【2】ハリウッドから日本昔話へ転生した件〜天才匠ルシアン、爆誕〜
――木の匂い、粗末な土壁。
目を開けた瞬間、私は、見知らぬ小屋の中にいた。
ルシアンは、状況を、即座に把握する。
「……ここは、日本の昔話の世界か!」
西洋の大天使であるはずの彼が、
なぜか、古き日本に立っている。
だが、迷いはない。
私は、一瞬で理解する。
私は、
花露姫という人間に仕える職人、清弥であること。
若いながらも、師の骨法を全て会得し、
更に、独自の工夫も編み出した程の、天才匠であること。
ライバルが、四人いること。
そして、確信する。
これは、正しく、神の新たな試練!
恐れ多くも、神は、私に聖なる務めを果たせと、仰せられている……!
大天使ルシアンとして……!
ルシアンが、誇らしげに頷いた次の瞬間、
背後から、ルチアーノの声が響いた。
「ルーシアン♪
俺様も、無事に転生したぞー!」
ルシアンは、一瞬で悟る。
ルチアーノは、
『富松』という長者の一番の部下に、転生したことを。
しかし――
ルチアーノは、地獄の王としての能力は、失っていない。
なぜ、そんな役割を受け入れているのかは、不明だった。
そんなルシアンの視線を、感じ取ったルチアーノが、
ウキウキと、語り出す。
「実は!
なんと、アンジュちゃんが、
長者の一人娘の“花露姫”に、転生しちゃってるんだよー!
つまり、お姫様と、しがない職人の恋……!!
リリカルな感性の俺様は、閃いた!
俺様が、富松になれば、動きやすいってな!
ルシアン!
今度こそ、初恋、成就させてやるからなー❤️」
――意味が分からない。
……これで、良いのか……???
アンジュ――大天使ガブリエル――の頭の中は、
ハテナマークで、いっぱいだった。
確かに、私は、器の衣を着ている!
それは、聖なる衣!
でもなあ……
この、日本の昔話の世界で、
真っ白なコートに、クリスタルピンヒール、
そして、真っ赤なランジェリー姿でも――
古風な衣に身を包んでいる侍女達は、
全く、驚かない!
これって、正解!?
しかも、私の器の“アンジュ”は、金髪碧眼、
その上、ランジェリーモデルとして、完璧なボディを持っているというのに……
誰も、眉一つ動かさず、
穏やかな微笑みを浮かべて、私の世話に明け暮れている……!
……ん……?
ハッ……!!
つまり、これは、神の尊き御業!
神の御心の深さに、
この私、大天使ガブリエルは、聖なる祈りを捧げよう……!
そう、ガブリエルが、心を燃やしていると、
御簾の向こうから、侍女の静かな声がした。
「花露姫さま。
職人どもが、集まっております。
長者さまが、ご一緒するようにと」
ガブリエルが、すっくと立ち上がる。
花露姫に、転生したからには――
神に恥じぬ働きを、してみせる!
そう決意したガブリエルは、
「分かった!ゆこう!」と、高らかに宣言した。
御簾の手前には、
美しい木彫りの椅子が、二つ、並んでいた。
アンジュが、椅子に腰を下ろし、
長すぎる、完璧なラインの足を組みながら、
「神は、全知全能であられる!」と、
神への感謝の祈りを捧げようとしていると――
するすると、音もなく、御簾が上がった。
ルシアンを含む、五人の匠が揃い、
正式に、長者の前へ召されて、
このたびの仕事を、申し渡される。
だが、アンジュの耳には、
そんな話は、まるで入ってこない。
なぜなら、頭を抱えていたからだ。
――ルシアンよ!!
確かに、この世界は、神の尊き御業で、
我々の衣は、問題ないらしい!……らしいが!!
なぜ!?
なぜ、そんな柄on柄のスーツで、“あぐら”をかいているのだ!?
せめて、ジャケットを脱げ!!
そう、アンジュが、心の中で毒づいている間にも、
長者の言葉は、続く。
長者は、傍らのアンジュを見やり、厳かに言った。
「この姫の生涯を守護する、御仏の御姿を刻んでもらいたいのだ。
持仏堂に納め、朝夕拝む御仏と、その厨子を望んでおる。
御仏は、弥勒菩薩。
工夫は任せるが、十六の正月までに、仕上げよ」
アンジュは、思わず、ガハッと、長者を見てしまった。
――私は……今は、十五なのか……?
……このボディで……???
やがて、ルシアンを含む、五名の匠が、
その仕事を、正式に受けて、挨拶を終えると、
酒肴が、運ばれてきた。
長者とアンジュは、正面に、一段高く座し、
左手には、五名の匠の膳が、
右手にも、三つの膳が、並べられた。
そこには、まだ、誰の姿も見えなかったが、
アンジュは、
「重臣の席であろう」と、呑気に考えていた。
――だが。
ルチアーノが、突然、現れたのだ。
しかも、彼は、ロクシーとイレイナを伴って。
長者が、長々と、
ロクシーとイレイナの人となりを、語り出す。
要約すれば――
「二人は、遠い国から、はるばると、
花露姫の着物を織るために、
この地まで来てくれた、天才織り女」――
ということらしい。
だが、最後に、長者が放った一言で、
アンジュは、危うく、椅子から転げ落ちそうになった。
「母は、イレイナ、娘は、ロクシーである。
姫の気に入った御仏を造った者には、
約束の褒美に加えて、
美しいロクシーも、褒美に進ぜよう」
――つまり、
ロクシーとイレイナの、この昔話での役割は、
長者が買い入れた、
機を織る、美しい職人だということか!
その時、アンジュは、ふと思った。
私は、恩寵を消されているので、分からないが……
イレイナは、魔術を使えないのか?
考えてみれば、ルチアーノも、悪魔の力を持つはず。
だが、彼が、本当に使えるなら、
わざわざ、二人を連れて来たりするだろうか?
まさか……
ルチアーノも、イレイナも、
ここでは、力を発揮できない……!?
しかし、そんな疑問も――
ルシアンの放った言葉で、すべて吹き飛ぶ。
「この女たちが、
わざわざ、遠い国から、はるばるやって来た織り女だと?
それは、珍妙・奇っ怪・珍奇・突飛なことだ」
――ルシアン……!!
それは、全部、同じ意味の日本語!!
それに、その言い方は、
人間で言うところの、『棒読み』ではないか!!
せめて、聖書を読むくらい、滑らかに喋れ!!
すると、ロクシーが、静かに立ち上がった。
長者に、軽く黙礼し、
ズカズカと、ルシアンの前へと進み、
立ち止まって、彼を見下ろす。
そのまま、膳部の横を半周して、
ルシアンの背後へ回り込むと――
そっと、ルシアンの肩に、手を置いた。
その瞬間、
ガブリエルは、ただ、固まったように、身体を硬直させていた。
なぜなら――
ロクシーの手には、
鞘から抜かれた懐剣が、ギラリと光を放っていた。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
明日も17時更新です☆
Xはこちら → https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪
\外伝の元ネタはこちら✨/
『最強捜査官』本編 → https://ncode.syosetu.com/n2892lb/




