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120センチの彼女  作者: 翼 くるみ
Ⅱ.修学旅行
12/35

12.胸が苦しい

雨が上がり、宮原春みやはらしゅんたちは、花咲姫子はなさきひめこたちの班と分かれる。

しかし、春は、体調が優れず、水樹勉みずきまなぶとも分かれて、ひとりホテルへ戻ることにした。

 雨はお昼前に止んだ。


 時計を見ると、ほんの十分程しか雨は降っていなかったのだが、とても長く感じられた。

 そして、花咲はなさきの楽しそうな顔が、僕の頭の中に張り付いて、どれだけ振り払おうとしても離れてくれない。


 その楽しそうな顔が、僕に向けられていたのなら、こんな苦しい思いはしなかっただろう。

 僕の隣にいた頭が良くて、爽やかで、優しい水樹みずきに向けられていたあの花咲の顔は、今まで僕に向けられたどんな顔よりも楽しそうで、穏やかだった。


 胸が苦しい。


 これが嫉妬というやつなのだろうか。

 いいや。きっと違う。


 だって、花咲が誰と楽しそうにしていようが、僕には関係のない事だ。なぜなら、僕は花咲とはただの友達なんだから。


 だったら、この想いは、何なのだろうか。

 何という感情なのだろうか。



*・∵・∴・∵・*・∴・∵・*・∵・∵・*・∴・∵・



 雨が止むと、僕らは花咲の班と分かれた。


 彼女らは稲荷大社に行くと言っていたが、僕にはもうどうでもいい事だった。出来るなら、今日はもう会いたくない。だって、また謎の感情で、胸が苦しめられそうだから。

 それに、花咲らと別れた後も胸の苦しみは、しばらく続いた。

 

 僕は自分でもどんな顔をしていたのか、分からなかったが、恐らく酷く具合の悪い顔をしていたのだろう。バス停でバスを待っていると、水樹が心配そうに僕の顔を覗き込んできた。


しゅん。大丈夫かい。顔色が良くないようだけど」

「あ、ああ。大丈夫・・・・・・」


 と、言ってみたものの、僕は、本当に大丈夫なのか。


 初めて経験するこの感情を、どう表現すればいいのか分からず、とりあえず大丈夫と答えたが、実際は大丈夫ではない気がした。


 水樹も只事ではないと、感じたのだろうか、更に心配そうに言葉を続けた。


「大丈夫そうはに見えないけど・・・・・・。先にホテルに戻って休んだらどうだい?修学旅行は明日と明後日もあるんだし」


 水樹に言われると、そうした方がいいような気がしてきた。だから、僕は、水樹の提案を受け入れた。


「そうだな、そうする」

「そっか。じゃあ、ホテルまで送っていくよ」

「いや。大丈夫。一人で行けるから。水樹は・・・・・・・他の班に入れてもらうといいよ。せっかくの旅行だし、観光しないと」


 他の班——真っ先に思いついたのは、なぜか花咲たちの班だった。


 彼女らの行き先は分かっているし、水樹一人ならフットワークが軽いから、タクシーを利用すれば、すぐに追いつけるはずだ。


 水樹は、僕の提案を少し考えた後、眼鏡を整えてから答えた。


「うん。わかったよ。春がそういうなら・・・・・・。今からだったら、花咲さん達がまだ近くにいると思うし、彼女らに合流させてもらおうかな」


 水樹の眼鏡が、雨上がりの日光を反射した。そのせいで、眼鏡が光り、彼の目は見えなかったが、口元はなんとなく緩んでいるように見えた。


 僕はそんな水樹の言った「花咲」という名前を聞いて、なぜか、胸がきつく握りしめられるような感覚がした。

 だけど、それは僕の気のせいだと、自分に言い聞かせると、出来るだけ気丈に答えた。


「そうしなよ。じゃあ、早く行った方がいい」

「うん、わかったよ。春、気を付けて戻るんだよ。何かあったら、いつでも連絡して」

「ありがとう」


 僕が小さく手を振ると、水樹は大きく手を振り返し、軽快に走り去っていった。

 そのまま、水樹が角を曲がって、見えなくなるまで僕は彼の背中を見続けた。その背中は、僕を気にしつつも、どこかワクワクしているようにも見えた。

 

