17.生徒会の仕事
修学旅行を終えた水樹勉から、予想外の言葉を聞いた金剛内桃華は、動揺していた。
なんで、私の思い通りになっていないの?
一体、どうなっているの?
週末を挟み、修学旅行を終えた三年生が登校してきた。
私、金剛内桃華の手引きにより、修学旅行を経て、あの女と春先輩の仲は裂かれ、代わりにあの女と水樹先輩が、いい感じになっているはずだった。
水樹先輩は、頭が良いからきっと上手くいくと確信していた。だけど、学校に来た水樹先輩は、私を見るなり、とんでもないことを言い出した。
「桃華。僕、花咲さんに振られちゃったよ。だから、もう僕の事は応援しなくてもいいよ。それから、二人の事はそっとしておいてくれないかな」
水樹先輩は、とても清々しい顔をしていた。だけど、私にはなぜそんな顔ができるのか、分からない。
だって、振られたんでしょ。なんで笑っていられるの? 意味わかんない。
そもそも、水樹先輩とあの女がくっつこうが、くっつかまいが、それはどうだっていい。あの女の恋路を邪魔できればそれでいい。私から大切なものを奪っていったあの女が不幸になればいい。ただそれだけ。
だって、おかしいじゃない。可愛い私が求められないのに、あの女が求められるって、どう考えても普通じゃない。
だから、私は水樹先輩を放っておくことにして、次の作戦を考えた。
もう直接的に春先輩をどうにかするしかない。でも、どうやって?
そんな事を考えていると、今が生徒会の会議中である事をすっかり忘れていた。
「桃華ちゃん。大丈夫?具合でも悪いの?」
長方形に並べられた長机の中央から全体を見渡していた生徒会長である神楽勇士君が、横に座っていた私の顔を心配そうに見た。
神楽君は、先日、前任の生徒会長から引き継いだばかりで、私と同じ二年生だ。しかもクラスメイト。そして、私はというと、そんな彼に選ばれて副会長を担っている。
正直なところ、生徒会にはあまり興味はなく、部活もあるので断ろうと思っていた。しかし、生徒会の役員になる事で、今後の進路にも優位になるという話を聞いたので、点数稼ぎのために神楽君の申し出を引き受けた。
私は巡らせていた思考を一旦中断させ、慌てて可愛い顔を作ると、同級生にしては少々童顔の神楽君にはつらつとした笑顔を向けて答えた。
「ううん。大丈夫!ちょっと考え事していただけ。ごめんねぇ」
そんな私の笑顔を見て、神楽君は安心したのか、無垢な笑みを浮かべた。
「そっか。良かったよ」
神楽君は、そう言って色白で幼い顔を全体に向き直すと、会議を再開させた。
どうやら六月の最初の週末に行われる、地域の清掃活動に参加するための打ち合わせをしているらしい。しかし、生徒会の役員だけでは、人数が足りず、一般生徒からも参加希望者を募ろうという話にまとまりつつあるようだった。
私は、そんな面倒な事を誰が好き好んで希望するだろうか、と内心で嘲笑いつつも、笑顔を絶やさず、自動人形のように相槌を打っていた。
会議が終わると、神楽君は穏やかな笑顔で、席を立とうとする私を呼び止めた。
「桃華ちゃん」
「ん?何、神楽君」
私はうっかり疲れた顔をしそうになるのを堪えると、可愛い笑顔を作って、神楽君を見た。そんな神楽君は私を気遣うように、穏やかに言葉を続けた。
「何か悩み事かい?もし僕で良かったら、いつでも相談してね」
神楽君は優しい。
あの色白で小柄な体つきから分かるように運動は苦手だが、性格はとても穏やかで優しかった。
また、成績も優秀で、学内では他を寄せ付けないほどのダントツのトップを誇る。更に、普段の学校生活では、生徒会長に自ら進んで立候補するだけではなく、社会奉仕部という部活動の部長も務め、ボランティア活動などに精を出していた。
もちろん、その活躍ぶりを支持する者は多く、男女問わず人気があり、先生からの信頼も厚い。そして、何と言ってもあの中学生か、下手をすれば小学生にも見えるような甘く幼い顔つきが人気に一役買っていた。
