第7話 蒼衣(リッチな幼なじみ)ルート③
朱美はそのまま自分の部屋へと戻り、ベッドに倒れこんだ。
「はぁ……疲れた……」
蒼衣には振り回されるし、沙橙の様子もなんだかおかしかったしで今日はとても疲れてしまった気がする。
「ちょっと寝よ……」
まだ帰ってきたばかりだが、疲れのせいか眠気が襲ってきた。
しかし、色んなことが起こりすぎてなかなか眠れない。
仕方なく起き上がり、外を眺めることにした。
窓から見える景色はいつもと変わらない。
だけど、今日はなんだか違って見えるような気がした。
「蒼衣……沙橙……」
二人のことを思う。
なんであんなことになってしまったのか? なんで自分はこんなにも悩んでいるのか? 考えても答えが出ることはない。
「……はぁ」
「なにをため息ついてるんですの?」
「うわぁ!?」
突然声をかけられ驚いてしまう。
いつの間にか蒼衣が部屋に入ってきていたようだ。
朱美は慌てて立ち上がると、誤魔化すように言う。
「いや、なんでもないよ? っていうかどこから入ってきたの!?」
「そこの窓からですわ。開いていたもので、つい」
「ついって……」
朱美はため息をつく。
蒼衣の行動力には驚かされてばかりだ。
そういえば、昔も朱美が熱を出した時に窓から「大丈夫ですの!?」と現れた気がする。
いくら家が隣だからとはいえ、窓から窓に飛び移るのは並の人間では不可能だろう。
だからあれは熱の時に見る変な夢だと思っていたのだが……どうやら現実らしい。
「それより、今日は楽しかったですわね。朱美さん」
蒼衣はニコニコと嬉しそうに言う。
まるでプレゼントを貰った子供のような無邪気な笑顔だ。
そんな蒼衣を見て、思わずドキッとしてしまう。
「う、うん……」
「あら、どうしましたの? 顔が赤いようですけど……もしかして照れてらっしゃるのかしら?」
「ち、違うよ! そんなんじゃないって!」
朱美は必死に否定するが蒼衣は全く聞く耳を持たない。
それどころかどんどん距離を詰めてくる。
このままではまずいと思い後ずさるもすぐに壁にぶつかってしまった。
逃げ場がない。
「ふふっ、本当に可愛らしいですわね」
蒼衣はそう言うと、ゆっくりと顔を近づけてきた。
そしてそのまま唇を重ねようとしてくる。
朱美は慌てて顔を背けた。すると蒼衣の唇が頬に当たる感触があった。
「むぅ……避けなくてもいいじゃありませんの」
不満そうな声を上げる蒼衣。だが朱美からしたらたまったものではない。
たしかに女の子とイチャイチャするのは好きだが、ここまでグイグイ来られると困る。
朱美は経験が少ないのだ。中学生だから当たり前だけど。
「朱美さん、好きですわ」
再び顔を近づけてくる蒼衣。
今度は避けられず唇同士が触れ合った。柔らかく温かい感触が伝わってくる。
朱美は恥ずかしさのあまり固まってしまう。
抵抗しないのをいいことに蒼衣はさらに激しく求めてきた。
何度も啄むようなキスを繰り返す。最初は驚いていたものの次第に慣れてきたのか朱美も受け入れ始めていた。
やがて蒼衣の舌が朱美の唇をノックし、ゆっくりと中に入ってくる。口内を蹂躙される感覚に背筋がゾクゾクとする。初めての感覚に戸惑いながらも必死に応えようとする朱美だったが次第に意識がぼーっとしてきた。
「はぁ……っ」
唇が離れると同時に大きく息をする朱美。その顔は上気しており目は潤んでいた。
そんな朱美を見て満足げに微笑む蒼衣。
その表情はとても妖艶で思わず見惚れてしまうほどだった。
「……ねぇ、朱美さん」
「な、なに?」
「わたくしのこと嫌いですか?」
不安げに聞いてくる蒼衣。
そんな聞き方はずるいと思う。
嫌いなわけがない。むしろ好きだと言えるくらいだ。だけどそれを口にするのは恥ずかしいし勇気がいることだ。だから素直に答えることはできないけれど……それでもちゃんと伝えようと思った。
「……好きだよ」
朱美は小さな声で言う。ちゃんと聞こえていたかはわからないけどそれでもよかった。今の気持ちさえ伝わればそれで十分だ。
それを聞いた蒼衣は満面の笑みを浮かべた。まるで花が咲いたかのような笑顔だ。
「良かったですわ! わたくしも朱美さんの事が大好きですわ!」
「う、うん……」
朱美は照れたように顔を背ける。
そんな朱美に蒼衣は再び口づけをした。今度は触れるだけの軽いものだ。だがそれでも十分すぎるほどの衝撃だった。
それからしばらくの間、二人は抱き合っていたのだった……
☆ ☆ ☆
「……はぁ、やっぱりこうなっちゃうか」
沙橙は一人呟く。
朱美と蒼衣の様子を双眼鏡で眺めながらため息をつく。
「……この世界線なら当然といえば当然だけど、やっぱり何回見ても心にくるな」
沙橙はポツリと呟いた。その表情はどこか寂しげで悲しさを感じさせるものだった。
それと同時にとてつもない闇がその目の奥に隠れているようだった。
「……なんでボクは記憶を引き継いじゃうんだろう。ボクと朱美ちゃんが結ばれるルートじゃない時も」
沙橙は自嘲気味に笑う。その笑顔はとても歪で痛々しいものだった。
「……だけど、ボクのルートじゃない時は邪魔しない方がいいよな。その方が朱美ちゃんも幸せだろうし……ちょっとしたちょっかいはかけさせてもらうけど」
沙橙はそう言うと、双眼鏡をしまいその場を後にした。
その足取りはどこか重かったが、それでも前を向いて歩いていくのだった……