 さすがの水樹だって、修学旅行で浮かれているのだろう。

 花咲は——関係ない。



*・∵・∴・∵・*・∴・∵・*・∵・∵・*・∴・∵・



 水樹を見送った後、僕はバスを何本か見送って、なるべく空いているバスに乗り込んだ。


 座席はたくさん空いていたが、僕は座らず、運転席のすぐ近くの手すりにつかまった。座ってしまうと、落ち着かない気がしたからだ。だけど、立っていても同じだった。


 バスは低いうなり声を発すると、前進を始め、その大きな車体をゆったりと揺らした。

 バスが揺れる度、僕の身体も同時に揺さぶられ、転倒することはなかったが、なぜか力の入らない脚のせいで、何度かふらついた。

 

 バスは十分もしないうちに京都駅に着いた。

 僕は重い足取りで、バスを一番に降りると、地下鉄の改札口へと向かおうとした。

 

 しかし、問題が起きた。


 来るときは、ほとんど水樹を頼りにしてきたので、地下鉄への行き方がわからないのだ。

 

 やれやれ。一人で大丈夫とは、よく言えたものだな。やっぱり、水樹に送ってもらうべきだっただろうか。いや、僕の謎の感情のせいで、水樹の旅行を台無しにしてしまう訳にはいかない。なんとか、一人でホテルに戻らなければ。


 とりあえず、僕は構内の案内図を見た。


「現在地がここだから・・・・・・地下鉄は・・・・・・」


 僕は口元に手を当て、首をひねって、案内図と睨めっこをしたが、いまいち理解できない。


 僕って、こんなに方向音痴だったっけ?


 自分自身の理解力の無さに、嫌気がさしてくる。

 きっと胸に残るモヤモヤした感情のせいだ。

 とりあえず、階段を下りれば、地下に行けるだろう。

 

 そう思った僕は、周囲を見渡し、一番初めに目についた下り階段へ向かった。そして、地下へと続く、階段の入り口に差し掛かった時だった。

 湿っぽい空気に乗って、ほんのりと甘い香りが漂ってきた。


 その香りは、くどい甘さではなく、野に咲く花のような優しい香りで、僕はその香りを知っていた。


 この香りは——。


 僕は下り階段から視線を外し、振り返った。

 そして、ここにいるはずのない人物を探した。


 まず駅前の広場やバスのりばへ視線を送る。

 しかし、多くの人たちが行き交うだけで、僕の知っている人物はいない。


 次に耳を澄ませてみた。

 もしからしたら、僕の知っている声が聞こえてくるかもしれないと思ったからだ。しかし、バスのうなるエンジン音や行き交う人々の足音と話し声が聞こえてくるだけで、その中に僕の知っている声はなかった。


 気のせいだったか。

 いるはずはいよな。

 きっとこれも胸のモヤモヤのせいだ。


 そう思い、僕は大きなため息をつくと、下ろうとしていた階段に視線を戻した。

 だが、そのとき、背後から僕の名前を呼ぶ声がした。


「えっと、宮原・・・・・・くんだっけ?」


 名前を確かめるように呼ぶ声は、僕の聞き覚えのない声だった。


 僕は、知らない声ではあったが、名前を呼ばれたので、一応、ゆっくりと振り返って、声の主へ顔を向けた。


 すると、そこには、僕と同じ高校の制服を着た少女が立っていた。

 スカーフは紺地に紫色のチェック柄で、栗色のショートヘアが良く似合っている。

 はつらつとした顔は、血色がよく活発な印象を受けるが、名前は分からない。

 他クラスの女子なのだろう。

 なんとなく顔は見たことがあるような気もする。

 

 でも、誰だろう?


