オリバーくんの最期から二番目の面会
オリバー・ブラウンは、自分がこれほど長く牢にいることになるとは思っていなかった。
裁判で有罪になったことは、納得はしていないが理解はしている。
それでもブラウン公爵家の跡取りである以上、父が何とかするだろうと思っていた。
刑そのものをなくせなくても、もっとマシな環境へ移すくらいはできるはずだ。
自宅軟禁くらいには、すぐに移行するとたかを括っていた。
ところが、父からは何の連絡もなかった。
「もう一度、父上からの手紙を探せ」
食事を運んできた牢番に言うと、露骨に嫌そうな顔をされた。
「昨日も探しただろう……」
「俺が手紙を出したというのに、返事がないから言っているんだ。誰かが隠しているかもしれない」
「女からならともかく、ジジイからの手紙隠して何になるんだよ……」
「いいから、もう一度だ!」
牢番は肩をすくめて返事もせずに行ってしまった。
以前なら、こんな扱いを受けることなど考えられなかった。
オリバーが少し声を荒らげれば使用人は謝り、ブラウン公爵家の名前を出せば商人は頭を下げた。
それが今では、牢番一人すら言うことを聞かない。
何もかも、アリシアが余計なことをしたせいだ。
婚約者だったのだから、自分を庇うのが当然ではないか。
それなのに裁判では過去の女たちのことまで持ち出し、弁護士が止めるのも聞かずに話した。
ミアも同じだ。
あの女には父親から圧を掛けさせたのに、実家の商売を顧みずに証言したせいで、オリバーばかりが極悪人のように扱われた。
「アイツの父親が、娘と引き換えに贔屓にしてくれって言ったんじゃないか。成立している取引に何でケチを付けるんだ」
こんな有様なので、誰もオリバーに会いにくる者はなかった。
◇◇◇
その日の午後、珍しく面会人が来た。
現れた顔を見て、オリバーは表情を明るくした。
「おお!……先生!」
ブラウン公爵家のお抱えだった弁護士である。
「お久しぶりなことでございます、オリバー様」
「父上から頼まれて来たのか?」
「いいえ」
「では控訴か? 何か方法を見つけたんだろう?」
「本日は、そのようなお話ではございません」
オリバーは眉を寄せた。
「では何をしに来た」
「少々、お顔を見ておきたいと思いまして」
カイル・ウィリアム弁護士は目の前の青年を眺めた。
何度伝えても自分の名前すら覚えていない、ただ金持ちの家に運よく生まれただけで、牢屋ですら偉そうにしている馬鹿の顔を。
この男のために頭を下げただろう。
女性との問題が起きるたび、婚約者だったアリシアと共に相手を訪ねた。
謝罪し、金銭を渡し、これ以上騒ぎにならないよう話をまとめた。
この馬鹿の婚約者だったアリシアから、こんなことを繰り返していて本当にいいのかと言われたこともある。
それでも弁護士は、黙っていた方がいいと答えた。
オリバー本人を変えるより、問題を表に出さず処理する方が簡単だったからだ。
その結果が、あの裁判だった。
裁判で救いようのない被告人を弁護したことだけなら、まだ説明はできた。それが弁護士の仕事だからだ。
だが致命的だったのは、その前だった。
オリバーの素行を以前から知りながら、問題を揉み消し続けた。
アリシアが疑問を口にしても、家のために黙っているよう促した。
それを裁判でアリシアに明かされた。
世間の反応は厳しかった。
ブラウン家からは、オリバーを守り切れなかったとして契約を解除された。
一方、世間からはオリバーの行為を長年隠してきた弁護士として見られ、新しい依頼もほとんど来なくなった。
「ところで先生」
オリバーの声で、弁護士は我に返った。
「父上にはいつ会える?世間のほとぼりもそろそろ冷めただろう?」
「いいえ。もうブラウン公爵家との契約はございませんので、存じ上げません」
「何?」
「裁判の後、契約を解除されました」
「どうしてだ」
「私がオリバー様を十分にお守りできなかったからでしょう」
「そうか」
オリバーはあっさり頷いた。
「なら仕方ないな。あれだけ酷い結果になったんだ。父上が怒るのも当然だ」
弁護士は黙っていた。
「でも、それならちょうどいい。今は暇なんだろう? 俺が個人的に雇ってやる」
「……私を、ですか?」
「ああ。裁判をやり直す方法を考えろ。今度はアリシアを証人に呼ぶな。あいつは何を言い出すか分からないからな」
「私が今、ほとんど仕事をいただけなくなっている理由をご存知ですか?」
「さあ?知らないさ。何しろお前が守れなかったせいで、俺は今も牢屋の中なんだから」
弁護士は膝の上で拳をこれ以上ないほど固く握り締めた。
「オリバー様の裁判の件だけではございません。それ以前から問題をご存知でありながら、揉み消すことに加担していたと知られたためです」
「それなら暇なんだろう?仕事があれば丁度いいじゃないか」
弁護士はしばらくオリバーを見つめた。
「……左様でございますね」
何を言ったところで、人間の形をしたスポンジのようにスカスカな脳みその生き物には無駄だと、身体から怒りも何も力が抜けてしまった。
「それじゃあ頼んだぞ、早く父上にここに来て待遇を変えるように言ってくれ」
「はい」
昔と同じように頭を下げる。
「それでは、オリバー様。失礼いたします」
「ああ。次は良い知らせを持ってこい」
弁護士は一度も振り返らずに面会室を出た。
◇◇◇
牢を出た後、弁護士は街外れの宿へ向かった。
部屋では女と魔法使いが待っていた。
「どうでした?」




