第56話(番外編) 声優部、次の冒険
「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。
声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!
第1話と第2話、第16話と17話を井上さんに朗読していただきました!
朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!
謎の対談も、聞いていただけると幸いです(笑)
https://x.gd/9kgir
更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」
「雫! さっきのハチドリ、語尾が弱い!」
「凛ちゃん、厳しすぎるよぉ」
雫たち声優部の面々はその日の部活を終え、帰宅の途についていた。
次の三叉路までは、アニ研の姫奈と英樹を含め、皆同じ方向である。
「そうですわ。雫さん、頑張っていると思いますわよ」
皆と歩きながら、麗華が雫に同意した。
「凛、パワハラ」
結芽がジトっとした目を凛に向ける。
「ちゃうっちゅーねん!」
「パワハラじゃないなら、ハラホロヒレハレ」
「なんじゃそりゃーっ!?」
例によって麗華が、小脇に抱えていた巨大な本をバサッと開く。
「そもそもお二人は友人ですからパワーハラスメントではありませんわね。さて、ハラホロヒレハレとは……」
パラパラとページをめくり、ピタっと手を止めた。
「ありましたわ。ハラホロヒレハレ、とは」
ちょうど赤信号で歩みを止めていた全員が麗華に注目する。
「ありゃりゃ、まいったなあ、なんだこりゃ、などのニュアンスで使うフレーズで、ハナ肇とクレージーキャッツのギャグとして世間に浸透した」
それを聞いた雫が首をかしげる。
「この話、なんだか聞いたことある気がするよ?」
「私も」
隣で凛がうなづく。
「そうですわね。わたくしにも以前、みんなに読んで差し上げた記憶があります」
「凛、物忘れひどい」
「結芽に言われたくないっちゅーの! あんたは覚えてたってぇのかい!?」
「覚えてない」
「ハラホロヒレハレ〜って、こんな時に使うんだ! きっと!」
「あら?」
ページを見つめていた麗華の顔に、少し不審な色が浮かぶ。
「麗華ちゃん、どうしたの?」
「以前見た時には書かれていなかったことが、増えているような気がして……ええと、音楽番組『シャボン玉ホリデー』で、台本の動きの説明に『ハラホロヒレハレ、となる』と書かれていたのを、谷啓がそのままセリフとして読んでしまったのが始まりとも言われている……」
雫が再び首をかしげた。
「ホントだ。その話は聞いたことないと思う」
「内容が勝手に増えていくなんて、その本、やっぱりグリモワールだ!」
と、英樹が叫んだ。
「グリム童話?」
「違う! 魔法の書物、グリモワール! 『ソロモンの鍵』とか『レメゲトン』、『ヴェルム』とか!」
こいつ、何言ってるのかサッパリ分からん、という顔を英樹に向ける凛。
そして冷静に麗華がひと言。
「いいえ、これは普通の百科事典ですわ」
だが、麗華がそう言い終わらないうちに、その本がまぶしく光り輝き始めた。
「まぶし……」
そう凛が言いかけたと同時だった。雫たちがたたずむ歩道に、巨大なトラックが突っ込んで来たのは。
「……あれ?」
目を開けるとそこは、見知らぬ天井、ではなく、見知らぬ玉座の間だった。
豪華なシャンデリア。石造りの床。ずらりと並ぶ甲冑姿の兵士たち。正面の玉座には、白い顎ひげを蓄えた老王。そしてその両脇に、緊張した顔の神官と騎士たち。
「みんないる!?」
あわてて叫ぶ凛に、雫も急いで周りを見回した。
凛、麗華、結芽、姫奈、英樹——六人全員揃っていた。