 少女は、僕が不思議そうな視線を送っていても、それを気にする様子はなく、声をかけた相手が「宮原春みやはら しゅん」である事を確認すると、活発な顔をより一層明るくして、勢いのある声を発した。


「やっぱり、宮原君だー!あたし、四組の優木ゆうきみお。それにしても宮原君よ、相変わらず、怖い顔してるねぇ」


 余計なお世話だ。

 優木と名乗る女子は、勢いに任せてさらりと人の気にしていることを言うタイプらしい。

 だが、あまり腹が立たないのは、その無邪気な笑顔のせいかだろうか。

 

 それにしても、四組の女子がこんなところで、何をしているのだろう。


「あの・・・・・・優木さん。なんか用?」

「おお、そうそう。バスを降りたらさ、偶然、君を見かけたもんだから、つい声をかけた次第でありますよ。それと、あたしの事は『みお』でいいでありますよ」


 「であります?」という、僕の声は、一人で盛り上がっている優木には届いていないようで、更に言葉を続けた。


「あたしは、君の事をしゅん君と呼ばせてもらうよー」

「どうぞ、ご勝手に」


 僕は若干引き気味に小さく答えると、優木は急に僕に近づいて、肩にポンと手をのせてきた。


「ところで、春君よ。君に頼みがあるのだが」

「な、何?優木さん」


 僕は、不覚にも少しドキッとした胸を押さえ、優木の顔を見た。すると、優木は頬を膨らませてから、可愛らしく僕を睨んだ。


「みお!」


 初めは何のことを言ったのか分からなかったが、「優木」と呼ばれた事に対して、膨れている事に気が付き、僕は慌てて言い直した。


「あ、悪い。えっと・・・・・・みお・・・・・・くん?」

「なんで、くん?」

「じゃなくて・・・・・・みお」


 なんだ。すごく恥ずかしいじゃないか。


 僕は、女子の事を苗字で呼ぶことはあっても、名前で呼ぶことはほとんどない。


 唯一、名前で呼んでいるのは、桃華くらいだが、彼女はなんか手のかかる妹のような感じがするので、名前で呼ぶことにそれほど抵抗を感じない。

 しかし、あまり親しくない女子と名前で呼び合うとは、なかなかに気恥ずかしい事だった。

 

 僕は、恥ずかしさを誤魔化すため、優木の言っていた「頼み」について、話題を戻した。


「で、頼みって何?」

「おう、それなんだけど、今、ツレがトイレに行っているんだけど、その子をホテルまで送ってくれないかなーって。春君もホテルに戻るんでしょ」

「ああ。別に、いいけど」


 なんで優木が知っているんだろう、と疑問に思ったが、僕が質問するよりも先に優木が弾むような声を上げた。


「ホント?やったー!さすが、春君。あたしの見込んだ通りのオトコだよ!さっき会った時から、君は出来るオトコだと思っていたよー」

「はは、俺ら、初対面だろー」


 僕は苦笑いを浮かべながら、優木の冗談に突っ込みを入れた。

 しかし、彼女から予期せぬ言葉が返ってきた。


「何を言っているのかね。さっき水族館であったじゃないかー」

「えっ?」


 僕は驚いて、少しの間、思考が停止した。そして、何度かかぶりを振って、意識を保つと思考を巡らせた。


 優木は、さっき水族館で会ったと言っていたが、そこで会ったと言えば、花咲たちの班だ。となると、優木は花咲の班のメンバーだったということか。


 水族館では、僕は水樹と花咲のやりとりを見たくなかったので、視線を反らしていた。そのせいで、他のメンバーも良く見ていなかった。


 それに、もし優木が花咲たちの班のメンバーであれば、僕がホテルに戻ろうとしている事を知っているのは、合流した水樹から聞いたということで合致がいく。

 

 しかし、ここで問題になるのは、優木のいう「ツレ」とは一体誰なのか。


 まさか——。

 

