5 あたしのてんやわんやの日常
そして、ついに、スバルとあたしの美容院は開店!
派手な看板に、どどんと描かれた店名は――
「店名は『ぱらだいす』です!」
スバルは看板を指さして、実にえっらそーに告げてきた。
「へ、へぇ……」
それってまさか、あたしの恥ずかしいセリフがヒントってわけじゃないよね?
「ビビッと来たんですよ! この店が関係者一同にとってぱらだいすになればいい、という願いをこめたんです。夢はまず見ないと夢ですらありませんから!」
スバルは芝居がかった仕草で、くるりと振り返り、
「ほら! その夢に参加しようと集った人々がこんなに!」
あたしも振り返る、
「うわ。こ、こんなに人が……」
店が面している広場の前は、着飾った人や馬車やクルマ――馬じゃなくて、水と石炭で走る乗り物――でいっぱい。
あたしのお得意さんがみんな来てる!
街で事前に何回か、青空美容室とかやって、プレオープンの宣伝もしておいたけど。
それとも、アレかな? あたしが誘拐されかけたことを。
『腕の良さが海を越えて轟いて、なんとその腕欲しさに誘拐迄されかけた美容師がいる美容院!』
っていう噂を流してもらったのが利きすぎたのか!?
しかもその誘拐犯たちの死体が港から続く大通りの脇の晒し台にさらされてるからね……。
ああ、ドキドキする。まずいまずいっ。
緊張しちゃってると、スバルがえらそうに、
「わたしの威光のたまもの、と言いたいところだけど、我が相棒の腕のおかげ! 貴方の今までの仕事がこれだけ評価されてるってことです! 世が世なら王国最高群青勲章を授けるところなんですけど」
見事な銀髪以外、王族っぽさがぜんぜんない人に、そんなこと言われてもねー。
「いやいらないから。それに貰うなら金がいい」
「なんでですか!? わたしが創設した勲章なんですから、感涙にむせぶべきでしょう!?」
しかも実在しないんかい!
とか、いつものような遣り取りをしてたら、緊張はなくなっていた。
あたしは、後ろを振り返る。
三か月、手塩にかけて特訓した後輩達が、がっちがちに緊張してる。
お揃いの水色の制服の肩が、びくびくしてる。
あたしは、ぱんぱん、と手を叩き。
「はーい。みんな大丈夫! 青空美容室と変わんないから! 鉄で髪が出来てる人も、髪に猛獣を忍ばせてる人もいないから!」
みんなぎこちなく笑う。
「いつも通り! 丁寧に! 練習通りに! それで大丈夫!」
でも、少しは緊張がとけたみたい。
「では、はじめましょう!」
あたしは、お客さん達の方を向いて、
「美容院『ぱらだいす』開店です! いらっしゃいませ!」
二日経っても三日経っても、一週間経っても、お客さんは途切れなかった。
そもそも、この国では美容院なんてものはほとんどない。
目の付け所がよかったってわけ。
そのうえ、あたしらいいコンビ。
スバルは詐欺師なだけあって、もとい、どこぞの亡命貴族(おっと元王族だった)と自称してるだけあって、経営の才があり。
しかも、上流の人々の応対がうまい。
そのうえ、広告とか宣伝の仕方が上手。
本人曰く『革命行動隊のプロパガンダをいやでも学んだからです!』だそうだけど。
そんで、あたしは娼婦上がりで化粧が誰よりも上手。
当然、人の顔を美しくするのだって上手。
貴族っぽい髪型を作るのだってお手の物。
そのうえでスバルが髪型を色々教えてくれたんで(流石、自称元王族! 王になったかもしれない女!)それもパパっと取り入れて。
「まぁこの髪型! 素敵ね!」
髪を高く高く結い上げて、船の船主みたいな形にして、大きな飾り布を帆みたいにくっつける。
「軍艦巻きといって、さる王家の髪型だそうでございますよ」
皆殺しになった王族のだけど。いいんか? 本当ならだけど。
もっともらしいウソだからいいのか。
「やっぱり! 高貴さがにじみでてる感じがしたのよ! 次もこの髪型にしてちょうだいね!」
スバルの教えてくれた髪型はみんな大好評。みんな派手でハッタリが利いてるのがいいんかな?
夜会がある日なんか、髪型が重ならないように配慮するのは大変だけどね。
「すごいですね。形を教えただけなのにモノにするとは。流石はわたしの共同経営者で同居人!」
「あんな複雑なの先輩しかできませんよ……」
実際、スバルが教えてくれた髪型って、繊細すぎるか豪快過ぎるかで、今のところあたししか出来ないんだよね。
でも。
なんか……褒められ慣れしてないから照れる!
娼婦してた時、客を増やすために磨いた技術が、こんなところで役に立つなんて……人生ってわからない。
「え、いや、練習すればできるようになるって! あたしでもできるんだから!」
いいのかなぁ。
あたしがこんな風に、褒められたりして。
「くくく。あの崩れやすい髪型なら、またすぐ、店へ来てもらえますしね……」
「うわ。それが狙いだったのかい!?」
「商売上手だと言ってください」
経営はスバルがやって、店はあたしが回す。
後輩たちも、ほがらかに楽し気に働いてくれる。
万事快調♪
「先輩! じゃなかった店長! ここ、よくわかんないんですけど」
「どれ見せて……ああ、ここはまずクリームで形を整えてから切るといいよ。ちょっとやって見せるから」
「先輩! あ、先輩店長! あのご婦人が、髪型を変えたいって! でも、最初に言われたのでかなり進めちゃってて」
「あたしが直すから! 隣でよく見てて!」
もちろん色々とトラブルもあるけど。
でも、やっぱり楽しい。
店が閉まってから、飲み屋にいって騒ぐのも楽しい。
というか、あたし、みんなでお酒飲むとかしてなかったんだよね。
あまりお酒強くないし……。
男に酔い潰されて、タダで抱かれたりしたら大損だったし……。
お金を盗まれたりしたら最悪だったもの。
だけど、彼女達相手だと、なんか……油断してしまう。
「飲め! 飲め! みなさん飲んでください!」
「ボスって強いですよね……」
「そりゃ、わたしは北の大地の生まれですから、度が強い酒しかなかったので、王族のたしなみで強くて当然なんです」
単なる飲んべえなのでは?
でもいいなぁ。こういうの。
同僚っていうか、後輩っていうか……。
仲間っていうか……。
な、なんか恥ずかしいけど! みんなかわいいし!
娼館ではみんな敵だったからなぁ……。
こんな日々を過ごしていたら。
いつしか悪い予感のことなんて忘れていたんだけど……。
予感の方があたしを忘れていなかった。
忘れてよ!
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します
少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、
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この作品は『 お姉様が大嫌いだから、評判の悪い侯爵様のところへ嫁に出してやりました。』という作品の続編という位置づけなので、もし、もう少しこの異母姉妹のことを知りたいと思っていただければ、この作品もあわせてお読みください。