しかしながら、私としては少々不本意だが、神楽君は、水樹先輩や春先輩のように、私の甘美な誘いには全く動じることのない数少ない男子の一人でもある。それどころか、積極的に私に気を遣ってくれ、うっかりすると、こちらが彼の甘さにやられてしまいそうになる。
私は、そんな彼の甘い優しさに負けないように、超絶可愛い笑顔で答えた。
「ありがとう。大丈夫だよぉ」
「そう。無理しないでね」
本当に神楽君は優しい。
その優しさは本物なのかと、疑ってしまいそうになるほどだ。しかし、そんな神楽君の優しさが私に向けられている事をよく思わない者もいる。
生徒会室の後ろの方で、私を睨みつけている書記の二人組だ。
彼女らもまた神楽君に、書記の役目を任命されたわけだが、そんな彼に最も近い役職である副会長に私が任命されたという事が気に食わないらしい。
言葉は聞こえてこないが、小声で文句を垂れている様子は、あの憎らしい顔を見れば分かる。私は、そんな彼女らに気圧される事なく、見下した目で見返してやり、些細な優越感を味わう。
あんたらは、私の下なのよ。
そんな女同士の陰湿な戦いを、神楽君は知る由もなく、ふわりと清潔な香りを漂わせながら、立ち上がり、私に小さく手を振った。
「じゃあ、お疲れ。僕はこれで失礼するよ」
「うん。バイバイ!」
私は、見下していた書記の二人組から視線を戻すと、神楽君へ小さく手を振り返した。
◆◇◆◇
それから数日後。
私は、生徒会室にて、地域の清掃活動の参加者名簿を見て、目を丸くしていた。私の予想に反し、地域の清掃活動の参加希望者は多く集まっていたのだ。しかし、その名前を見る限りでは、ほとんどが頭の悪い男か、気持ちの悪い男。
なるほど。私を副会長に就けたのは、元から私をマスコット的な存在にするためだったのか。もし、そうだとしたら神楽君は可愛い顔をしているくせに、なかなかに頭の切れる人だ。
しかし、彼はそんな事は考えていなかったと言わんばかりに、参加者名簿を見てから、甘く幼い顔を少し曇らせてから私を見た。
「すごい人の数だね。でも、なんかごめんね。桃華ちゃん」
「なんのこと?」
私はそう言って、指を唇に当て、首をかしげると、とぼけてみせた。その方が可愛く見えると思ったからだ。
すると、神楽君は私に気を遣うように首を振ると、「なんでもない」と穏やかに言葉を返した。そのとき、生徒会室のどこかから無配慮な言葉が聞こえてきた。
——まるで、客引きパンダね。
私は、長机の中央に座る神楽君の横から、会議が始まりを待っている役員たちを見まわした。しかし、十名ほどいる役員の誰もが、私と目を合わせようとはしない。各々、資料に目を通したり、隣の人と雑談をしたりしているだけで、先程の言葉が私の空耳だったのかと錯覚してしまいそうになる。
だけど、だいたい発言者の予想はつく。それはちょうど私と神楽君の向かい側で、議事録を準備する振りを必死にしている書記の二人だ。
私は目を合わせようとしない彼女らを一睨みすると、自分の机の前にも置かれている参加者名簿に改めて視線を落とした。
参加者名簿には、社会奉仕部の女子が数名いるだけで、あとは全員男だった。しかし、その男たちの名前のなかに、私は予想外の名前を見つけた。
「・・・・・・宮原春」
私は、思わずその名前を読み上げてしまった。だけど、幸い誰も気づいてはいないようで、役員たちはそれぞれの作業を続けている。
それにしても、なんで春先輩が、地域の清掃活動に参加しようとしているの?
私の認識では、春先輩は確かに優しいけど、自ら進んで奉仕活動に参加するほどではない。むしろ、行事ごとにはどちらかと言えば、消極的なタイプで、こんな面倒ごとには参加したくなさそうに見える。それなのに、なんで?
