守りますから
クラウスが連日訪れることによって抑止力となり、以前より人数は減ったものの、それでもエドガーのクリニックには、アリシアやミアに会いたいという人たちが一定訪れていた。
患者を装われると、玄関前をよく巡廻してくれるようになったが、警邏では声を掛けられない。
普段は看護師たちが対応し、キッパリ追い返していた。
それでも引き下がらない強者には、憲兵に通報して対応してもらっていた。
クラウスの働きかけや、産婦人科医たちから医院を訪れる女性の安全についての訴えを受けた憲兵隊の計らいで、机の下のボタンひとつで通報できるようになったのだ。
これから徐々に各病院に配置される予定だ。
だが、この日は少し事情が違った。
クラウスとのお茶会を終え、アリシアとミアがクリニックへ戻ってきた時のことだった。
「オリバー・ブラウンを殺せ!」
突然、通りの向こうから男の怒鳴り声が響いた。
何か銀色のものを持っており、武器を警戒した警護は一斉に男を取り押さえにかかった。
警護の注意がそちらへ向いた隙に、路地から数人の男女が飛び出してくる。
「ミアさん! 私の娘も貴族の男に酷い目に遭わされて死んだの! あなたには同じ悔しい思いをしてほしくない!」
先頭の女性が涙ながらに叫んだ。
「オリバーを生かしておいてはいけないわ!早く殺さないと!!きっとすぐ出てくるわ!」
「憲兵なんかに引き渡さず、あの場で殺しておくべきだった!何で殺さなかったんだ!」
「そうだ! 貴族の裁判なんて信用できるか!」
護衛たちが即座にアリシアとミアの前へ立ち、騒ぐ人々を押しとどめる。
「お下がりください!」
数人ではあったが、ミアやアリシア、クラウスの記事を書こうとクリニックを張っていた記者たちが、次々と写真機や筆記具を構えた。
アリシアはその様子を見て、口を開いた。
「私たちは、殺人者になるつもりはありません」
短い言葉に、周囲の視線が集まる。
「オリバーを許すつもりもありません。だからこそ、正式な法の裁きによって罪を償わせたいと思っています」
「私も同じ気持ちです」
ミアがアリシアの隣で頷いた。
「法を犯すことで、あんな奴らと同じ立場になりたくありません」
それ以上、二人が話すことはなかった。
「こちらへ」
クラウスの護衛に促され、アリシアとミアはクリニックの中へ入った。
クラウスがクリニックに出入りするとより面倒になるので、クラウスは馬車の中から心配そうにミアたちの背中を見送っていた。
通りではまだ怒号が飛び交っていたが、記者たちは今しがたアリシアとミアが口にした言葉の方を、熱心に書き留めていた。
◇◇◇
「アリシア様!大丈夫ですか!?」
男が手にしていた銀色のものは後にただの銀紙を巻いた棒と判明するが、この時のアリシアは、自身が刃物で襲われた時を鮮明に思い出し、呼吸がままならなかった。
クリニックに入ると膝から崩れ落ち、ミアのスカートを掴んで酷い息をしていた。
苦しさから涙がぼろぼろと頬を伝っていく。
「アリシア嬢!」
クリニック前で騒ぎがあったと聞いて玄関までやって来ていたエドガーが、アリシアを抱えて処置室に連れて行った。
アリシアは白衣を掴みながら、何度も謝ろうとした。
それでも声が自由にならなかった。
「大丈夫です」
エドガーがベッドに横向きに寝かせ、背中から医療魔法をかける。杖を持たない方の手で、アリシアの冷えた手を握る。
「大丈夫です、守りますから」
アリシアは涙が熱くなったのを感じた。




