10、私の知名度
お久しぶりです!出すまでに時間かかってごめんなさい今から2章スタートです!
「ねぇネフィ、ひとつ聞いてもいい?」
ピョンちゃんを仲間に加え、国境沿いの交易都市へと続く緩やかな平原を歩いていたとき、私はふと思い立った疑問を口にした 。
「なんだい、ボス」
長い髪を風に揺らしながら、ネフィが縦に割れた蛇の目をこちらに向ける 。
首元のサファイア色の鱗が、太陽の光を浴びて妖しくきらめいた 。
「あたしのこの【九尾の狐】って姿、人間の国に行ったらやっぱり一発で手配書が回るくらい有名になっちゃうのかな?」
戦う時の私は、神獣としての冷徹な戦闘脳に切り替わる 。
けれど普段は、頭の上の白銀の狐耳をピコピコ動かし、後ろの一本尻尾を重たそうに揺らす、ただの元女子高生だ 。
一週間前、私がこの世界に転生した瞬間に放った大爆発。あの極大魔力のせいで、この辺りの魔物の集落からは「伝説の御神子様」として秒速で拝まれることになった 。
だから、人間の世界でも同じように「伝説の最凶生物が現れたぞー!」と大騒ぎになるんじゃないかと、今更ながらに戦々恐々としていたのだ。
私の心配を聞いたネフィは、一瞬だけぽかんと呆気にとられたような顔をすると、それからクスクスと意地の悪い笑みを漏らした 。
「あはは! 心配しすぎだよ、ボス。結論から言うと、あんたの知名度なんてこの森の周辺の魔物たちの間だけさ。人間の国はおろか、ここから少し離れた別の地域の魔物だって、あんたが『九尾の狐』だなんて誰も知りやしないよ。ただ一部の物好きは知ってるけどな。」
「えっ、本当に!? 伝説の神獣なのに!?」
私が思わず人間の姿のまま声をあげると、今度は横から黒猫のミャオが、二本の猫尻尾を不満げにバタバタと振らせながら割り込んできた 。
「サユキ、人間の世界を大きく見積もりすぎにゃ! あたいたちがいた『昏き絶望の森』を神格化して崇めてたのは、あの隠れ里の古い一族くらいのものにゃ 。
人間どもからすれば、あの森はただの『ちょっと不気味な未開拓領域』。そこで一週間前にデカい魔力の爆発があったから、念のために偵察隊を送り込んできたって程度にゃよ」
「……(コクコク)」
ガオも無言のまま、ミャオの言葉に同意するように狼耳をピコピコと動かした 。
彼の持つ野生の情報網でも、私の名前や「九尾」という存在は、世界的なニュースには全くなっていないらしい。
「ふぇぇ……そうなのですかぁ? あたち、九尾の御神子様は世界中のみんなが知っている神様なんだと思って、お耳を丸くして感動してたですぅ……」
ふんわりとしたピンクのワンピースを着た垂れ耳うさぎのピョンちゃんが、足元までだらんと垂れた白い耳をパタパタさせながら、ぽやぽやとした声を出す 。
ネフィは歩みを止めず、平原の先に広がる広大な大地の向こうを見つめながら、この世界の縮図を語り始めた 。
「ボス、あんたはこの世界の『まともな地理』をまだ知らないだろ? いい機会だから教えてあげるよ。……この世界はね、大きく分けて南半分を人類が、そして北半分を魔王がそれぞれ統治しているんだ」
「南が人間で、北が魔王……」
「そう。そして、あたしたちが今いるこの場所は、南側の人類圏。その中でも、アルテミス王国が支配する『東の最果て』の田舎街に向かう大街道さ」
ネフィの口から語られた世界地図に、私の脳内でファンタジー小説の知識がパチパチと組み上がっていく。なるほど。ここは人類側の領土で、しかも東の端っこ。つまり、一週間前に私が起こしたあの大爆発は、大国アルテミス王国からすれば「東の国境沿いの不気味な森で、なんかデカい自然災害(あるいははぐれ魔物の暴走)があったぞ」という、一地方の局地的な事件として処理されているに過ぎないのだ。
「人間どもが騒いでいる『天災級の討伐隊』ってのもね、あんたの正体を知って動いているわけじゃない。ただ『東の森に未知の危険な魔物がいるらしいから、国の威信にかけて早めに潰しておこう』っていう、傲慢な一国家の定期清掃みたいなものさ。だから、あんたが自分で『あたしは九尾の狐だ!』って名乗りでもしない限り、耳と尻尾を出したまま街に入っても、せいぜい『妙に魔力の高い、珍しい白狐の獣人の女の子』として怪しまれるくらいで済むよ」
「な、なんだぁ……。街の門を潜った瞬間に、国家レベルの指名手配犯として四方八方から魔法が飛んでくるわけじゃないんだね。良かったぁ……」
私は緊張の糸が切れて、その場にへなへなと座り込みそうになった。本当によかった。もし最初から世界中の人間にマークされていたら、結衣を救い出すための潜入作戦なんて、始まる前に詰んでいたところだ。
「サユキ、安心するのは早いにゃ! 知名度が低くても、あたいたちがアルテミス王国の敵ににゃることは変わりないにゃ !
さっきネフィが言ったみたいに、人間どもは傲慢だから、あたいたち獣人を見下して生け捕りにしようとしてくるにゃ!」
ミャオがふんすと鼻を鳴らし、警告してくる 。
「……(スッ)」
ガオが、無言のまま腰の短剣の柄にそっと手を触れ、鋭い眼光を前方へと向けた。彼の狼耳がピシッと緊張の角度に固定される 。
「ガオ、どうしたの?」
私が問いかけると、ネフィがフッと笑って刀の柄に手をかけた。
「噂をすれば、だよ、ボス。あたしたちの知名度は低くても、向こうからわざわざ『天災』に首を突っ込んでくるバカどもがいるみたいだ」
平原を貫く街道の先から、ジャラジャラとした重い金属音と、数十頭の馬の蹄の音が響いてきた。現れたのは、昨日の偵察隊とは比べ物にならない規模の、白銀の甲冑で身を固めた本隊――アルテミス王国の国境警備騎士団、およそ五十名。
「見つけたぞ! 昏き森から出てきた獣人の不審者グループだ! 昨夜、第二偵察隊を壊滅させたのは貴様らだな!」
騎士団の先頭に立つ大柄な隊長が、大剣をこちらに向けて大声で叫ぶ。人間側は、私の正体が「九尾の狐」だなんてこれっぽっちも知らない。
ただの『生意気な獣人の犯罪者』として、私たちを力ずくで踏み潰しにきたのだ。私はゆっくりと立ち上がり、深くフードを被り直した。黄金の瞳が夜闇のような冷徹さを宿し、頭の芯が戦闘モードへと切り替わる 。
「……南の人類、東の果て。あたしの名前を知らないなら、ちょうどいいわ」
腰の漆黒の刀の柄に、そっと右手をかける。ネフィ直伝の『一点集中』のイメージを頭の中に描き、体内の闇と光の魔力を、自滅しない極小の燃費で刃の先端へと圧縮していく 。
「アルテミス王国の騎士さん。あたしの知名度、あなたたちのその身をもって、今ここで最悪な形で刻み込んであげる」
ハチャメチャな獣生活の旅路の途中で知った、この世界の広さ。南の人類圏、その東の最果てから、名もなき白銀の九尾と『神獣の眷属』による、人間の国を震撼させる本格的な進撃が、いま静かに幕を上げるのだった――
どうでしたか?次話出すのが今私受験生で遅くなります。ごめんなさい。ではまたお会いしましょう