まあ、理由は何だっていいか。
私にとっては、春先輩へ直接的にアプローチが出来る良い機会になる。しかも、春先輩は怖い顔をしているから、先輩の近くに居れば、バカな男たちも近づいてこないだろうし、まさに一石二鳥。
私が参加者名簿を見入ってそんな企みを考えていると、生徒会長の神楽君が顔を上げ、全体を見渡し、会議の開始の号令をかけた。
「皆さん、そろそろ時間ですので、生徒会の会議を始めましょうか」
その号令に合わせ、役員たちは作業の手を止め、口を閉じ、正面の神楽君へ視線を向けた。神楽君は、皆の注目を集めると、小さく頷いてから私を見た。
「じゃあ、副会長。今日の議題について説明してくれるかな」
「うん。わかったよ。神楽君」
私は可愛く頷き、立ち上がって、皆を見下し——見渡した。
「えっとぉ、今日の議題は、再来週の週末にある地域の清掃活動についてです。たくさぁんの人が集まったので、班分けとかを考えたいと思います。私からは以上でーす」
神楽君は、私が着席するのを待ってから、小さな声で「ありがとう、桃華ちゃん」と言うと話を進めた。
「皆さんの呼びかけのおかげで、予想を遥かに上回る参加希望者が集まりました。なので、班分けと共に清掃範囲も広げようかな、と考えています。僕は、河川敷エリアを追加したらいいんじゃないかな、って考えているんですけど、これについて、何かご意見はありますか」
神楽君の提案にすぐに反応したのは、真向いに座る書記の二人組だった。
「いいと思います!あそこって、たぶん、結構ごみ落ちてるし。行ったことないけど」
「そうそう。たくさん掃除すれば、地域の人たちも喜んでくれる的な感じで、やっちゃおうよ」
私と違って本物のバカな二人は、生徒会室に気の抜けた声を響かせた。そんな二人を、神楽君は優しく見詰めると、甘い声を発した。
「うん、そうだね。ありがとう」
神楽君に見詰められた二人は、とろけそうな表情でその声に酔いしれ、胸をときめかせているようだった。
ホント、バカ。
神楽君はそんなバカどもを気にかけることなく、話を進めた。
「他には、何かご意見ありますか」
再度の神楽君の問いかけに、他の役員たちは当然のごとく賛同の意を示した。彼らは、完全に神楽君を信用しきっているので、元から反対意見なんか出る訳がない。
「よし。じゃあ、決まりだね」
神楽君はポンと掌を合わせると、議題を班分けに関する内容へと移した。
「次は、班の分け方だね。どうやって分けようかな。何か提案はありますか?」
神楽君は可愛く口をとがらせると、再び全体を見渡した。
すると、その問いかけに、いかにも計算が得意そうな会計を務めるメガネ君が挙手をして、早口で意見を述べ始めた。
「会長。僭越ならが意見を述べさせて頂きます。私の考えとしましては、各清掃エリアに生徒会役員を二名ずつ配置し、エリアの規模に応じて、一般生徒を振り分けるのが良いかと思います。特に追加となった河川敷エリアは、広いですから、多くの人員が必要になりますし、的確な指揮系統も必要でしょう。したがって、私の計算では、河川敷エリアは会長及び副会長が指揮を執り、更に一般生徒を二十名配置するのがよろしいかと。また、その他のエリア関しましては、学校北エリアが私ともう一人の会計が受け持ち、一般生徒を十名配置。南エリアが、書記の二人と一般生徒を十名配置。そして、住宅地エリアと商店街エリアは、多くの地域住民が参加しますので、風紀委員長と庶務、美化委員長と庶務が、それぞれ指揮を執り、一般生徒を十名ずつ配置。以上の案で如何でしょうか」
何?メガネ君、今、日本語喋ってた?
