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ハチャメチャ獣生活  作者: 桜井舞
始まりの一歩
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4/11

4、見えない馬車と九尾の敗北感

『昏き絶望の森』の境界線を越え、私たちは人間たちが行き交う大街道へと続く山道を下っていた。頭上を覆っていた鬱蒼とした巨木の葉が少しずつ薄くなり、隙間から差し込む太陽の光が、私の白銀のドレスをきらきらと照らしている。


「ねぇサユキ、人間の街って本当に美味しいものがたくさんあるのかにゃ? あたい、お肉に甘い蜜をかけたやつが食べたいにゃ。森の中の生肉はもう飽き飽きにゃ!」


黒猫のミャオが、人間の姿のまま、私の顔を覗き込んでよだれを垂らしそうな顔をしている。


「……(コクコク)」


同じく人間の姿になったガオも、ミャオの言葉に静かに同意するように、お腹のあたりをさすっている。相変わらずの無口だが、黒髪の間から突き出た狼耳がぴこぴこと動き、ズボンの後ろからのぞくフサフサの狼尻尾がフリフリと揺れていた。二人とも、見た目は完全に美少年と美少女なのに、隠しきれない野生のパーツが激しく自己主張をしている。人のことを言えないけれど、なかなかにシュールな光景だ。


「あはは、きっとあるよ。現代日本……私のいた世界ほどじゃないかもしれないけど、異世界の屋台ご飯とか、私もちょっと楽しみだな」


私はドレスのポケットにそっと手を触れた。そこには、この森で見つけた親友の生徒手帳――『神代(かみしろ) 結衣(ゆい)』の名前が刻まれた、地球のアイテムが静かに収まっている。これを手掛かりに、人間の国へ潜入し、結衣を絶対に見つけ出す。そのための第一歩が、この先にあるはずだった。くんくん、と狐の鼻を動かして、山道に漂う匂いを探る。


「……あれ? 結衣の匂い、やっぱりこの山道の奥で一度強くなってる」


「本当にかにゃ? サユキの友達の匂い、あいたちには全然わからないにゃ」


「普通の匂いじゃないの。この手帳と同じ、私の世界(地球)の匂いが微かに混ざってるの。……あ、あそこに集落があるよ。ちょっと聞いてみよう!」


険しい山道を拓いた先に、さまざまな魔物たちが平和に暮らす大きな『魔物の集落』があった。私たちが深くフードを被ってその集落に足を踏み入れようとした、その瞬間。村の入り口にいた見張りの鬼の戦士たちが、私の頭の上で驚きでピコピコと動いてしまった『白銀の狐耳』を見た瞬間、持っていた槍を取り落とした。


「ま、間違いない……! あの白銀の神聖な気配、そして美しい九尾の耳……! 『九尾の御神子(みみこ)』様だ!! 予言の神獣様が、ついに俺たちの村へ来られたぞーーーっ!!」


「「「おおお腹おおおっっ!!!???」」」


村の中から数十匹の魔物たちが一斉に飛び出してきて、私の前にひれ伏し、涙を流しながら私を崇め始めた。


「え、えええっ!? なにこれ、どういうこと!?」


パニックになる私に、ミャオは


「サユキ、いつの間に神様になったにゃ?」


と目を丸くし、ガオはウブでシャイな性格ゆえに、熱狂する魔物たちに圧倒されて無言で私の後ろに隠れてしまった。

村の奥から、一本の杖をついた年老いた羊の獣人(村長)が歩み寄ってきた。


「九尾の御神子様……我が村は代々、伝説 of 九尾の狐を崇める一族。一週間前、この地に『巨大な闇と光の波動』が奔った時、私たちは神獣様のお目覚めを確信いたしました……!」


