第47話 クラスメイトとお泊まり
「ふぅ……ごちそうさま」
食べ終わったあとはきちんと皿を片付け、食後の落ち着いた時間が流れる。窓の外はすっかり暗くなり、街灯の明かりがぼんやりと影を作っている。
「……朱美ちゃん」
「ん?」
不意に呼ばれた名前に反応すると、沙橙が真剣な表情でこちらを見ていた。その眼差しには不安や悲しみといった様々な感情が入り混じっているように見える。
「……何があったか教えてくれない?」
「え……っと……」
言葉に詰まる。妹や幼なじみの件は簡単に話せる内容ではない。説明しようとしてもどこから切り出すべきか分からず、喉元で言葉がつかえて出せない状態になってしまう。
「……無理に話せとは言わないよ。ただ……」
「ただ?」
沙橙は一瞬躊躇いながらも続けた。
「……君が辛そうな顔をしてるのが……ボク、見ていられないから」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが弾けるような感覚があった。ここまで自分を気遣ってくれる人がいるという事実に、感謝と安堵が入り混じる。
「ごめん……本当はもっと早く話すべきだったんだけど……」
朱美は重苦しい気持ちを振り払うように深呼吸し、ゆっくりと口を開いた。
「実は妹と幼なじみが急におかしくなって……それで……逃げて来たんだ」
「……おかしくなったって、具体的にはどんな風に?」
「媚薬を使われたり……拘束されたり……そういう感じで……」
正直に話すのは勇気が必要だったが、ここまで来ればもう隠し通すことの方が難しい。沙橙は驚いた様子を見せつつも、真剣に耳を傾けてくれる。
「……そっか。それは大変だったね」
「うん……」
沈黙が続く。沙橙はしばらく考え込むような仕草をしていたが、やがて静かに口を開いた。
「……これからどうするつもり?」
「わからない……正直言って、どこに行けば安全かもわからなくて……」
その時、携帯電話の着信音が鳴った。画面には『美桜』と表示されている。反射的に身体が強張り、視線が画面から離せなくなる。
「……出る?」
「いや、今は……」
朱美は首を横に振る。
妹からの連絡は確かに気になるが、内容が想像つく以上、積極的には出たくなかった。それを見た沙橙は迷いながらも決断したように提案する。
「朱美ちゃん、もし良ければしばらくボクの家に泊まっていったら?」
「えっ? でも迷惑じゃないかな……」
「大丈夫だよ。むしろ一人でいる方が危険だと思うし」
沙橙の目には確固たる意志が宿っている。朱美はその提案を受け入れるべきか迷いながらも、沙橙の真摯な態度に心を動かされた。
「ありがとう……それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」
「うん。もちろん」
沙橙の優しい笑顔に安堵感を覚えつつ、朱美は深く息を吐いた。
ここならしばらくは安全でいられるかもしれない——その希望が僅かでも生まれたことで心が少し軽くなったような気がした。
ただ一つだけ不安要素があるとすれば、この安息がいつまで続くのかという点だ。
妹や幼なじみから逃れた今でも油断は禁物だと肝に銘じながら、一晩くらいはゆっくり休息を取ろうと決めたのであった。




