【3】「それは珍しい動物だ」←分かる人、挙手!
御簾の手前には、美しい木彫りの椅子が二つ並んでいた。
ガブリエルが椅子に腰を下ろし、長すぎる完璧なラインの足を組みながら、
「神は全知全能であられる!」と、神への感謝の祈りを捧げようとしていると――
するすると音もなく御簾が上がった。
ルシアンを含む三人の匠が揃い、正式に長者の前へ召されて、このたびの仕事を申し渡される。
だが、ガブリエルの耳には、そんな話はまるで入ってこない。
なぜなら、彼は頭を抱えていたからだ。
――ルシアンよ!!
確かにこの世界は神の尊き御業で、我々の衣は問題ないらしい!……らしいが!!
なぜ!?なぜ、そんな柄on柄のスーツで"あぐら"をかいているのだ!?
せめてジャケットを脱げ!!
そうガブリエルが心の中で毒づいている間にも、長者の言葉は続く。
長者は傍らのガブリエルを見やり、厳かに言った。
「この姫の今生後生を守りたもう尊い仏の御姿を刻んでもらいたい。
持仏堂におさめて、姫が朝夕拝む御仏の御姿と、それをおさめる厨子が欲しい。
御仏は弥勒菩薩。その他は銘々の工夫に任せるが、姫の十六の正月までに仕上げてもらいたい」
ガブリエルは思わずガハッと長者を見てしまった。
――私は……今は十五なのか……?
……このボディで……???
やがてルシアンを含む三名の匠がその仕事を正式に受けて挨拶を終えると、酒肴が運ばれてきた。
長者とガブリエルは正面に一段高く座し、左手には三名の匠の膳が、右手にも三つの膳が並べられた。
そこにはまだ誰の姿も見えなかったが、ガブリエルは「重臣の席であろう」と呑気に考えていた。
――だが。
ルチアーノが突然現れたのだ。
しかも彼は、ロクシーとイレイナを伴って。
長者が長々と、ロクシーとイレイナの人となりを語り出す。
要約すれば――
「この二人は遠い里から虹の橋を渡り、はるばると夜長姫の着物を織るために飛騨の奥まで来てくれた」――ということらしい。
だが最後に長者が放った一言で、ガブリエルは危うく椅子から転げ落ちそうになった。
「母をイレイナといい、娘をロクシーという。
姫の気に入った御仏を造った者には、美しいロクシーを褒美に進ぜよう」
――つまり、ロクシーとイレイナのこの昔話での役割は、長者が金に飽かせて買い入れた、機を織る美しい奴隷だということか!
その時、ガブリエルはふと思った。
私は恩寵を消されているので分からないが……イレイナは魔術を使えないのか?
考えてみれば、ルチアーノも悪魔の力を持つはず。
だが彼が本当に使えるなら、わざわざ二人を連れて来たりするだろうか?
まさか……ルチアーノもイレイナも、ここでは力を発揮できない……!?
しかし、そんな疑問も――ルシアンの放った言葉で、すべて吹き飛ぶ。
「この女が、山を越え、湖を越え、野を越え、また山を越えて、野を越えて、また山を越えて、大きな森を越えて、泉の湧く里から来た機を織る女だと?
それは珍しい動物だ」
――ルシアン……!!
意味不明が過ぎる!!
それにその言い方は、人間で言うところの『棒読み』ではないか!!
せめて聖書を読むくらい滑らかに喋れ!!
すると、ロクシーが静かに立ち上がった。
長者に軽く黙礼し、ズカズカとルシアンの前へと進み、立ち止まって彼を見下ろす。
そのまま膳部の横を半周してルシアンの背後へ回り込むと――
そっと、ルシアンの耳をつまんだ。
ガブリエルはただ、固まったように身体を硬直させた。
ロクシーの手には、鞘から抜かれた懐剣がギラリと光を放っていた。
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