6 あたしに迫る過去からの影
予感がカタチになる兆しを運んで来たのはスバルだった。
同居&開店から3か月目。
朝が来て。
「スバル起きて!」
地元の社交界(まだ貧弱だけど)に顔を出して、酔っぱらって帰って来たスバルを起こす。
「ういー、痛いがあたまですよぉ……」
酒臭いうえに、もそもそと動きが鈍いのを急かして。
「はい、歯磨き」
口に歯ブラシを突っ込み。
もしゃもしゃと歯をみがかせている間に、寝癖がひどい銀の髪を、ぱっぱっぱ整えて。
歯磨きの手が止まった頃合いで。
「はい、水」
と、うがいをさせて。
「はい、テーブルの用意ができましたよ王様」
といって朝食のテーブルにつかせると。
「……おはよう……そこは王様じゃなくて陛下れす、ふわぁ」
と減らず口を叩けるようになると、スバルもようやく頭が回るようになってきたようで。
「うち、結構話題になってますよ」
昨夜のパーティでの話題を話してくれる。
「そりゃそうだろうね。あっちこっちのお金持ちそうな奥方がうちに髪を整えにきてるもの。しかも結構遠くから」
「うしし。もうかりますねー。汽車が通ったらもっと大儲けですよ!」
「店の前に広場があってよかったよ。なかったら止めてある馬車やクルマですごいことになってた」
「ちかぢか、油で動くクルマが売り出されるらしいですよ。一台欲しいです」
「もうかったらね」
「そのためのクルマですよ! 車があれば御者を雇わなくても、出張営業ができるじゃないですか」
そんな会話の終わりに、スバルはふと、
「……貴方の生まれ故郷から、お貴族様がやってきたらしいですよ」
「ええっ。わざわざこんな遠くまで」
「うちの評判が海を越えてひろがったんですよ。貴方のことさらいに来たくらいですし」
「いや、絶対に違うから。そもそもその噂の発信源うちだし」
「そのお貴族サマ、侯爵夫人だそうですよ」
そう聞いた途端、ぞぞぞっとした。
「ま、まさか」
「といっても常識的に考えれば、亡命か夜逃げでもない限り、わざわざここまでこないですよね」
「来るわけないじゃん。あそこからここまで二か月かかるんだからさ」
そう言いつつも。
いやな予感を思い出していた。
「わたしと違って自称してるだけの侯爵夫人かもしれませんし。遠い国ですから誰も確かめようがありませんしね」
「スバル。それ、あんたにもまるっと当てはまるから!」
「わたしは自分が本物だと知っているので、問題ありません」
いや、それも証明しようがないでしょ!
って具合で、なんとなく流したけど。
心のどこかに引っかかり続けて、次の日。
昼の休憩をしていたら。
あの保安官さんが、うちの店に来た。
店の裏手で話を聞くと、
「お嬢ちゃんを襲った痣の男な。お嬢ちゃんの異母姉の旦那だった。遺留品でわかった」
「どうやって……まさか」
遺留品が本人のものだと確認できるのは――
「ああ、奥方がやってきた……今、うわさの侯爵夫人」
「うわぁ」
保安官さんは、気の毒そうな顔で
「あのアザ野郎。お嬢ちゃんを襲撃する直前、手紙を送っていたらしい」
「……余計なことをしてくれたもんだ」
「お嬢ちゃんとの面会を求めてきた。そして、どこで働いているのかとかまでいろいろ聞いてきやがった」
「……どこまで喋りました?」
「保安隊はそんなことは把握してないって答えておいた。ここは新しい国なんでね」
「ありがとう!」
「だがな、あの女、ねばりやがるんだよ。ああいえばこういうで、生き別れの妹を連れ帰るだけで、家族の当然の権利だとさ」
「うわ……権利」
あの国で、貴族以外の人間に権利なんてあったっけ? と思うけど。
一応、この国は自由と平等の国なんで、権利って言葉は結構断りづらい。
しかもあたしを連れ帰ること前提。
「だがよ。お嬢ちゃんの身になんかあったら、カミさんがオレのこと責めるに決まってるからな。オレも、頑張ったさ」
「ありがとう!」
また恩を売られてしまった!
まぁいいや。この人の奥方、お得意さんで、いいひとだから。
新しい髪型にもガンガン挑戦してくれるし。
そのうえ気に入ると、タダで周り中に宣伝してくれるんだもんね!
「そうしたら、札びら切ってきやがったよ。これでって。いかにも上から目線で」
あっちでお貴族様が警官に法を曲げさせる時の、典型的なお貴族ムーブ!
「うわわ」
この人、ワイロに弱い!
これはペラペラしゃべったって展開かよ!
「保安官にワイロを渡したんで現行犯逮捕してやった」
「え……」
「なんだその意外そうな顔。確かに金は好きさ。大好きさ。でもなお貴族サマに『金貰えば尻尾ふるでしょ』みたいな顔で言われちゃな。カチンとくるんだよ」
「……で、あのひとは?」
「きょとんとしてやがったよ。足りませんか? だってよ。そんでもう一束。はい余罪追加」
「うわ……」
「どうする? あんたが保証人になれば釈放してもいいんだが……やだろう?」
あたしはうなずいた。
「今すぐ帰って欲しい」
「だな。だがよ。すぐ帰すのは、ちと面倒だ」
「……ああ、ワイロで捕まえちゃったから?」
保安官さんは、すまなそうに。
「つい、カッとして捕まえちまったのがまずかった……鼻もちならねぇ兄嫁を思い出しちまってな」
「兄嫁?」
今、保安官さんの家族は、奥方と3人のお子さんだけ。
過去に何かあったのだろう。
「ああ、兄貴の嫁さんが、典型的なそういうヤツで……すまん。こっちの話だ」
そういえば。
あの事件の夜。保安官さんに似たようなこと言われたな……。
「さっさと返す方法はないこともない……あんたが保証人になって保釈させて、で、保安官の監視下で船に乗せてお帰りしていただくってのが一番時間がかからない。だが」
「……身元保証人として、一度は顔を合わせなきゃいけないってこと?」
「そうなるな……だけどアレ、ぶちこんでおいても面倒なことになりそうだし。牢屋の掃除を始める侯爵夫人とかありかよ?」
うわ。あのひとの奉仕体質、変わってない!
「……」
どこまでいっても面倒な人だ!
あの人が、あたしの近くに何か月もいるとか、いやだし。
でも、会いたくないなぁ……。
まったく会いたくないけど……。
旦那さんの最期くらいは、話してあげるべきかな……。
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します
少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、
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この作品は『 お姉様が大嫌いだから、評判の悪い侯爵様のところへ嫁に出してやりました。』という作品の続編という位置づけなので、もし、もう少しこの異母姉妹のことを知りたいと思っていただければ、この作品もあわせてお読みください。




