約束
馬車の中ではやけに小さく丸まっているミアをエドガーが気にしていたが、レイナルドとアリシアが最近どこでも話題のクラウス殿下からミアへの猛アプローチの件で照れていると伝えると、ああと合点が入った様子だった。
「うう〜!もう勘弁してください〜!こういうの慣れてないんです!想定してなかったんです〜〜!!」
ミアはクッションを頭に被って、ショールに埋もれて必死に隠れていた。
「ああまで明からさまに好意をアピールされれば、スミス嬢を敵視するようなご令嬢はいないでしょうし、今のところ第一王子派と第二王子派というのも、まあ僕が知る範囲では概ね平和ですしね、物語のような諍いというのは聞きませんから、そう怖がらなくても良いかと思いますよ?」
なんだかエドガーが少しズレた助言をし、レイナルドに女心が分かっていないと注意を受けながら、四人はどうにか席に着いて、馬車が出発した。
◇◇◇
爆弾を投下したのはレイナルドだった。
「で、パン屋はエドガーのクリニックのほぼ正面なのよね?」
「「え!?」」
アリシアが倒れてしまったことで一時保留になっていたが、実際に店舗候補の地域なども話し合っていたミアとアリシアは寝耳に水だった。
地域としてはとても良い。
レイナルドの店がある商店街とも近くて便利だし、エドガーがクリニックを構えているだけあって、治安も悪くない。
今はクラウスのおかげで更に迷惑行為が取締まられているし、二人がパン屋兼住居に引っ越すまで、寮と行き来するのも楽だろう。
だが、その場所を候補にしたことも見たこともなかった。
「ええと、どの地域が良いとか、実際に今空いているテナントも少し見て、家賃相場などは想定していたのですが……、具体的な物件はまだ決めていなかったのです」
困惑したアリシアが素直に答えると、レイナルドはアリシアとエドガーを交互に見ながら、あら?と首を傾げた。
「でも、エドガーはもうほぼ買っちゃう段階って言ってたわよね?」
「ええ」
「ええっ!?」
アリシアはさらりと肯定したエドガーをまん丸に見開いた目で凝視した。
「あの、子爵様……、その物件というのは……」
アリシアは落ち着かない視線を彷徨わせるが、ミアとレイナルドが口元に両手を当てて、きゃーと瞳をきらきらさせているのを見ると、逆に少々冷静になった。
「私どものパン屋にご支援をいただけるということでしょうか」
ブラウン家の婚約者にされてから叩き込まれた商談時の口調で質問したアリシアに、エドガーは「いいえ」とこちらも冷静な口調で返した。
「好きな女性への押し付けですね」
続けて投下された発言によって、ミアとレイナルドは手と手を取って「きゃーーっ!!」と飛び上がった。
「す、すちな、何、何をな……」
言葉にならないアリシアに対して、エドガーは杖に両手を重ねて堂々と続ける。
「今アリシア嬢はあらゆる男性が喉から手が出るほど会いたい女性なんですよ?
婚約者と家のために身を粉にして働く献身さに、
学業も優秀で主席卒業、ブラウン家の様々な事業の立役者で、
友人のために安易な公爵夫人の立場を捨てて戦える愛情深い人であり、
王家直々に認められた女性なんですよ?」
「え、あ、いえそんな……、私は行き当たりばったりで全然そんな大した者では……」
「いえいえ、連日あなたに会わせろと小蝿がクリニックや僕に寄って来てますよ」
「それは、非常に申し訳ありません……」
強気というか、今までのエドガーとは雰囲気が随分違う。
アリシアはドギマギする五月蝿い心臓をどうにか押さえ込もうと格闘していた。