いや、全部で八人だ。
「おい! ここはどこだ!? いったい何が起こったんだ!?」
「どうして私、お城にいるのよ!? お芝居はとっくに終わったはずじゃないの!?」
放送部の安田部長と演劇部の青島部長である。
「わたしたち、召喚された」
と、結芽がポツリと言った。
そんな結芽を指差して叫ぶ凛。
「キクラゲもいっしょだ!」
「ぬいぐるみより、どうして俺たちも一緒なんだ!?」
いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「まずは、状況の把握をいたしましょう」
そんな麗華の冷静な言葉を無視して、英樹が歓喜の声をあげた。
「部長! ここってもしかして!?」
ゆっくりとうなづく姫奈。
「異世界ね」
「憧れの異世界転生! 異世界転移と言った方が正しいか? いや、これは異世界召喚に違いない!」
結芽がジト目を英樹に向ける。
「それ、さっき私が言った」
「いや、まぁ、確認の意味で言っただけで……」
「みんな静かに! 困った時は、麗華が正しいに決まってるっちゅーの! まずは現状把握じゃい!」
凛はそう叫ぶと、玉座に座る王らしき人物に視線を向けた。
同様にその人物に目を向ける一同。
「勇者たちよ! よくぞ参られた!」
王はゆっくりと立ち上がり、雫たちに向けて朗々とした声で宣言する。
「この世界は魔王の脅威に晒されておるのだ。汝らの特殊スキルをもって、我らを救ってくれい!」
そんな老王に、神官がこっそり耳打ちした。
「勇者たちって、複数形ですか? 召喚の儀で呼び出せるのは一人のはずでは?」
「わしも知らん。でも来てしまったものは仕方ない」
老王と神官がひそひそ話しているのが、静かな玉座の間にまるごと聞こえていた。
スッと手を挙げる雫。
「スキルって何ですか?」
結芽が肩をすくめてため息を吐く。
「もうどうでもよくなっちゃった。やめようかな」
すかさず凛が突っ込む。
「それは“あきる”このジーちゃんが言ったのはスキル!」
「誰がジーちゃんじゃ! わしゃこの国の王じゃぞ!」
「まぁ、落ち着いて」
ハァハァと息を切らせて声を上げた老王を、神官がなだめている。
「この薬さえあれば、わしは強くなれるんじゃ」
「それはジキル博士とハイド氏のジキル! このジジィが言ったのはスキル!」
「誰がジジィじゃ!」
「王よ、落ち着いて!」
「作画が落ちたと思ったら、最終回は放送延期か」
「それは万策尽きるの尽きる! この老いぼれが言ったのは――」
そこに麗華が割り込んだ。もちろん例の本を広げている。
「スキルとは、そのキャラクターが持っている特殊な能力・技術・特性のことです」
その時、神官が懐から水晶玉を取り出し、雫たちにかざした。
「汝らのスキル、調べさせていただく!」
勇者① 淡島雫 スキル:【声】 ランク:S
「おおっ!」と玉座の間がどよめいた。
しかし神官はかまわず次に水晶をかざす。
勇者② 高千穂凛 スキル:【ツッコミ】 ランク:S
「……ツッコミ?」
玉座の間に疑問符が溢れた。
「何? 文句あるんかい!?」
周りを睨み返す凛。
「い、いえ……」
勇者③ 伊勢麗華 スキル:【魅了】 ランク:A+
「あら」麗華が上品に微笑んだ。
「まあ、妥当ですわね」
勇者④ 桜田結芽 スキル:【愛護】 ランク:A
「……愛護?」
首をひねる雫に、騎士の一人がささやく。
「モンスターや精霊を懐かせるスキルです」
「あ、キクラゲ!」
そう言って目を向けた雫に、バッチリだとサムズ・アップする結芽。
いや、ぬいぐるみも自分で親指を立てていた。
「キクラゲ、生きてる」
結芽にしては珍しく、驚きに目を丸くする。
この世界では、ぬいぐるみにも命が吹き込まれるのだろうか?
