第44話 妹からの重い愛
寝すぎてだるくなった身体を起こす。
中学に入って、勉強も部活もよりハードになってきたから、ついつい休みの日にこうして寝すぎてしまうのだ。
そして、それと関係なくもう一つ問題が――
「……あのー、なにしがみついていらっしゃるんですかねぇ」
「えへへぇ、朱美おねーちゃんあったかくてぺたんこで落ち着くー」
「だれがまな板だって!?」
「そこまでは言ってないよ……」
「似たようなもんでしょ!」
休みの日だと、朱美の可愛い妹……美桜がベタベタくっついてきてなかなか離れないのだ。
寝すぎのだるさと妹の体重で、朱美の心も体もずっしりと重くなる。
長く寝ても疲れが取れるわけではないということみたいだ。
「はぁ……それより、今日はバレンタインか……」
「えっ! 朱美おねーちゃん、私にチョコくれるって!?」
「そんなことは言ってない」
「もーっ! 朱美おねーちゃんはいつも冷たいんだからぁ!」
そう、今日はバレンタインデー。
朱美には縁のないものだが、世の中はリア充とそうでないものの差がハッキリと出てしまう残酷な日である。
朱美はもちろん後者だ。
「もういいから離れて」
無理やり美桜を引き剥がし、ベッドから下りる。
今日はなにをしようかと立ち止まったところで、美桜が声をかけた。
「あ、今日も私がご飯作るよ」
「……ん、お願い」
「はーい!」
美桜は実に嬉しそうにスキップしながら台所へ向かう。
元気なことである。
朱美はそれを羨ましそうに、微笑ましそうに見つめる。
それが、悪夢の始まりであることに気づかずに――
「朱美おねーちゃん。今日はバレンタインデーということで、チョコを作ってみたよ!」
「……いや、普通にご飯作って欲しかったな……」
木製のテーブルの上には、これでもかというほどチョコレートが並べられている。
こんなに作って食べ切れるのだろうか。
いや、ツッコミどころはそこではない。
なんでご飯じゃなくてチョコレートを作ったのか。
いくらバレンタインデーだからと言えども、これはやりすぎではないだろうか。
「……気に入らない?」
「え、だから普通にご飯作って欲しかっただけなんだけど……」
「いいから食べてよー! 一生懸命作ったんだから……!」
「うーん、わかったよ……」
美桜の押しが強くて、朱美は折れてしまった。
しかし、よく見るとチョコチップケーキやチョコを塗ったトーストなどもあり、朝ごはんに出されてもあまり違和感のないものも混ざっている。
これならばなんとかなりそうだ。
「えっと、じゃあ、いただきます……」
「はーい」
それにしても、美桜は本当に料理がうまい。
家庭的で顔が整っていておまけにロリ属性があるとくると、かなりその手のマニアに需要がありそうだ。
ちょっと気が強くて上手くコミュニケーションが取れない場面もあるが、そこもまた心を掴まれてしまうこともあるだろう。
白色のロングヘアーも清楚な見た目にしてくれている。
対して、朱美は地味でなんの取り柄もないような女だ。
特に特筆すべきものはなにもない。
強いて言うなら、黒髪ボブで絶壁というところだろうか。
……そう考えたところで朱美の目から一粒の涙がこぼれた。
「ど、どうかな? 美味しい?」
「えっ? あ、うん、もちろん。ほんと料理がうまくて憧れるよ……」
「えへへ、嬉しいなぁ。もっと作っちゃうよ!」
「もうこれ以上は……やめ、て……」
美桜の本気とも冗談とも取れない言葉を笑って釘を刺そうとしたら、突如朱美の体が熱くなった。
「なっ……」
「ふぅ、やっと効果出てくれたんだね……」
なにが起きたのか。
意識が朦朧としてきて、なにも考えられない。
でも、いつもより少し低めの美桜の声が聴こえて、なにかを混入された可能性があることだけはわかった。
朱美のことが大好きな美桜のことだから、殺したりはしないと思うが……思った以上にヤンデレだったらかなりやばい。
「あ、安心してね。ただの媚薬だから」
「……はぁ!?」
「これで朱美おねーちゃんは身体がむずむずして、私にすがるしかなくなるんだよ。よだれを垂らしながら、はしたなく腰を振っちゃう雌犬さんに……うふふふ……」
――やばい。逃げなきゃ。でも、どうやって?
朱美は考えるが、上手く思考がまとまらない。
この異常なまでの体の熱さと動悸は、媚薬による症状に違いない。
時間が立てば、媚薬の効果もだんだんなくなってくるだろう。
そう考えた朱美は、椅子から立ち上がって逃げようとする。
リビングを出て廊下を走り、玄関のドアまでたどり着いた。
もうあとは外に出たら人目もあるし、えっちなこともできないだろう。
――そんな呑気なことを考えていた朱美を嘲笑うかのように、背後に美桜が迫っていた。
「朱美おねーちゃん……どこ行くの?」
「ひゃうっ!」
もう外に出たのに、美桜が後ろからぎゅぅっと朱美を抱きしめる。
媚薬の効果で感度がよくなっていた朱美は、それだけで声を上げてしまった。
美桜の吐息が背中にかかり、背筋がゾワゾワする。
「朱美おねーちゃん……逃がさないからね……?」
「ふぁっ……やっ……」
美桜が身体中まさぐってきて、ついに朱美は立っていられないほどになった。
こんなふうに外でするなんて間違っている。誰かに見られたら人生が終わってしまう。美桜の鋭い眼光が怖くて逃げられない。
それなのに、どうして――
「うふふ、大好きだよ。朱美おねーちゃん」
――こんなにも、幸せだと思っているのだろう。




