明日王様に会えるそうです
新聞や雑誌を使った暴露合戦は、貴族だけでなく文字が読める平民の間でも多いに話題となった。
最初に、次期公爵夫人で侯爵令嬢のアリシアが、豪商の出身で男爵令嬢のミアと娼館にいたとか、今は産婦人科に匿われているとか、しかも二人がオリバー・ブラウンの婚約者とその浮気相手であるとか、まあ人々の噂の種としては多すぎるほどの情報量が撒かれた。
これはオリバーが、モモヒキ公爵騒動がようやく収まってきたところで、違法風俗店の摘発と共に捕まるという阿呆なことをしたせいで、その火消しのためにブラウン公爵家が記者に売ったのだろうと推測された。
本当はアリシアの実家が雇った魔法使いが小遣い欲しさに売ったものだが、ブラウン公爵家としては都合が良いので特に何も言わずに黙っていた。
だが今度はアリシアと共に娼館にいたとか、オリバーに色仕掛けをしたとか言われていたミアが反撃を開始した。
それは粗悪なゴシップばかり扱う三文雑誌ではなく、経済や世間、市場に影響のある記事を多く扱う雑誌のインタビューだった。
彼の友人であり、女性活動家であるキャサリン・ウインター公爵夫人紹介の、腕が確かな記者が書いたこともあり、ミアの記事は多くの読者の心を捉えていた。
ミアは本来娘を保護する筈の親に、その商売のために売られてしまい、相手は世間で知られている通りのクソ野郎だったこと。
父親は大商人で爵位も持っており、ミアが言いつけに抵抗することで、わざと従業員に影響が出たかのように見せることさえ過去にあったこと。
そもそも体格が良く、強引にブラウン家に連れて行かれ、物理的に抵抗できなかったこと。
ミアが「こんなことをしたくない」と分かっていても酷い扱いをオリバーが続けたこと。
ミアが明らかに被害者であることが誰にでも分かるように書かれていた。
ミアとアリシアの噂については、新進気鋭の服飾師であるレイナルド・ロゼットがインタビューに応じて否定した。爵位の有無では三男なので平民だが、実力と人脈から平民として扱われることはあまりない。
更に彼の友人であり、女性活動家であるキャサリン・ウインター公爵夫人と、アリシアの人柄をよく知るというレベッカ・テイラー侯爵夫人が第三者視点としてコメントを残した。
キャサリンは女性活動家として知られているため、女性擁護に傾きがちだと思う男性読者がいたかもしれないが、レベッカは今までこうした活動をしたことはなかった。
アリシアが取り付けた自領との取引にケチが付くことを懸念して、むしろアリシアの評判を良くしたいと考えたかもしれないが、彼女の視点は非常に冷静で、自領のビジネスのための擁護としては些か弱かった。
アリシアとミアの行動が女性として理解できること、幼さや権力ある者たちに追い詰められたため正しい選択が出来ないというには自然であり、それを責め立てるのは非情であると推測するという簡潔な内容だったz
キャサリン・ウインターは自身が発行している赤走という雑誌でもこの件について取り上げていた。
両雑誌共にセンセーショナルな貴族令嬢たちの性的な事件ではなく、「男性貴族たちによる、女性への暴力や搾取が横行していることへ苦言を呈する」という内容だった。
このような環境下で無事に子を産み育てることができるだろうか。もしも女児であったなら、自身と同じように仕事は朝から晩まで肩代わりさせられ、成果だけ夫が持って行き、その上暴力まで振るわれるのだ。そんな未来に希望など抱けない。
また国を繁栄に導くための貴族男性たちがこの有様では、女性だけでなく一般市民の男性としても、この国の行末を憂慮してしまう。
「この現状が変わることを強く願う」と記載された。
貴族男性たちと一括りにされてはかなわないと苦情があるだろう記載について、フレイヤによる詳細な反論があった。
かつて握り潰されたそれは、王城での貴族による暴力事件として、アリシアやミアたちよりも注目を浴びることになった。
◇◇◇
「明日、王様に謁見出来る?」
エドガーの知らせにミアとアリシアは驚いた。
エドガーから聞かされていた日程が三ヶ月も前倒しになったのだ。
「いやあ、君たちの記事の内容、特にフレイヤさんの王城のゴシップについて、王家としても早めに手を打ちたいんだろうね。これからオリバー・ブラウンや女性たちを斡旋していたクソ野郎どもの裁判もあるしね」
エドガーは大分疲れているように見えた。礼儀を知らない記者の突撃や、患者たちから実は私も……という相談の増加に加え、ランチや一休みのために立ち寄ったカフェやコーヒーハウスでは貴族男性たちからの反論対応があってハードな日々になっているのだ。
「申し訳ありません、ご迷惑をお掛けしてしまいまして……」
アリシアが椅子から立ち上がって深々と頭を下げた。ミアもそれに続く。
「いえいえ、特にフレイヤさんについては、僕もカルテの記録について相談された時からもっと早く動いてあげられたことがある筈だしね。これはこの国にとっての転換点ですよ、これからきっと良くなります。女性が今よりもっと自由な選択が出来るようになるでしょう」
「アリシア様、明日王様に何を言うか、考えましょうね!」
「ええ、せっかくの機会ですもの。フルに活かしましょう!」
そう言ってイキイキとしている二人が、手術着のような大きな袖付きエプロンを身に纏って、パンだけでなく大鍋で具沢山スープを製作し、いつの間にか増えた備え付け以外のオーブンで肉が焼ける匂いもさせているのを見て、エドガーは本当にたくましいなと思っていた。
事務という建前で引き取ったが、彼女たちは貴族令嬢なのだ。部屋で涙を流して出て来ないということも十分想定していたのだが、今ではキッチンで職員の健康にまで寄与している。
看護師たちは彼女らにこうしたものを食べたいとリクエストしており、貴族令嬢の道楽で無駄に作っているわけではない。
ミアに至っては、仕入れの店で店主と仲良くなったらしく、交渉で以前よりコストパフォーマンスを良くしたらしい。
アリシアは以前よりメニューを増やしたことで栄養に興味が湧いたらしく、エドガーに許可を得て栄養学の本を読んではすぐ反映している。
「若さかな……、即戦力すぎるな」
「あら、先生大分白髪が増えて〜、髪にはこの海藻がいいそうですよ」
悪気のない師長が海藻スープのボウルをエドガーに渡し、エドガーは有難い気持ちと共に、少々ダメージも食らった。