一週間前、私が最初の最初、襲ってきたハンターにブチギレて大爆発を起こした時の魔力が、この村の魔物たちに「神の降臨」として伝わっていたらしい。


「あ、あの……崇めてもらえるのは嬉しいんですけど、実は私、ここに向かった『人間の馬車』を追いかけてきたんです。何か知りませんか?」


私が尋ねると、村長の顔がスッと曇り、困惑の表情を浮かべた。


「人間の馬車、ですか……。はい、確かに三日ほど前、アルテミス王国の紋章をつけた頑丈な馬車が、この集落の広場まで入ってきたのを、多くの村人が目撃しております」


「本当ですか!? じゃあ、その馬車は今どこに……?」


「それが……忽然と消え去ってしまったのです」


「え……? 消えた?」


村長は深い溜め息をつきながら、集落の広場を指さした。


「馬車に乗った人間の兵士どもは、我々を脅し、この集落のどこかへ『大きな荷物』を運んでいきました。しかし、我々が隙を見て戦士を集め、広場で包囲した次の瞬間……彼らが乗ってきた馬車も、兵士も、荷物も、まるで煙のようにその場から消えてしまったのです。広場から外へ続く足跡も、車輪の跡もありません。村の鼻が利く獣人たちが総出で集落の隅々まで探しましたが、実物は今もどこにも見つからんのです。まるで、最初から幻を見ていたかのように……」


「目撃されて集落についた後、また消えた……。魔物たちが総出で探しても見つからないなんて、どんな悪賢い魔法を使ったのかにゃ?」


「……(フルフル)」


ガオが静かに首を振る。魔法の気配すら残っていないことに、彼の野生の勘も首を傾げているようだった。


「待って。私の鼻なら、結衣の匂いを追えるはず……!」


私は広場にしゃがみ込み、地面に四つん這いになって、九尾としての圧倒的な嗅覚を研ぎ澄ませた。数キロ先の花の匂いすら識別できる私の鼻。これなら、どんな隠し通路も見つけられるはずだった。


「くんくん……、え?」


私は目を見開いた。……匂わない。正確には、馬車が集落の広場に入ってきたところまでは、結衣の手帳と同じ『地球の匂い』がはっきりと残っている。なのに、広場の中央で、その匂いがまるで刃物でスパッと切り落とされたかのように、完全に途絶えているのだ。風で流されたわけじゃない。地下に隠したなら、僅かな隙間から匂いが漏れるはずだ。それなのに、ここから先の空間には、分子の一つすら残っていない。


「嘘……。私の鼻でも、何もわからない……!?」


初めての、完全な敗北感。九尾の力をもってしても、一切の手がかりが掴めない。


「サユキの鼻でもダメにゃんて……。人間ども、一体何をしたんだにゃ?」


ガオも無言のまま、消えた広場の中央を鋭い目で見つめ、小さく唸り声をあげた。


「御神子様……やはり、あの馬車は呪われていたのです。人間どもは、この世のものとは思えぬ『不気味な技術』を使い、我々の目の前で消え去ったのです……」


村長がガタガタと震えながら呟く。『この世のものとは思えぬ技術』――その言葉が、私の脳裏に冷たく響いた。


(魔法じゃない。魔力の残滓がないのは、これが『地球のテクノロジー』、あるいはそれをこの世界のシステムと融合させた『未知の力』だからだ……!)


人間の国『アルテミス王国』は、単に地球の人を召喚しただけじゃない。地球の物理法則そのものを歪め、魔物はおろか、神獣である私の五感すら完全に欺く『不可視の隠蔽兵器』をすでに完成させている。結衣を乗せた、あるいは結衣の遺物を積んだ馬車は、確かにこの集落に来た。

けれど、完全に消えてしまった。どこへ? どうやって?

「……(スッ)」

行き詰まる私に、ガオが静かに近づき、私のドレスの袖をそっと引いた。そして、広場の隅にある、古びた『石碑』を無言で指さした。


「ガオ、あれは何?」


「……(ジッ)」


ガオは答えず、ただその石碑を見つめている。村長がハッとして言った。


「おお、それは我が一族に伝わる、古代の地下遺跡への入り口を示す石碑にございます。……まさかガオ、あの消えた馬車が、集落の誰も入り方を知らぬ地下遺跡の中にいるとでも言うのか?」


手がかりは完全に途絶えた。馬車がどこに消えたのか、私の力では解き明かせない。しかし、この理不尽な「消えるトリック」の答えは、この集落の地下に眠る、誰も知らない遺跡の中にあることだけは確かだった。


「……行こう。ミャオ、ガオ」


私は深くフードを被り直し、見えない敵が残した圧倒的な謎(絶望)に向かって、一歩を踏み出した。『神獣の眷属(レガリア)』としての初めての試練が、この暗い地下への入り口で、私たちを待ち受けていた――。

どうでしたか?楽しんでいただけましたか? 5話なんですがテスト期間なため出せないかもなんですが許してください。それでは次回!

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