第5話 蒼衣(リッチな幼なじみ)ルート①
「あら、おはようございます。朱美さん」
「おはよー、蒼衣。てか、幼なじみなんだからさん付けやめてよ」
丁寧な口調と態度で出迎えてくれたのは、隣に住んでいる幼なじみの蒼衣。
生まれた時から既に一緒にいるので、もうかれこれ14年の付き合いになる。
「同じ病院、同じ時間に生まれた運命ような仲なんだから~」
「それもそうですわね。だけどもうそう呼ぶのが癖になってしまっていて」
蒼衣は、赤髪青目の美少女。
腰まで伸びた長く燃えるような赤髪がとても眩しい。
ついつい反射的に目を細めてしまう。
「じゃ、行こうか」
「ええ、そうですわね」
こうして二人は歩き出した。
通学路が長いからだろうか、既に周りには誰もいない。
二人の足音だけが、静かな住宅街に響いている。
朱美は静かすぎることに少しばかり違和感を覚えたが、すぐにその正体がわかる。
「そういえば、今日はみーちゃんは一緒じゃありませんの?」
「みーちゃん? あぁ、美桜のことか。美桜は今日早めに学校行ってるんだよねぇ」
「あら、そうだったんですのね」
美桜というのは朱美の妹で、蒼衣の因縁のライバル……らしい。
朱美は詳しく知らないが、昔蒼衣と美桜が戦ったことがあるのだとか。
蒼衣の勝利で終わったということも聞いている。
一体なにを巡っていたのかはわからないが、二人にとってはよほど大切なものなのだろう。
美桜に散々泣きつかれたことのある朱美はそれを痛いほど感じていた。
「ふふっ、一体なにを考えているのかしら。わたくしと朱美さんが仲を深められるよう身を引いたということなのかしら」
「え、あー、うん、多分そうなんじゃないかな……」
「まあ! それはとても光栄なことですわ」
蒼衣は嬉しそうな笑顔で朱美の腕に抱きついてくる。
中学生にしては発達している胸がむぎゅうと当たって朱美は変な気分になる。
胸の柔らかさと自分にはないものを感じて嬉しいやら虚しいやら……
「そ、そういえば、蒼衣って好きな人とかいないの?」
「好きな人……ですか。そうですわね……朱美さんですわ」
「……え?」
「あら、わたくし何かおかしなこと言いました?」
「あ、いや! 別におかしくはないんだけど!」
まさか自分に矛先が向くとは。
いやまあ確かに蒼衣に好かれるような要素はあるのかもしれない。
だがしかし、それはあくまで幼なじみだからで恋愛的な意味ではないはずだと朱美は思っている。
「朱美さんは、好きな人とかいらっしゃるんですの?」
「わ、私? うーん……いないかなぁ」
「あら、そうですの。それはよかったですわ」
蒼衣はそう言うと、さらに強く抱きついてくる。
朱美はそれに少しドキッとしながらも、平静を装って歩き続ける。
「……っと、そろそろ学校だね。あ、あの、そろそろ腕離してくれない?」
「……嫌ですわ」
「え?」
蒼衣は朱美の腕にしがみついたまま、離さない。
「だって、このまま離したらあなたは別のところに行ってしまうでしょう? 朱美さんはわたくしのものですわ。誰にも渡しません」
「え、えーっと……」
蒼衣は独占欲がとても強い。
昔からそうだ。
だからこうして、いつも朱美に抱きついてくるのだ。
「ほら、早く行きますわよ。朱美さん」
蒼衣はやっと腕を離したかと思いきや、今度は朱美の腕に自らの腕を絡めてくる。
俗に言う恋人繋ぎというものだ。
「ちょ、ちょっと蒼衣! 私達は幼なじみでそういう関係じゃないでしょ?」
「あら? でもわたくしのこと嫌いではないのでしょう?」
「それはそうだけど……」
そんな話をしているうちに学校に着いた。
蒼衣とはクラスが違うからそろそろ本当に離して欲しいのだけど。
「ほら、そろそろ離れて。他の人に見られると恥ずかしいじゃん」
「ふふっ、残念ですわね……朱美さんとのこの時間がなくなると思うと、少し寂しくなりますわ」
蒼衣はそんなことを言いながらもやっと腕を離してくれた。
朱美は内心ホッとしながら教室に入る。
蒼衣に求められるのは正直嫌な気がしない。
だけど、やはり恥ずかしさが先行して素直になれない。
「はぁ……」
朱美は大きなため息をついた。
やはり、恋とはどんなものかよくわからない。
「あ、朱美さん」
「ん? どうしたの蒼衣?」
「あの……その……」
蒼衣はモジモジとしながら、言葉を詰まらせている。
「えっと、朱美さん。放課後屋上に来て欲しいんですの」
「屋上? なんで?」
「……秘密ですわ」
蒼衣はそれだけ言って自分のクラスへいってしまった。
朱美は不思議に思いながらも授業の準備をしたのだった。




