救世主エリス「豚が人語を話してますね」
「あら、公爵様?公爵様は女性の味方ではございませんの?」
エリスの艶やかな声にアリシアたちはギョッとした。
「あん?平民に発言を許したことはないが?」
ホワイト公爵は最低な態度だ。王様への謁見内容の打ち合わせの当事者に発言を認めなければ、打ち合わせにならない。
「あら失礼。だって公爵様は私みたいな者の雇用について配慮してくださっているみたいでしたので、つい嬉しくなりまして?」
その言葉にホワイト公爵は猿みたいに鼻の下を伸ばした。舐めるようにエリスを、特に胸部と臀部を交互に見ている。控えめに言って土に還れば良いのに。
「そう、そうだ。もし貴様らが女性の権利だのなんだのと言って、紳士の発散場所に制約が出来ればだな、そういう場所の女性だって仕事に困るだろうが!」
「さすがは公爵様ですわ、その辺の男性たちとは器が違いますわね。あの、このような機会ももうございませんでしょう?お近くに座ってもよろしいですか?」
エリスが長い睫毛の下から公爵を窺う。
エリスがキュッと胸の前で手を組んで、胸に谷間が寄るのを、もう溶けそうなだらしない顔で見ながら、公爵は早く側に座るように言った。
(具合の悪いミアは拒否したくせに!スケベじじい!砂糖でベトベトのお湯をぶっ掛けて、すぐに肌から離れないようにしてから、更に砂糖たっぷりの鍋で煮てやるううう!そうよ、私は魔法の成績良かったんですからね!魔女なのよ、魔女!)
頭の中では黒いローブで大きな木ベラを持って、ぐるぐる大鍋をかき混ぜているが、アリシアは奥歯をグッと噛んで平静な表情を保っていた。
「公爵様、皆が公爵様のように寛容で理解ある方ばかりでしたら良いのに。最近のオリバー・ブラウン次期公爵の行いを見ても、未熟な一部の紳士が一括りで貴族の評判を落としているようで、嘆かわしいですわね。ああいう大人の遊び方を知らないと……もっとお勉強をしないといけませんわよねえ」
公爵はまさかの真横に座るようにソファの座面を叩いていたが、エリスは長方形のテーブルの四辺を囲むソファの短辺部分の一人掛けに座った。
その位置は、エリスの脚がスリットから覗く席だ。
そして公爵の指示を無視していながら、畳み掛けるように話し掛け、公爵の行いを持ち上げていく。
「遊びを知らない余裕のない者が、猿真似で身分不相応のことをしようとするから自滅するのだ。もっと男女の付き合いの機微を勉強しなけれなならん」
「公爵様は失敗などされませんでしょうけど、ああいう目立つオイタをした子はまた繰り返したりしますし、そうすると、まあこうして大事になりますからね。
もう少し弁えるように公爵様のような方から言っていただけたら少し、騒いでいる世間も収まると思うのですよ」
「おう、そうだな。まああのオリバーという奴は私も公爵家同士会ったことがあるが、自分では何も出来ないくせに必要以上に自分を大きく見せる悪い癖があったからな。既に駒鳥屋の件に加えて違法風俗店と繰り返しているし……、釘は刺さねばと思うが、ブラウン公爵は自分で刺せぬのか。こんなに新聞社だの雑誌社だの巻き込んで……」
「駒鳥屋の件が一番しくじりましたわねえ、あれで市民に拡散されてしまいましたから。市民感情を収めるために、オリバー・ブラウンのような一部の者と、公爵様のように正しい貴族は違うということを示していただきたいのですわ」
「君は分かっているな。そう、ピーチクパーチク感情的に騒ぐだけではなく、市場を率いる者として、貴族の余裕というものを理論立てて使わねばな」
「私、陛下のような方にお話しできる身分ではないので、とても緊張しておりますの。公爵様、もし何かありましたら助けていただけますか?」
普段のエリスからは想像もできない、子犬のようなウルウルとした瞳で公爵を見つめると、公爵は鼻の穴を広げて、任せておけ!と返事をしていた。
◇◇◇
「エロ豚が偉そうに人語を話してたわね」
「おう!手厳しい!」
ドアが閉まってしばらくするといつものエリスが吐き捨てるように言った。
「エリスさん格好良いです!」
「有難うございます!大人の女性の色香を勉強させていただきました!」
アリシアとミアに続いて、フレイヤが親指を立ててエリスを讃えた。
「別に……、大したことじゃないし。正攻法で話しても豚には理解されないって学んだだけよ」
エリスは白い頬をサッと朱色に染めて照れていた。




