その際にイメージを守るために口元を覆った方が良いという理由だった。
アリシアはミアがプレゼントしてくれた扇子を喜んで持参した。アリシアにとって友達に貰った初めてのプレゼントだ。本来ならガラスケースに入れて飾りたいところだった。
オリバーカがいつものように戯言を宣ったら、うっかり折ってしまわないかと心配だったのだ。
◇◇◇
面の皮の厚いブラウン公爵が、信じられないことにアリシアを証人として指名したそうで、裁判書から書状が届いていた。
同時にオリバーとブラウン公爵から、文字が読めなかったのかと疑うような内容の手紙も届いていた。雑誌の記事でアリシアたちがエドガーのクリニックにいることは周知の事実だったので、実家を経由することなく直接クリニックに届けられていた。
「お前のせいでブラウン家は多大な損害を被った。損害分は後で請求するとして、まず詫びの姿勢を示す場所を用意してやる。この寛大な対応に感謝し、時期ブラウン公爵夫人としてしっかり夫を立てる証言をするように……」
「ちょっと何言ってるのか分からないですね」
「ちょうど良いからコンロのコゲ落としに使いましょう。固くて良い紙だわこれ」
アリシアは粗目の粉洗剤をコンロにかけて、折り畳んだ手紙の角を使ってゴシゴシコンロのコゲを落としていった。
ミアの言う通り意味が分からなすぎた。この状況でどうしたらアリシアが、オリバーに有利な証言をすると思うのだろうか。
オリバーは言わずもがな、ブラウン家もアリシアを使い倒すだけで助けてくれたことなど一度もないのに、何故アリシアがまだオリバーの嫁になりたいと思っているなどと夢を見られるのだろうか。
公爵という身分だけでそうまで傲慢になれるのならば、アリシアは本気でミアとパン屋を開くために、どうせならこの件を利用出来ないかとまで考えているのであまりにも見当違いだった。
「アリシア様!このメロンパン過去最高です!レシピの黄金比を見つけましたよ!」
「素晴らしいわミア!あとは冷めた後の変化を見ましょう!」
その日もエドガーのクリニック横の建物からは美味しい匂いが漂っていた。




