3 あたしの自称相棒
まだ一味が残っているかもしれないんで、保安官さんの家に泊めてもらって。
お礼代わりに、奥さんの髪をサービスしてから、出勤したら。
スバルが、店の入り口で仁王立ちになって待っていた。
「げ」
あたしより、ちょっとだけ背が低いくせに、波打つ銀髪を逆立てて、真っ黒なスーツをビシッと決めてて、すんごい迫力。
これはメチャクチャ怒ってる!
思わず後ずさりするよりも早く、むんずと耳を掴まれて、
「話は聞かせてもらいました! わたしの情報網をなめないことです! 説教です!」
「ちょっとまった! 開店準備が!」
「だいじょうぶです。貴方がいなくても出来ることだけをしててもらいますから!」
出勤してきているみんなは、気の毒そうな顔でこちらを見るばかり。
あたし結構いい上司だよ!?
怒鳴らないし、ちゃんと話は聞くし!
丁寧に教えるし! 自分で言うのもなんだけど教えるのうまいし!
ご飯だっておごることあるし!
こういう時、ひとりくらい助け舟を出してくれたっていいじゃん!
と思ったら、一番腕のいい後輩ちゃんが、すっと手をあげてくれた。
日頃の積み重ねが報われたよ!
「ボス! 先輩は働きすぎなんで、ちゃんと休むように説教してやってください!」
「え」
別の子も続いて、
「そうです! あと、わたしたちの勤務時間は守らせるくせに、自分の生活は滅茶苦茶なんで、それも説教してやってください!」
うわ。みんないい子たちで……うらぎりものぉ!
「うふふ。貴方慕われてるじゃないですか」
そのまま2階に引きずられていくあたしでした。
で、スバルの部屋で、床に正座させられて。
事情を問い詰めに問い詰められて、残らずゲロさせられたあと。
えんえんと説教タイム。
「これから夜道をひとりで絶対に歩かない! わかりましたか! それにです。貴方が帰らないと、みんなも帰りにくいです。貴方は上に立つ者の自覚が大いにかけています!」
えっらそうに腕くんで、ふんぞりかえって説教されてる。
しかも、言いたかないけど、乱雑でしっちゃかめっちゃかな部屋に住んでる人に、生活態度だの上に立つ人間としてとか言われても……。
「ほほう。何か言いたそうですね?」
「え、いや、でも、あたしの家、ちょっと先なだけだし。心配しすぎ――」
「口答えしない! 襲われましたよね。昨日、現実に。相手が革命行動隊だったら、即銃殺されてるか、極寒の収容所送りでした。わたしの一族なんか、わたし以外は皆殺しですよ!」
「いや、あいつら、そのかくめいなんたらじゃないし……」
ごごごご、と銀髪が逆立つ。
こわっ。
「だまらっしゃい! 現に襲われた以上、ひとりで帰るの禁止です!」
「……はい、肝に銘じます」
まぁ、一緒に住んでるわけでもないし。
社交だ営業だ資金調達だと、飛び回ってるスバルが、あたしを逐一監視できるわけでなし。
なんとかなるでしょ。
「わかればよろしい! 貴方はわたしエメラルダス・ジオーネ・スバルの大事な共同経営者なんですからね」
たまに出るその自称、恥ずかしくないんか?
と言いたいところだけど、このハッタリが結構ものをいうらしい。
彼女が経営と営業。あたしが技術と現場。
スバルは革命が起こった国の王族(自称)だったんだってさー。
ウソだろうけど、確かに礼儀作法やマナーは完璧。
人脈作りはお手のものらしく、いつのまにかこの町の名士のひとりっぽくなっている。
資金もどっかから引っ張って来てくれた。
そもそもの出会いは、この町の名士たちの会合に潜り込もうとしていたスバルが、あたしを髪結いに呼んだのが始まり。
元王族だろうが詐欺師だろうが、金を払ってくれれば客!
騙されさえしなけりゃオッケー。
そんで何回か呼ばれてるうちに、腕を滅茶苦茶気に入られて。
『そんだけ腕いいんだったら美容院やんない?』
ピンときた。
これは開店資金が必要とか言って、金をまきあげようってつもりだと。
『無理。お金ないし』
と素っ気なく答えたら。
『元王族であるわたしに任せなさい! 店と金は準備するから、店員の指導と教育はあんたに任せる!』
と小さな胸を張って言うから、
『んじゃあ任せる。期待しないけど』
って答えたら。
あれよあれよという内に、
いきなり、汽車(水と石炭で動く乗り物らしい)の駅ができる場所の広場に面した空き地に連れていかれて、
『ここに店建てますから』
『はぁ、景気いい話だね』
次に、新聞を突きつけられて
『店員募集の広告載せておきましたから、一週間後には面接ですよ』
『来ないってこんな怪しげなの』
そうしたら、怪しげな広告なのに来るわ来るわ!
