6、絶望の底の作戦会議
試しに5000字で書いてみます。いけるかなぁ。行けなかったら書こうと思ってる自己紹介かなんか書こうかなぁなんて思ってます。
『昏き絶望の森』の境界線を越えた先で見つけた、様々な魔物たちが隠れ住む広大な集落。
そこで私たちは「九尾の御神子」として熱狂的な歓迎を受けた。一週間前、私が元の世界で死んでこの世界に転生した瞬間、ハンターたちにブチギレて放った【闇光の神罰】。あの規格外の魔力の暴走が、この集落の魔物たちにとっては神の降臨を告げる予言の合図だったらしい。
しかし、歓迎の宴に浸っている時間はなかった。
私たちが追っていた、親友・結衣の生徒手帳と同じ『地球の匂い』を微かに漂わせるアルテミス王国の馬車。それは一度はこの集落の広場に入ってきたのを多くの村人に目撃されながら、次の瞬間には足跡も、車輪の跡も、匂いすら残さず、まるで煙のように忽然と消え去ってしまったという。
「御神子様、何か手がかりはありましたか!」
集落の地下遺跡に繋がる古井戸から這い上がってきた私たちを、羊の獣人である老村長や鬼の戦士たちが、期待に満ちた目で見つめてきた。
私は深く被ったフードの隙間から、首を横に振ってみせる。
「……ううん。少し、みんなで考えを整理したいの。静かな場所を貸してもらえる?」
私の冷たい声のトーンに、村長は気圧されたように背筋を正し、
「は、ははっ! では、集落の北側にある大樹のうろをお使いくだされ!」
と平伏した。私たちは集落の喧騒から離れ、巨大な大樹のうろの中に集まっていた。
中には平らな岩が一つ置かれているだけ。その岩の上には、何もない。
馬車が消えた手がかりが文字通り『ゼロ』なのだから、地図を広げたところで書き込める情報が、物理的に存在しなかった。
「はぁーあ! 本当に何の手がかりもないなんて、あの大国、どんだけ悪知恵が働くのかにゃ……!」
黒猫のミャオが、人間の姿――黒いショートヘアにゴスロリ風のドレス、けれど頭の上の黒い猫耳と二本の細長い尻尾を激しくイライラと揺らしながら、岩の上に仰向けに寝転がった。
「……(じっ)」
同じく人間の姿になった黒狼のガオは、無言のまま、腕を組んで大樹の壁に背を預けていた。ツンツンとした黒髪の間から突き出た狼耳は小さく伏せられており、ズボンの後ろからのぞくフサフサの狼尻尾が、床の埃を払うように重々しく左右に揺れている。相変わらずの無口だが、彼もまた、手がかりを一切掴めなかったことに強い悔しさを滲ませていた。
そして、先ほど地下遺跡の十字路で出会い、私たちの仲間になった蛇の少女、ネフィ。彼女は夜の闇を溶かしたような漆黒の長い髪を指先で弄りながら、岩の隣に気怠そうに腰掛けていた。首元から腕にかけてサファイアのように妖しくきらめく深い青色の鱗が残り、瞳は縦に割れた蛇の目のままだ。私やミャオたちと全く同い年――現代で言えば高校一年生くらいの少女のはずだが、その佇まいには野生の魔物としての冷徹な冷静さがあった。
「ボス。あんたのその大層な鼻でも、あの地下遺跡の埃とカビの匂いしか追えなかった。それはつまり、人間どもがこの集落から移動する際、この世界の誰も知らない『完璧な抜け道』を使ったか、あるいは本当にその場で空間を跳び越えたかの二択だ」
ネフィが、縦に割れた瞳で私をジリリと見つめながら冷酷な分析を口にする。
私は大樹の壁に寄りかかり、ドレスのポケットから、この森のどこかで拾った結衣の生徒手帳を取り出した。ビニールのカバーがついた、現代日本のどこにでもある、ありふれた手帳。
「魔法じゃないことは確かだよ。私の体の中にある光と闇の魔力が、広場からも、地下遺跡からも、何の術式の残滓も感じ取れなかった。……もし魔法なら、どれだけ隠蔽術を重ねても、空間の歪みとして魔力の『引っかかり』が残るはずだもん」
私は手帳の表紙を、愛おしむようにそっと指でなぞる。
戦う時の私は、神獣九尾の肉体の本能に支配され、恐ろしいほど頭の芯が冷徹に冴え渡る。音を置き去りにするほどの身体能力で、容赦なく相手を仕留める動きをする。
けれど、こうして一人で静かに考えている時は、やっぱりただの女子高生としての不安や弱さが顔を出してしまう。
学校の帰り道、トラックから私に突き飛ばされて、無事だったはずの親友。
結衣。あなたは一体、どこで、どんな風に人間に捕まっているの。なぜあなたの持ち物が、この世界の魔物の森に落ちているの。
「じゃあ、どうするにゃ? このままここで指をくわえて、あの人間どもの幽霊馬車がもう一度現れるのを待ってるだけにゃ?」
ミャオがゴロゴロと転がるのをやめ、上半身を起こして、黄金の猫の目で私を真っ直ぐに見つめてきた。
私はゆっくりと顔を上げた。不安に揺れていた私の黄金の瞳に、再び、ゾッとするような鋭い冷徹な光が宿る。
「ううん。手がかりが完全にゼロなら……『手がかりを持っている奴』を、力ずくで捕まえにいく」
「……(ぴくっ)」
ガオの狼耳が、その言葉に反応して鋭く跳ね上がった。
