愛が重い人
「既に傷物で、大分目立ってしまっている私には、保守的な人が多い貴族との良縁は難しい筈です。
かと言って私が誰の庇護にも入らず独身でどうにか生きていこうとしたり、同じ一般市民と結婚したら、その先も難しいです。
私を利用しようとする父や、その他面倒な人たちが、周りに迷惑をかけるかもしれないです。」
ミアの言う、面倒な人たちとは、王家に認められたことで縁を得たい貴族や、ミアたちの言葉を自分勝手に都合良く解釈した活動家や、熱狂的なファンなど様々だった。
居場所がエドガーのクリニックの寮とバレてしまっているので、クリニック及び寮の前には問い合わせに来る人が多くなってしまっている。
看護師の人々が、クリニックや寮の玄関を出たところなど人目があるところで二人を呼ぶ際には、以前付けた偽名が図らずも大活躍していた。
「王家の方であれば、言うまでもなく、これ以上ない縁です。父でも手出しが出来ません。他の変わった方々への牽制にもなるでしょう。
それにクラウス殿下も王位争いをしない姿勢を示せて良いと仰っていました。
第一王子殿下が即位されたら、目的は果たせますから、クラウス殿下の気が変わる可能性だってありますけど。
それまでには騒ぎも収まって、周りの方へのご迷惑の可能性も少なくなっているかなと思うんです」
あくまでクラウスの気紛れのような言い方に、周りへの迷惑を抑えられると尤もらしい理由を付けているところに少し腹が立ったアリシアは、ミアに抱きつかれて反った腰をふんっと気合いで起こしながら訂正した。
「アイツは本気でミアを好きそうだと思うわよ。
普通はあんなに頻繁に堂々と来ないわよ?
もう貴族向けのゴシップ誌どころかあらゆる媒体がウキウキで載せてるじゃない。
王子様が警護付きで来るから、クリニックや寮への厄介な訪問客が大分減ったって話だけど……、絶対にあなたを守るためよね?
牽制って範囲を超えてると思うわよ?
あの辺りで急に迷惑行為への摘発も開始したのよね?憲兵まで動かして……。
暇じゃないわよね、確か先日の北方の国への訪問は、過去の戦没者の件でセンシティブな話し合いがあった筈だし。
ただの王位継承しないというポーズのためだとしたら、全然釣り合いが取れないと思うのよね。
あなたのためにどれだけ時間と費用を捻出……」
アリシアが丁寧にクラウスの好意の根拠を挙げると、ミアがヤカンのお湯が沸騰した時のように「ひいいいいぃいい!!」と高音の変な声を上げて逃げ出した。
キョトンとアリシアが固まっていると、ひょっこりレイナルドが現れた。
退院時に付き添うと言ってくれていたので、迎えに来てくれたらしい。
ミアが逃げながらもしっかり抱えてくれていた荷物の他に、アリシアの残りの荷物を持とうとしてくれるので、丁重に断ったが、なんならアリシアも抱えて行こうか?と言うんので荷物だけお願いした。
「あの子、意外と初心よね。照れちゃって可愛いわね」
廊下を進みながらレイナルドが言う。
「ミアなら王子様にモテても当然なんですけどね、本人が否定するんですよね。どこに自信がないって言うのかしら。あんなに見た目も中身も可愛いのに」
「あの子の親?王子様に言わせると小姑だったわね、確かに姉というのはしっくり来そう」
「小姑じゃないですって!」
「まあでも……」
レイナルドはアリシアを見てフッと笑った。
「両想いみたいで良かったわよね?」
認めたくはないが、そうだった。
ミアはアリシアのために、クラウスがどのような人物か詳しく知らないまま、王城附魔法医様の診察と引き換えに交際を引き受ける交渉をしたのだろうと思われた。
それは、男性に酷い目に遭わされてすぐのミアにとって辛い選択だっただろうと思う。
もしクラウスが、アリシアやミアと話した一二度の会話では見せなかった本性があったら?
それでも交際を承諾する代わりに、王族以外に王城附魔法医様を貸し出してくれと言うのだから、断れないだろう。
そして酷い目に遭ったとしても、王族が相手となれば、オリバー以上に泣き寝入りの可能性は高まるだろう。
二度目となれば世間はミアを、目立ちたがりだと認定するだろう。
今回の件すらその評価が変わるかもしれない。
それ以前に、ミアの心身が無事であるかだ。
アリシアはちょっと払いたかっただけというように、短くなった髪を触った。
老人のように見事な白髪。
心的ショックで髪の色が全て抜け落ちてしまった。
もしミアが意識がなく、真っ白な髪で横たわっていたら、アリシアはどうしただろう。
それが自分を救うためだったとしたら。
もう二度と、そんな危険な橋を渡らせたくなかった。
クラウスはその辺りをよく考えているようだった。
ミアが今までの経緯から、自分を警戒する心理を理解して受け容れているように思われた。
そしてミアが危険を感じないように、過剰なほどにミアのために行動している。
「癪だけど……、すごく癪だけど、ミアを本当に大事にしてくれそうだとは思うし、ミアもクラウスを嫌いではなさそう」
「あら癪なの?良い男だと思うけど」
「癪です!ミアのことを大好きなのは私だって一緒なのに、『俺のもの』みたいなアピールして!」
レイナルドはアリシアらしからぬ、堂々とした幼稚な主張に、ブフッと吹き出して笑った。