当然、面接にも立ち会わされて。
『うふふ。野望の帝国のはじまり! 北の極寒の大地に消えた我が帝国を、この国で大美容帝国として復活させるのです!』
『ええっ? マジ?』
それからは怒涛の日々。
空き地だった土地には、突貫工事で派手な看板付きの建物が完成しちゃうし。
なんか、個人じゃとても買えないような、最新の髪結いや美容の道具が運び込まれてるし!
あたしは、最新の器具の扱い方の勉強はしなくちゃなんないし、それに加えて、集まった子たちに、道具の使い方だの、髪型を作るコツだのを教えるのでてんてこまい。
気付けば、美容院の開店三日前!
「で、どうするんです?」
ああー。
ようやく説教おわった……。
「立っていい? 脚しびれた」
「いや、そうではなくて。いえ、正座はもういいですけど! これからどうするんです?」
あたしは痺れた脚をさすりながら、
「どうもしない。だって、あのひとの旦那かどうかもわかんないし」
「それはそうですね……でも、帰りたいですか?」
「まったく」
「わかります! わたしも帰りたくないですから」
「スバルの場合は、帰ったら縛り首だからでしょ」
本当の王族ならだけどね。
あ。詐欺師でも縛り首か。
「そうではありません。革命政府とやらは人道的なんです。すぐに死ねるギロチン一本やりですよ。仲間同士だってそれでポンポン飛ばしあってますから!」
人道的なのに、お貴族様達や仲間の首をぽんぽん落とすかなー。
殺し方の問題じゃない気がするけど。
「帰らなければ問題ないんでしょ?」
「ま、そういうことです。わたしたち、ここで成功するしか道はないんですよ! 失敗したら一緒に逃げましょう!」
「なんであたしまで!」
なんかいつのまにか、相棒ってことになってる。
まぁいいけど。
「あと、今日から、わたしと一緒にここに住みなさい。これは王命です」
「ええぇぇぇぇぇぇっ! って、元王族でしょ!? 王命っていうのは王様しか――」
「王命です。わたし、世が世ならエメラルダス4世として即位してたかもしれないので。なんせ、わたしの兄どもはバカばっかりでしたから。王家の唯一の希望とか言われてたんですよ」
「そんなん真っ先に処刑されるんじゃないの?」
「わたし、有能だったので、兄達の陰謀で王族の籍から抹消されて札付き凶悪犯だらけの牢屋に放り込まれてたんで助かりまして。日頃の善行のたまものです!」
「う、うそくさ!」
なめらかにしゃべるところが、かえってウソくさいんだよね。
それに、日頃の善行のたまものなら、そもそも牢屋に入らないのでは……?
「ふ。世が世なら不敬罪で縛り首ですが、貴方は相棒ですから特別に許してあげましょう」
「涙が出るほどありがたいね」
「そうすれば夜道をひとりで帰る必要もなくなりますから! それに、家賃はタダにしてあげます!」
「あ、そんなら。そうします」
タダ! その魅力にはあらがえない!
「その代わり、炊事洗濯掃除は交代でしてください」
「王様とは思えない慎ましい要求!?」
「なら、家事炊事洗濯は全部――」
「最初の条件で問題ありません!」
そんなわけで、あたしはスバルと同居するようになったとさ。
後日、保安官さん達が調べたところ、確かにあの国の人間に雇われた輸送船が港に停泊してた。
しかも、そこから、あたしの人相書きまで出て来たんだそうだ。
船長に面通しさせたたら、アザの男に雇われたことまでは判明したけど、当然ながら偽名だったので異母姉の旦那かは判らなかった。
船倉にはひとつ、でかい檻があったんだって。
動物を仕入れて運ぶ、と言ってたらしいので、捕まらなくてよかった!
異母姉の旦那かもしれない人は、凶悪な奴隷商人ということで処理された。
我が国は治安はアレだけど、奴隷売買は禁止なんで。
もちろん、異母姉への連絡はなし。
仮に知ったとしても、旦那が人さらいなんて体面が悪いから、なかったことにして……くれないかなぁ。
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