「馬車は消えたし、消去された痕跡は私の鼻でも追えない。だけど、その消えるトリックを仕掛けて馬車を動かしていたのは、アルテミス王国の人間たち。だったら、この森の周辺を調査しにくる人間の兵士や、国境の警備隊を片っ端から生け捕りにして、口を割らせればいい。幸い、さっき集落の近くを通った人間の騎士たちが『天災討伐隊の結成を王に進言する』とか言ってた。向こうから、情報(獲物)が歩いてきてくれる」
私の淡々とした、けれど有無を言わせない冷酷な作戦に、ネフィは小さく息を漏らし、それから唇の端を妖艶に吊り上げて笑った。
「いいね、凶暴で。九尾のボスにふさわしい作戦だ。……だけどさ、ボス。あんた、自分の『魔物の体のルール』を、本当に何も分かってないだろ?」
「え……? ルールって?」
私がきょとんとすると、ネフィは岩から腰を浮かせ、衣服の裾に隠されていた一振りの美しい『刀』を抜いた。漆黒の鞘から引き抜かれた細身の刃が、大樹のうろの中に差し込む僅かな光を反射して、銀色にギラリと輝く。
「人間にあった『魔力切れ』は、ただ魔法が使えなくなって疲れるだけだ。だけどね、あたしたち魔物にとって、魔力は生命力そのもの。もし体内の魔力が完全に底を突けば、魔核が自己崩壊を起こして『瀕死状態』になる。最悪の場合、そのまま消滅して死ぬんだよ」
「えっ……!? 魔力がなくなったら、死んじゃうの!?」
初めて聞く異世界の常識に、私は思わず人間の姿のまま声を裏返した。
現代日本の感覚のままでいたから、ゲームの「MP切れ」くらいにしか思っていなかったのだ。
横を見ると、ミャオもガオも「何を今更」と言いたげな顔をしている。魔物にとっては、息をするのと同じくらい当然のルールだった。
「そうだよ。そして、あんたがさっきから言っている【闇】と【光】という二つの極致の魔力。それは世界を滅ぼせるほど強力だけど、その代償として、発動するだけで体内の魔力をアホみたいに大量消費する。つまりね、あんたがそのチート魔法を力任せに二、三発ぶっ放しただけで、あんたの体は敵に触れられもしないまま、勝手に魔力切れで死にかけるってことさ」
ネフィの冷徹な言葉が、私の胸に突き刺さる。
一週間前、ハンターたちを吹き飛ばしたあの一撃。あの後、猛烈な空腹と、立っていられないほどの疲労感に襲われた理由が、今ようやく分かった。あれは、餓死寸前だったのではなく、魔法の大消費による「瀕死の一歩手前」だったのだ。今の今まで全く気づかなかった。
「……じゃあ、私は全力で魔法を使っちゃダメってこと?」
「そう。だからこそ、あんたにはこの『刀』が必要なんだ」
ネフィは刀をサッと一振りし、風を切る澄んだ音を響かせながら、その鋭い先端を私の鼻先へと向けた。
「刀を使えば、戦いの大半を九尾としての『圧倒的な身体能力』、つまり肉体の質量と筋力だけで片付けられる。魔力を使うのは、刃の先端にほんの少し、闇や光の属性を乗せる瞬間だけでいい。魔法をそのまま放つのが『大洪水を起こす』ことなら、刀を使うのは『高圧のウォーターカッターで一点を撃ち抜く』ことだ。これなら、魔力をほとんど消費せずに、魔法以上の破壊力を出せる」
ネフィの縦に割れた蛇の目が、同い年らしい勝気な、だけど確かな知恵を湛えて光る。
「あんたのその白銀の長い髪と、魔力で編まれた和風のドレス。刀が絶対に似合う。あたしが、その莫大な身体能力を100%活かすための『刀の使い方』を教えてやるよ。同い年の、よしみだ」
私は、鼻先に突きつけられた銀色の刃と、ネフィの目を真っ直ぐに見つめ返した。
戦う時の私の頭は、冷徹にメリットとデメリットを計算する。
今のままでは、魔法の燃費が悪すぎて、結衣を助け出す前に自滅していた。人間の国の理不尽な技術に対抗するためには、私もまた、自分の持つ理不尽な力を極限まで制御し、研ぎ澄まさなければいけない。ただのバケモノの暴走ではなく、一撃で全てを断ち切る絶対の刃に。
「……わかった。お願い、ネフィ。私に、刀を教えて」
私の言葉に、ネフィは嬉しそうに目を細めた。
「話が早くて助かるよ。ガオ、ミャオ。悪いけど、アタシの特訓につき合って。九尾のボスを一人前に仕上げるんだ、あんたたちの爪と牙も、格好の練習台になってもらうよ」
ネフィの言葉に、岩の上のミャオは「泥だらけのサユキを見るのも楽しそうにゃ!」とケラケラと笑い、ガオは無言で自分の胸をドンと叩いた。そして、腰に差した漆黒の短剣を抜き、いつでも動けるようにその青い瞳に静かな闘志を宿した。
手がかりは完全に消え去り、私たちは絶望の底にいる。
だけど、大樹のうろの中に集まった四人の同世代の魔物たち――『神獣の眷属』の瞳には、誰一人として諦めの色はなかった。自滅のルールを克服し、向かってくる人間の軍勢を今度は自分たちの力で叩き潰すために。白銀の九尾としての、命をかけた初めての「特訓」が、静かに始まろうとしていた
どうでしたか!文字数たりませんでした涙。ただ自己紹介書くのには少なすぎるんでまた今度描きます。
それでは次話で!




