第45話 幼なじみも様子がおかしい?
「――あー、酷い目に遭った……」
あのあと結局玄関でなにがあったのかは、思い出したくもないほど過酷なものだった。
とはいえ逃げることに成功したから、ひとまず安心だ。
「美桜ってあんなキャラだったっけ?」
朱美にとって実の妹である美桜のことは誰よりもわかっているつもりだった。だからこそ、あの豹変ぶりには驚かされた。
しばらくは家に帰れないだろう。
どうしたものかと辺りを見回していると、朱美の見知った顔があった。
「蒼衣?」
「あら、朱美さん。ごきげんよう」
そこにいたのは、幼なじみであり同級生の蒼衣。いかにもなお金持ちのお嬢様みたいな見た目をしており、実際にかなりのお嬢様だったりする。
そんな子と幼なじみの朱美は、昔から尊敬すればいいのか嫉妬すればいいのか感情がよくわからなかったりする。
「蒼衣、ちょうどよかった……実は今ちょっと困ってて……」
朱美は申し訳なさそうに事情を説明すると、蒼衣は軽く眉をひそめた後でクスリと笑った。
「まぁ、それは災難でしたわね。でもそんなに怯えないでも大丈夫ですわ。私の自宅……は朱美さんの家と近いですし、いっそ別荘で少し休んで行きませんこと?」
蒼衣の提案に朱美は一瞬迷ったが、現状他に行くあてもないので素直に頷いた。
そうして豪華絢爛な蒼衣の別荘に到着した朱美は圧倒されるばかりだった。
「どうぞこちらへ」と蒼衣に案内された先には広々としたリビングが。
「はぁ~……なんだか緊張してきたかも」
朱美がふかふかすぎて体重で沈んでいくソファーに座ると、蒼衣は紅茶を用意してくれた。
その仕草ひとつひとつがとても上品で見惚れてしまうほどだ。
カップに口をつけると、甘くて華やかな香りが鼻腔をくすぐる。
「おいしい……」と思わず漏らすと、「喜んでいただけて光栄ですわ」と微笑んだ。
その笑顔があまりにも眩しくて、思わずドキッとしてしまう。
昔から色々知っている蒼衣に今更ときめくなんてありえない、と朱美は思った。
「そういや、近くにこんな素敵な別荘があるなんて知らなかったよ」
「ふふ、たまに訪れるくらいですが……気分転換にはぴったりですわ。朱美さんもゆっくりしていってください」
蒼衣の優しさに感謝しながら過ごしていた朱美だったが、ここで一つ問題が起こった。
用意されたティーセットの中に、バレンタインチョコがいくつか置かれている。
恐らく蒼衣からのプレゼントなのだろうが――ここで食べてしまってもいいのだろうか?
妹のこともあり悩みながらもチョコを手に取ろうとした瞬間、突然強い眠気に襲われる。
なんだか頭がぼんやりしてきたし、瞼が重くなってきた。
そのまま抗うことなく意識を手放してしまった――
目が覚めると、目の前にいたはずの蒼衣の姿がない。
ベッドの柔らかい感触から察するにどうやら寝室らしい。
どうしてここにいるのか思い出せないけれど、とりあえず起き上がろうと体を動かす。
しかし何故か身動きが取れない。そこでようやく気づく。手首を縛られている。
足首まで拘束されているようで身動き一つ取れない状態になっていた。
焦っても仕方ないと自分に言い聞かせつつも不安になるばかりであった時、ドアが開いた音がした。
「目が覚めたみたいですわね」
現れたのは蒼衣だ。相変わらず美しい顔つきをしているが瞳には狂気じみた色合いを感じさせるものが宿っていた。
いつもの穏やかな彼女からは想像できないほどの殺伐とした雰囲気だったため恐怖心すら抱いたほどだ。
まるで獲物を狙う獣のような眼差しを向けられながら全身を舐め回すように見られている気がしたので、嫌悪感を覚えずにはいられなかった。
「蒼衣、これは一体どういうつもり? 早くこの拘束を解いて!」
「できませんわ。だって今から貴女は私に犯されますもの♪」
「……っ!」
衝撃的な発言に言葉を失う。冗談ではなく本気なのだと言うことを理解した途端、朱美の血の気が引いていった。
冗談であって欲しいという思いは次の瞬間に砕け散ることとなる。蒼衣が不敵に笑うとともに上着を脱ぎ捨て始めたからだ。
白い肌が露になり、形の良い胸が揺れている様子が見て取れた瞬間、心臓が大きく跳ね上がる。
彼女は恥じらうこともなく全てを曝け出した格好になると再びこちらを見つめてきた。
潤んだ瞳には明らかな興奮状態にあるのが確認できる上に呼吸音までも荒くなり始めていることから確信へと繋がっていくのであった。
「朱美さん……ずっと愛していましたわ。毎日あなたのことを想わない日なんてありませんでした」
恍惚とした表情で囁かれた言葉によりさらに鼓動が激しくなるのを感じつつ、必死に抵抗しようと試みる。
蒼衣の言葉が耳に残る。確かにその想いには嘘偽りはないのだろう。しかし今の朱美には受け入れることが出来なかった。このままだと自分の純潔を奪われてしまうと考えると震えるしかなかったのだ。
そんな様子を見て哀れに思ったのか、優しい口調で告げる。
「安心してください。すぐに慣れますから……」
その時。ずっと逃げようともがいていたからか、拘束が緩んだ。
力任せに蒼衣を押しのけ、ベッドから降り、裸足で逃げ出す。
もう靴は諦めるしかない。
「朱美さん!?」
蒼衣が叫ぶも、朱美は振り返らない。
妹にも幼なじみにも襲われそうになって、朱美は無我夢中で逃げるしかなかった。