勇者⑤ 会津姫奈 スキル:【鑑定】 ランク:S
「さすが部長! アニメの良し悪しを見極める天才ですから!」
「そ、そうかしら」
少し照れたように頬を染める姫奈。
勇者⑥ 諏訪英樹 スキル:【治癒】 ランク:B
「すわっち、何を治癒してくれるっちゅーの!?」
すかさず突っ込む凛。
「いや、僕に聞かれても」
「場を和ませる」
結芽のひと言に、凛も納得した。
「バカやって、みんなが笑顔になるってのは、すわっちの才能かもなぁ」
勇者⑦ 安田正広 スキル:【広域布告】 ランク:B
今度は正広本人が首をかしげた。
「どんな能力なのか、サッパリ分からんな」
だが凛が明るい声で言う。
「分かりやすいじゃん! ナレーションだよ! 沢山の人に何かを伝えるスキル!」
「おお! なるほど!」
勇者⑧ 青島香澄 スキル:【悪役令嬢】 ランク:A
「まぁ、私にピッタリね」
ニヤリと笑顔を見せた香澄は、まさに悪役令嬢そのものである。
皆のスキルが判明したところで、雫が改めて老王に向き直った。
「魔王を倒す前に、ひとつだけお願いがあります」
「聞こう」
「いやいやいや、雫! まだたいして何も分かってないのに、いきなり魔王を倒すって!?」
そこからのひと悶着を収めたのは、さすがのスキル持ち、場を和ませる能力に長けた英樹である。異世界がどういうところなのか、たいていどんなシステムになっているのかなど、彼のアニメ知識が存分に発揮されたのだ。
「それで、何を望むのか?」
再び老王が問いかける。
「わたしたち、まだ全員、声優の練習を始めたばかりなんです」
老王が首を傾けた。
「声優……じゃと?」
「私たちのスキルから考えて、魔王を倒すには声の力、声優としての実力が必要なんだと思います。せっかく八人全員でここに来たんだから……練習する時間をもらえませんか!?」
「……魔王が我が国を滅ぼすのに、そう長くはかからんのだが」
「どのくらい急ですか?」
老王は、神官たちと何やら話し込み、スッとその目を雫に向けた。
「うむ……数ヶ月なら猶予があるかもしれん」
パッと明るい顔になる雫。
「じゃあ大丈夫です。その間に、部活します」
「部活とな?」
「声優部です。基礎練習、アクセント、演技、発声——全部、ちゃんとやります。魔王と戦う前に、まず自分たちを磨かないと!」
老王が目を細めた。真剣な目だった。
「……声を鍛えるということか……わしらにはその概念はないのだが」
雫は真っすぐに老王の目を見つめる。
「スキルやランクがあったとしても、練習しないと声は育たないんです。それ、わたしたちが一番よく知ってるので」
雫が凛に目をやる。
言うじゃん、という表情で笑顔を見せる凛。
その時、姫奈がそっと手を挙げた。
「あと、できれば練習場所が欲しいです。大きな声を出しても迷惑にならないところを」
「キクラゲのベッドも」
「そいつベッドで寝るんかーい!」
「天蓋付き希望」
「それ、私が欲しいっちゅーねん!」
老王はしばらく黙っていたが、何か耳打ちしようとした神官を手で制した。
そして、ゆっくりと——笑った。
「……面白い者たちじゃ。よかろう」
「本当ですか!」
「ただし条件がある」
「聞きます」
「魔王討伐までに、この国の民の前で一度、声を聞かせてくれ。どれほど声が育つのか、わしも見てみたい」
雫は皆の顔を順番に見た。
麗華が静かに、上品な笑顔でうなづいた。
結芽がぬいぐるみと一緒にうんうんしている。
姫奈が「しょうがないわね」と笑顔で言った。
英樹が「世界初の異世界声優だ!」と嬉しそうに微笑む。
凛が「ドリフターズは次の船に乗り換えじゃ!」と笑った。
雫は老王をまっすぐ見る。
「——やります」
そして大きく息を吸い、
「異世界でも、声優部作ります!」
こうして八人は、異世界で声優部を立ち上げることになった。玉座の間の隅に、仮の練習スペースを作ってもらい、その日の夜からさっそく発声練習を始めたのだ。それを兵士たちが、廊下でこっそり聞き耳を立てていたのは、また別の話である。
そう——ハチドリは、八羽で飛んでも、一滴ずつ、水を運ぶのだ。
そのひとしずくが、いったいどうなったのか?
それはまた次の機会に。
というわけで、番外編と言うかスビンオフと言うか、ちょっと変わり種のお話をお届けしました。
いかがでしよう? 楽しんでいただけましたでしょうか?
もし好評なら、巨大ロボットアニメ風、ホラー風など、他のパターンの番外編もお届けするかもしれません(笑)
ぜひ、感想などを知らせてくださると嬉しいです!
来週からは、お休みしていた別の小説「超機動伝説ダイナギガ」の連載を再開する予定です。
今後もぜひ、私の小説をお楽しみください!




