第42話 結婚するのは別人?
「あ、いたいた。朱美さんこっちですよー」
「はい、今行きますー」
朱美は沙橙の同棲相手に呼ばれ、その人のいる場所へと足を運ぶ。
結婚式当日、朱美は家から遠く離れたチャペルにいた。
今ここにいるのは朱美を含めて10人に満たない人数だが、それでも結構賑やかな印象だ。
「今日はよろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
沙橙の同棲相手は相変わらず気さくな雰囲気で朱美に話しかけてきた。
彼女に対する第一印象は悪くないけど、やはり油断はできないといったのが朱美の見解だ。
なんとなくだけど、この人が何か企んでいるような気がしてならない。
警戒するに越したことはないと、朱美は睨みつけるようにじっと見続ける。
「……朱美ちゃん、来てくれてありがとう」
沙橙が朱美を見つけて駆け寄ってくる。
「ううん……こっちこそお招きいただき光栄です。なんて」
朱美は沙橙――本日の主役に一礼する。
今日の沙橙は白を基調としたドレスに身を包んでおり、普段とはまた違う魅力を醸し出していた。
「……めっちゃ似合ってる。最高だね」
「……そう? ありがとう。朱美ちゃんも黒のドレス似合ってるね」
朱美の言葉を受けて嬉しそうに微笑む沙橙。
その笑顔に、朱美は思わず胸が高鳴る。
ずっと見ていたくなる魔力があるらしい。
「……そうだ! 朱美さん、沙橙との写真撮ってあげましょうか?」
沙橙の同棲相手は唐突にそんなことを言い出した。
朱美は一瞬戸惑ったものの、せっかくの機会なのでお願いすることにした。
「じゃあ、お願いします」
「了解です!」
彼女はスマホを取り出し、朱美と沙橙のツーショットを撮影してくれた。
「うん、いい感じ! 後で送りますね」
「ありがとうございます」
彼女はスマホをしまいながら満足そうに笑う。
「本当に君らお似合いだねー」
とても無邪気に、からかうように沙橙がそう言われていた。
朱美としては沙橙とお似合いと言われるのは嬉しい限りだが、沙橙はどうなのだろうか。
そう思って朱美が沙橙の方を見てみると、彼女はどこか困ったように笑いながら頬をかいていた。
「……からかわないで。ボクと朱美ちゃんじゃ釣り合うわけないでしょ。朱美ちゃんは魅力的なんだから」
「そうなの? でも、お似合いだと思うけどなぁ」
「……それは嬉しいけど、ボクじゃ朱美ちゃんに不釣り合いだよ。もっと素敵な人いるって」
「そう? そんなことはないと思うけど……」
沙橙が自分を卑下すると、沙橙の同棲相手は朱美の方に申し訳なさそうな視線を送ってきた。
……もしかして、朱美の気持ちに気づいていて、朱美と沙橙をくっつけようとしているのではないか。
そんなふうに思うくらい、彼女の行動はわかりやすかった。
「じゃあ、私はそろそろ行くよ。今日の主役待たせてるし」
「……うん、また後で。花嫁さんとお婿さんによろしく」
「はいよー」
沙橙の同棲相手は軽く手を振って朱美たちから離れていった。
……というか、あれ?
今日の主役……花嫁さんとお婿さん……
「今日は沙橙の結婚式じゃないの?」
「……え? いや、違うよ。ボクはまだ独身だし」
「じゃあ誰が?」
「……ほら、あそこの人だよ」
そう言って沙橙はチャペルの入り口の方を指差す。
そこには純白のベールとドレスに身を包んだ一人の女性がいた。
「……あの人が花嫁さんか」
「……うん、そうそう」
なるほど……と朱美は未だ混乱する中でなんとか理解を示した。
つまり今日の主役はあの女性ということで。
沙橙はそれに呼ばれただけということで。
「……朱美ちゃんも知ってると思うけど、あの人はボクの先輩でね? お世話になったし幸せになってほしいなぁ」
沙橙はしみじみとそう言う。
だけど、朱美はそれどころではない。
朱美はてっきり沙橙が結婚するものだと思って、祝福する覚悟を決めてこの場にやってきたのだ。
……祝福というより、やりたいことは略奪に近かったのは秘密だ。
勝手にお相手をどうしてやろうかまで考えていた自分が恥ずかしい。
沙橙が結婚式の主役ではないと聞いて、朱美の肩から一気に力が抜けた。
「ああ……本当によかった……」
朱美は思わず安堵のあまりそんな言葉を漏らす。
緊張していた理由がわかるとなんだかおかしくて笑えてくる。
そんな朱美を見て、沙橙は不思議そうに首を傾げるのだった。