 優木が再び弾むような声を上げたおかげで、僕の思考は中断された。


「お、あたしのツレが戻ってきたよ!おーい、こっち、こっち」


 優木は、大きく手を振り、自分の「ツレ」を呼び寄せた。僕は、その相手を確認すべく、優木が手を振るその先へと視線を向けた。


 すると、僕の視線の先には、行き交う人の間を滑るように移動してくる小さな少女が映った。


 黒いフレームがキラリと光を反射し、赤いタイヤはまだ地面が濡れているせいか、普段よりも色が深くなって見える。そして、少女が進む度、後頭部で結ばれたカフェオレ色の髪が揺らめき、その甘い輝きで僕の目を奪った。


「・・・・・・花咲」


 僕はいつの間にか、その名を口にしていた。

 

 会いたくない。

 そう思っていたが、いざ本人を見ると、少し嬉しいような気もしてしまう。


 その証拠に僕は、彼女が自分の目の前に来るまで、ずっと視線を外す事が出来なかった。


 胸が苦しい。


 だけど、さっきのようなモヤモヤとした嫌な感じではない。鼓動が高鳴り、僕の胸を打つのだ。


「ヒメちゃん。ごめん、ごめん。春君を見つけて、ちょっと話してた」


 近づいてきた花咲に向かって、優木は両手を合わせつつ、愛らしくウインクをして謝った。しかし、謝られた花咲の方は、恥ずかしそうな顔をしている。


「みお。ヒメちゃんって呼ばないでよ。恥ずかしいから」

「じゃあ、ヒメ様がいいかしら?」


 優木の冗談交じりの言葉に、花咲は頬を膨らませて、少しだけ怒った。


「もぉ。普通に姫子ひめこで、いいから」

「はーい。ごめん、ごめん」


 あまり悪びれた様子はなく、軽く謝る優木に対し、花咲は「やれやれ」と呟いてから、ようやく笑った。


「分かればよろしい」


 しかし、その笑顔もほんのひと時だけで、チラリと僕を見ると、険悪な表情をした。


「で、なんで居るの?」


 花咲のその不機嫌な質問を、僕に代わって、優木がご機嫌に答えた。


「おう。ホテルに戻るところだった春君をようやく——じゃなくて、偶然見つけてねぇ。ついでに姫子を送って行ってもらおうかと思ってさ」

「そう」


 相変わらずの不機嫌極まりない返事をした花咲だったが、しばらく黙って、僕を睨んだ。 


 その睨みつけてくる目は、相変わらず綺麗な漆黒の瞳をしているのだが、目じりが上がっていて、そこから放たれる威圧感に僕は気圧されそうになった。


 それでも、僕は、なんとかその威圧感に耐え、反らそうとしていた目を花咲の方へ留め続けた。


 すると、花咲の方が先に目を反らした。そして、重いため息をひとつ吐くと、口を開いた。


「ありがとう。あとは大丈夫だから、みおは、戻りなよ」


 その言葉を受けた優木は、目を輝かせ、弾むような声を上げた。


「うん。ヒメちゃん、ありがとう!」

「ヒメちゃん言うな」


 優木は、瞬時に返された花咲の突っ込みを気にすることなく、身体を屈めて、花咲に抱きつき、嬉しさを表現した。


——あとはがんばって。


 二人が抱擁ほうようを交わしている間に、優木の小さな声が聞こえたような気がした。

 そして、二人はゆっくり離れると、なぜか花咲は顔を赤らめており、優木は活き活きとした顔を花咲に向けていた。


「姫子。私もがんばるね」


 花咲は、頬を染めたまま、ほんのりと微笑み返した。


「・・・・・・うん」


 それから優木は僕にも活き活きとした顔を向けた。


「春君よ。うちのカワイイ姫子ちゃんを頼んだよ」

「・・・・・・お、おう」

 

 意味は分からなかったが、とりあえず、僕は小さく頷いた。


 優木は花咲と僕に、別れを告げると、何度か振り返って手を振りながら、駅の構内へと軽やかに走っていった。そして、その様子を僕らは、優木の姿が見えなくなるまで、静かに見届けた。

 

 優木が駅のなかに消え、その姿が見えなくなると、二人だけ残された僕と花咲の間に緊張の空気が流れ始めた。周囲にはたくさんの人がいるはずなのに、まるで二人だけが密室に取り残されたかのような感覚だった。