メガネ君は早口で喋ったため、私はそのほとんどが聞き取れなかった。
しかし、神楽君はちゃんと聞き取れたらしく、男子のメガネ君に対しても優しい目線を送ると、甘い声を発した。
「うん。いいね。それでいこう」
「か、会長。ありがとうございます!!」
男子であるメガネ君も神楽君の甘さにときめいたのか、ほんのりと頬を赤くし、深く頭を下げた。
神楽君は、男女関係なく、その優しさを振り撒いている。そこも彼が多くの人たちに支持される理由でもあるのだ。
しかし、この分け方を面白くない二人がいる。それは、私と神楽君の向かい側で、引きつった顔をしている書記の奴らだ。
彼女らはあわよくば神楽君と同じ班になりたかったに違いない。もし別の班になったとしても、私が神楽君の傍にいる事が許せないのだろう。だから、私は、彼女らが発言するよりも先にメガネ君の提案を推し、彼女らが反対意見を言えないようにしてやった。
「桃華もぉ、すごくいいと思います。さすが、メガ——えっと・・・・・・、吉井君だね!」
私が可愛くウインクしてやると、メガネ君こと吉井君は、一瞬のうちに顔が真っ赤になった。そして、恥ずかしながらも嬉しそうに答える。
「そ、そうかい。ありがとう。金剛内さん」
「もうぉ、桃華って呼んでよ。よ・し・い・君」
その一言で、メガネ君は私のものになった。別に要らないけど。
そして、神楽君と私がメガネ君の意見を推すので、他の役員たちも首を縦に振り、賛同した。そうなれば、面白くない書記の二人も皆の空気に押され、賛同するしかなくなった。
悔しそうに私を睨みつける二人を、私は胸の中で嘲笑い、見下してやった。
ホント、世界って私を中心に回っているみたい。
◆◇◆◇
その後の一般生徒の振り分けでも、春先輩が、私の担当エリアに配置されるよう、私のものになったメガネ君を使って、そう仕組ませた。
こうして、今日の生徒会の仕事は、滞りなく進み、予定時刻よりも早く終わった。
「皆さんのおかげで、今日も予定よりも早く仕事が進みました。ありがとうございます」
生徒会室の正面に立つ神楽君は、幼い顔を役員一人ひとりに向け、そう感謝を述べた。そして、私にだけは、こっそりと微笑み、特別感を出してくれる。
「桃華ちゃん、ありがとね」
さすがの私も思わず、ときめきそうになってしまった。
神楽君のそういうところは、本当に計算をしていないのかと疑ってしまうが、彼のあの可愛くも甘い顔を見てみると、そこには裏表を全く感じず、無垢で自然体そのものだった。
そんな事を自然とやってのける神楽君は、やっぱりすごいと思う。
だけど、なぜか神楽君を私のものにしたいという欲望は湧かない。せいぜい、バカ女たちを見下すために利用しようと思う程度だ。それは、きっと、私があの女を陥れる事に夢中になっているせいだろう。
「じゃあ、今日はもう解散。お疲れ様でした」
会長の神楽君のその号令と共に、仕事を終えた役員たちは、席を立ち、散り散りに生徒会室を出て行った。
しかし、そんなとき、その流れに逆行するように、一人の男子生徒が生徒会室にやってきた。男子生徒は、軽く頭を下げつつ、役員たちの間をすり抜けると、室内をキョロキョロと見まわして、正面の席で神楽君を見つけると、真っ直ぐに歩み寄ってきた。
その男子生徒は目つきが鋭く、まるで神楽君を睨みつけているように見えたが、その奥の瞳には敵意は感じられず、口元もそれほどきつくない。きっとあの人の人相の悪さは生まれつきなんだろう。そして、そんな顔をしている人を私は一人だけ知っている。
「春先輩!」
私は神楽君の横にいながら、歩み寄ってきた人相の悪い春先輩に声をかけた。
私の呼びかけに気付いた春先輩は、見続けていた神楽君から視線を私へと移して、軽く手を挙げた。
「おっ、こんご・・・・・・桃華!つーか、桃華って生徒会の役員だったのか?」
一瞬、名字で呼びそうになった事は大目に見てあげて、私はいつもの愛されスマイルを春先輩に振りまいた。
「そうですよぉ。しかも副会長なんですよぉ。すごくないですかぁ?」
「え、そうなの?確かにすごいな」
春先輩は驚いてみせたものの、私の愛されスマイルにはあまり関心がないようだった。ホント、鈍いんだから。
「それでぇ、春先輩、何か用でもあるんですかぁ?もしかして、私に会いに来たんですかぁ?」
「ううん、違う。生徒会長に用があってさ」
春先輩は、私の甘い言葉かけにも動じることはなく、生徒会長の神楽君へあっさりと視線を戻した。私は、思わず、可愛い顔が歪みそうになった。
春先輩は、そんな事に気付くことはなく、神楽君を見ると、少し申し訳なさそうに言った。
「あのさ、地域の清掃活動の名簿に、俺の名前があったと思うんだけど・・・・・・あれ、何かの手違いというか、間違いでさ。参加者から俺の名前を外してくれないかな」
神楽君は春先輩と並ぶと、少しだけ背が低いようで、強面の顔を見上げつつ、穏やかな表情で答えた。
「いいえ。あれは間違いではないですよ。宮原先輩」
「えっ?」
春先輩は驚いた顔をしたが、状況が理解できないのは、私も同じで、神楽君の言葉の意味が分からなかった。
しかし、神楽君は、そんな事を気にする様子もなく、幼い顔で微笑むと、言葉を続けた。
「あれは、僕が書きましたから」
「は?」
ますます状況は意味不明になった。
確かに、春先輩が奉仕活動に参加するのは、意外だとは思ったが、まさか神楽君が勝手に春先輩の名前を書いたとは思わなかった。
だけど、その事の方が理解できない。なんで、神楽君がそんなことをする必要があるの?
