13・
「ご迷惑をおかけして……申し訳ありません」
母リリーの寝室でひとしきり泣いたセリーヌは、そっとロガンから身を離した。鼻の奥がツンとしたまま、少し息を吸い込むと、「くしゅんっ」と小さなくしゃみが漏れる。すると、ふわりと体が宙に浮く。気が付けば、ロガンに横抱きにされ、持ち上げられていた。
「きゃっ! あ、あの、陛下。わたくし、歩けます」
「……こちらの方が早い。良いから、黙っていろ」
黙れと言われてしまっては、口を噤むしかない。
セリーヌは、そのまま暖炉のある居間へと運ばれた。
そこにピトとディランの姿はなかった。
ロガンに尋ねると、「外で警護をしているのだろう」とのことだった。
ロガンは、セリーヌをソファに座らせ、キッチンに向かおうと背を向ける。
その姿を見て、セリーヌは慌てて立ち上がる。
「陛下……! あの、もし間違いでなければ……わたくしがお茶を淹れます!」
「構わん。座っていろ」
「いいえ、それはいけません! 陛下にそのようなことは……」
「茶を淹れるには、水を運ばねばならないし、火も使う。危険だ」
まるで幼子に言い聞かせるような口ぶりだった。
けれど、そんなことにも気が付かず、セリーヌは必死にロガンの後を追う。
「で、ですが……それなら尚のこと、陛下にお任せするわけには……もし毒を懸念されているのであれば、誓ってそのようなことはいたしません! 持ち物を探って頂いても……あっ……!」
セリーヌがごそごそと身の周りを探ると、ポケットからハンカチが落ちてきた。
中から、乾いた黄色い花がパラパラとこぼれ落ちる。
ロガンは、大きく目を見開いた。
「それは……」
「も、申し訳ございません! 今、片付けますので……!」
まるで捨てられることを恐れるかのように、セリーヌは慌てて落ちた花をハンカチに集めていく。
ロガンも足元に落ちていた花の数粒を拾い、セリーヌのハンカチの上にそっと乗せる。
「……ドレスでは、動きにくいだろう。座っていろ。気にするな」
「……はい。お手数をおかけします……」
セリーヌは、しゅんと肩を落として元いた場所に戻った。
ロガンは、改めて湯を沸かし、茶を淹れる。
その一連の動作がとても自然で、まるでこのキッチン自体を使い慣れているかのようで――セリーヌは少し不思議に思ったが、きっとピトと事前に訪れていたのだろうと結論付け、素直にお茶を受け取った。
ロガンも同様にカップを手にし、隣の一人掛けのソファに座る。
お茶の温もりで指先が温まり、清涼感のある香りがふわりと立ちのぼる。
心までほどけていくようだった。
「…………」
「…………」
会話と言うのは、どちらかないし双方が何かしらの話題を提供しなければ始まらない。けれど、会話の苦手な二人の間には重たい沈黙が流れる。
このままでは、レストランの二の舞になってしまう。
セリーヌは意を決して口を開いた。
「あの……」
「ミモザの……」
二人の声が重なった。ロガンは気まずげに口を閉ざし、セリーヌは申し訳なさで息を呑む。けれど、今度はロガンが先に口を開いてくれた。
「……ミモザの、花が好きなのか?」
ロガンは、視線を明後日の方向に向けている。
セリーヌは、ポケットの中のミモザを思い出し――続けて「L」のことを思い出した。辛い時期、自分を支えてくれた唯一の存在。その存在が、今も言葉を紡ぐ勇気をくれる。
「……はい。とても」
セリーヌが笑顔を向けると、ようやくロガンもセリーヌを見た。
普段は、その場にいるだけで人々を圧倒し、押し黙らせてしまうような人なのに――どこか緊張している様子に、セリーヌは親しみを感じた。
だから、意識的に肩の力を抜き、なるべく素直に話せるよう心掛ける。
「……友人が、くれた花なのです。可笑しな話と思われるかもしれませんが、男性か、女性かもわからない……文通相手、とでも言えば良いのでしょうか?」
「文通か……」
「はい。やり取りを交わして、もう四年になります。……でも、父から止めるように言われてしまって。 一方的にわたくしから送っていたので、「L」は気にも留めていないかもしれませんが」
お茶を一口飲み、カップを近くの台の上に置いた。
家の中を見回すと、懐かしさを感じつつも、まったく知らない場所にいるような不思議な心地だった。その心地よさに背を押されながら――セリーヌはぽつり、ぽつりと話し始めた。
昨日は、二話同時掲載して、驚かせてしまっていたらごめんなさい。
13話は短いので、夜19:00に続きを掲載したいと思います。
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