4 あたしの同居人は、なにかありげな寝言をこぼす
「はい、これが貴方の部屋です」
あたしの部屋は、店の二階部分、スバルが寝起きしている区画の一部屋。
倉庫に使っていた部屋だった。美容の道具とかを取りに来たことがあるんで覚えてる。
「せまっ」
ちいさな窓がひとつ。
ベッドとわき机でいっぱいいっぱいだ。
といっても、あたしの私物は大きなトランクひとつしかないから問題ないけど。
でも、せまい。
「開店準備のあいだ、一時的に置いておいたもんを運び出したらちょうど空いたんです。運がよかったですね! ここは貴方が使うのが運命だったんです! 貴方は運命と出会ったんです!」
ヒトの話を聞かんか。しかも、何かいい話っぽくまとめようとしてるし!
とは思ったけど、スバルが使っているメインの部屋はしっちゃかめっちゃかで迷宮なので、そこの隅で寝ろと言われるよかマシだと思い直した。
それにスバルは男じゃないから、夜、酔っぱらってベッドに入ってきたり、寝ている時無理やりされるようなこともないだろう。
なにより、なんと言ってもタダ! タダは素晴らしい!
「今日からよろしく」
スパルとの同居は、思ったより面倒じゃなかった。
部屋はしっちゃかめっちゃかで、整理整頓という言葉を母親のお腹の中に置いて来たようなスバルだったけど、あたしもまぁ人に自慢できる整理魔ってわけでもない。
自分の部屋だけ片付けて、それ以上はしなくても、文句は言われなかった。
それに、あたしに食事を作れとか要求してくるわけでもない。
ただ、引っ越ししてきたその日の夜。
あたしの方が先に自分の部屋でベッドに入って、うつらうつらしはじめたら。
隣の部屋から、なんか変な声がしはじめた。
うっすいとはいえ壁越しなのでなにを言っているかは判らない。
少なくとも、男を引っ張り込んで一戦しているわけじゃあないことは判った。
まぁ、それでもいいんだけど。
それで眠れなくなるというほどヤワじゃあないので、気にしないでそのまま寝た。
その次の日。開店二日前。
あたしが遅くまでいろいろしてたり点検してたりしてたら、すっかり遅くなって。
2階に上がった時には、すでにスバルがいた。
あたしの部屋に入るには、スバルの部屋を通らなくちゃならないので、見る気はなかったけど寝姿を見せられた。
余程疲れていたのか、あの黒いスーツのままベッドに倒れ込んでいた。
黒いハイヒールまで穿いたままだった。
ご自慢の銀髪は乱れて。
疲れ切った顔をしていた。
あたしや店の子や、商売相手や町のお歴々の前では絶対に見せない弱弱しい顔だった。
「……」
うん。見なかったことにしておこう。
ただ、このままだと風邪をひくかもしれないんで、あたしはスバルのハイヒールをそっと脱がした。
うわ、ちいさな足。
ちょっと考えてから、いかにも脱ぎ捨てた感じに、ベッドのすぐ脇へ放り出した。
スーツを脱がすと起こしてしまうかもしれないんで、ベッドの脇に放り出されていたタオルケットをかけるだけにしようと――
「やめて……」
ひどく弱弱しい声だった。
「え……?」
慌てて顔を見ると、寝言だった。
「これいじょう……ひどいこと……しないで……」
タオルケットをかけようとしただけなんだけど……。
いや、そうじゃない。
あたしは、タオルケットをかけようと、軽くおおいかぶさっている。
スバルは、何かから必死に身を守ろうとしているみたいに、身体を固くして、両腕で胸と顔を隠そうとしている。
「いやなの……もう……ゆるして……」
ぎゅっと閉じた目の縁から、つうっと涙がこぼれた。
ああ。
このひと、なにかに、無理やり、乱暴されたことがあるんだ。
あたしが娼婦してたころ、男に何度も何度も乱暴された人が、似たような仕草をしていたことがあった。
不意に、スバルが言っていたことを思い出した。
『わたし、有能だったので、兄達の陰謀で王族の籍から抹消されて凶悪犯どもの牢屋に放り込まれてたんで助かりまして。日頃の善行のたまものです!』
凶悪犯どもの牢屋。
雑居房で、男だらけの牢屋だったなら。
そこに、結構かわいくて若い女の子が放り込まれたら。
どんな目に遭うか。
あたしは、ほとんど反射的に口に出していた。
「だいじょうぶ。ここには、あんたをそんな目にあわせるやつはいない」
「え……」
「いない。いないよ。ここにはいない」
あたしは、固く身を守っているスバルの腕をそっと撫でた。
「ここは、あんたにとってのパラダイスなるかもしれない場所だから」
ははっ。ぱらだいすだってさ。
このあたしの口から、そんなありえない単語が出て来るなんて、笑える。
だけど、そうなるといいね。
この店が、スバルや後輩ちゃんたちみんなにとってのパラダイスに。
しばらくすると、スバルは落ち着いて、静かな寝息を立て始めた。
「世話が……やけるな……」
と、思わずつぶやいちゃったけど、
でも、こういうことを抱えたスバルが、あたしを同居人に指名したっていうのは……信用されてるってことで。
「あたしとか信用しないで欲しいんだけど……」
とか言いつつ、あたしはちょっとうれしかった。
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します
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この作品は『 お姉様が大嫌いだから、評判の悪い侯爵様のところへ嫁に出してやりました。』という作品の続編という位置づけなので、もし、もう少しこの異母姉妹のことを知りたいと思っていただければ、この作品もあわせてお読みください。