春先輩は驚きのあまり、しばらく目をぱちくりさせて、言葉を失っていた。
それから春先輩は自分の脳みそをフル回転させて、状況を理解しようとする。しかし、それも上手くいかなかったのか、状況を確認するために、もう一度、神楽君へ問いかけた。
「えっと・・・・・・地域の清掃活動の事なんだけど・・・・・・、あれは間違い・・・・・・じゃないのか?」
神楽君はひょうひょうと答えた。
「そうですよ。僕が書きました」
それでようやく春先輩は、神楽君の言葉を理解できたのか、少し表情を曇らせながら質問を続けた。
「何のために?」
しかし、神楽君はその質問に答えるつもりはないのか、薄っすらと笑みを浮かべ、肩をすくめた。
「さあ。どうしてでしょうね。それは参加したらわかりますよ」
神楽君にしては珍しく、少し刺のある言葉遣いだったが、春先輩は怒る事はなく、小さくため息をついた。
「でもなぁ・・・・・・」
春先輩は参加を渋っているようだった。それもそうだろう。勝手に参加することにさせられれば、誰だって嫌になる。まだ春先輩は優しいから怒らないけど、参加する義理はないと思う。
それでも、私にとっては、春先輩が参加してくれた方が嬉しい——というよりも、都合がいい。あの女と春先輩の仲を裂くいい機会になるかもしれないのだ。
だから私は、表情を曇らせ、参加を渋っている春先輩を後押しするため、人懐っこい笑顔を向け、甘い声を発した。
「春せんぱぁい。桃華はぁ、先輩が来てくれたら、すごく嬉しいですぅ。だから、お願い。一緒にしましょうよ」
「うーん、そう言われてもなぁ・・・・・・」
春先輩は人の頼み事を断るのが苦手だ。たぶん、このまま言葉押しだけでも春先輩は引き受けてくれるだろう。だけど、それだけでは、私に夢中になってくれない。だから、私は春先輩の横にひょいっと移動すると、春先輩の腕に飛びつき、自分の胸を押し当てた。そして、背伸びをして、春先輩の耳元に口を近づけ、甘く囁くようにおねだりをした。
「春センパイ。一緒にしよ」
春先輩は、私が飛びつき、急に顔を近づけたので、思わず顔を赤らめて、慌てて離れようとした。
「ちょっ、も、も、桃華。何してんだよ!こら、離れろ」
だけど、私は春先輩がお願いを引き受けてくれるまで離れてやらない。
「先輩、おねがぁい」
一向に離れようとしない私に、春先輩は観念したのか、顔を仰け反らせながらも投げやりに返事をした。
「わかった、わかった!やるやる。掃除でもなんでもしてやるから」
「やったー!さすが春先輩。優しいですね」
私は嬉しそうに笑って見せると、そこでようやく離れてやった。
だけど、そんなに嫌がることないじゃない。
春先輩は、まだ照れ臭いのか、頬の紅潮を薄っすらと残したまま、「ったく・・・・・・」と呟き、さっきまで私の胸が押し当てられていた自分の腕を擦った。それからまだ納得がいかないような表情を浮かべつつも、神楽君に視線を戻した。
「生徒会長。まあ、そういう事だ。参加してやるよ」
神楽君はいつもの柔らかい微笑みを浮かべたが、いつもより暗い口調で、言葉を返した。
「宮原先輩なら、そう言ってくれると思っていましたよ」
【くるみのつぶやき】
学生の頃って、こういう清掃活動とかってありませんでした?
私は、宮原君と違って、参加するの、結構好きでしたけどね。
ここから、新キャラの生徒会長 神楽君が登場です。
あと、相変わらず桃華はズルいですねー(;^ω^)