 

 何か話しかけるべきなのか。

 それともこのまま無言で、各々でホテルを目指すべきなのか。

 どちらが正解なんだろうか。

 

 僕は、その答えのヒントを少しでも探ろうと、横目で花咲を見てみた。すると、彼女は僕の事をまるで気にしていない様子で、携帯端末を触り始めた。

 

 なんだ。案外、花咲の奴、普通の顔をしているな。

 だったら、話しかけて、一緒にホテルまで戻る事が正解なのか。

 よし、話しかけよう。

 だけど、何て話しかければいいんだ。こういうのは第一声が、大事だ。

 

 やあ、久しぶり。元気だったか?

 いや、なんか違う。

 

 さっきは無視して悪かったな。

 これも違う気がする。

 

 あれ、髪切った?

 これでは、昔のお昼に入っていたテレビ番組みたいだ。つーか、切ってなさそうだし。

 

 優木って、変な奴だな。

 うーん、優木の話を出す必要があるのか?やっぱり、初めに思いついた言葉が良い気がしてきた。

 

 僕が必死になって言葉を探していると、先に花咲の不機嫌な声が沈黙を破った。


「ねぇ、いつまで突っ立ってんの?」


 僕は、急に発せられた花咲の声に驚き、飛び跳ねそうになったが、何とか堪えて、少し体を仰け反らせるだけに留まった。そして、花咲の不機嫌そうな顔を見てから、恐る恐る声を発した。


「地下鉄のりばが、わかんねぇんだよ」


 僕の情けない告白に、花咲は何かを堪えるように、押し黙っていたが、しばらくしてから、頬を少し緩ませた。


「ふふっ・・・・・・。何それ」

「笑う事ねぇだろうが」

「はあ、笑ってないし。バカ」


 花咲の相変わらずの刺々しい口調を聞いて、どことなく懐かしく感じてしまった。ここ二週間ほど話をしなかっただけだが、とても久しぶりに会話をしたような気がする。といっても、その内容は酷いものだが・・・・・・。


 しかし、返ってそれが僕ららしいというか、何と言うか、これでいいんじゃないかとも思った。


「えっと・・・・・・、ついて来なさいよ」


 花咲はクルリと車いすの向きを変えると、僕について来るように顎で指図をした。


「俺は、ペットかよ」


 僕は花咲に聞こえないように、小さく呟いたつもりだったが、彼女の耳はそういうどうでも良い事はよく聞こえるらしく、僕の方に顔だけを向け、鋭く睨みつけてきた。


「早く来なさい。置いていくわよ。バカ原」


 バカ原って、何だよ。

 僕は片手をあげて、ヒラヒラと手を振ると、些細な反抗心を載せて返事をした。


「へいへい。わかったよ、ヒメちゃん」


 ヒメちゃんという単語は、花咲を怒らせるには十分、いや十二分だった。

 先程よりも強く睨みつけてくる花咲の目は、若干の殺意を感じた。


「次、言ったらき殺すからね」


 花咲の怒りに満ちた言葉の後に、僅かな風でも飛ばされそうな小さな声が聞こえてきた。


——普通に名前で呼んでよね。


 僕は、思わず、聞き返しそうになったが、それよりも先に花咲は車いすを進ませた。置いていかれそうなった僕は、慌てて彼女の後を追いかけた。


「おい、本当に置いていくなよ」


 花咲は、車いすの速度を緩めることなく、駅の構内へ進んでいくと、僕の方へ振り返えらずに、怒声を放った。


「うっさい!バカ」


 だけど、今度は怒りが感じられなかった。気のせいかもしれないが、少しだけ嬉しそうな感じがした。


 そして、僕の胸は高鳴っていた。

 苦しくはない。むしろ心地よい胸の高鳴り。

 

 これは、何という感情なのだろうか。

☆くるみのつぶやき☆


 一応、春と姫子は仲直り出来ました。

 みおのキャラクターがブレブレですけど、そういう不安定(?)なキャラということで。


それと、文字数が多くなってしまい、すいません。


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