第36話 真のハーレムには程遠い?
「……ボクもごめんよ。ってことで、せっかくだし今日はみんなでぎゅうぎゅうになって寝ようか」
「はい!?」
沙橙の急な提案に、朱美は目が飛び出そうになる。
第一、紫音はもう寝てしまっているのにハブいたら怒られないだろうか。
そんな朱美の心配を余所に沙橙は話を進めていく。
「……美桜ちゃんと蒼衣ちゃんが朱美ちゃんの両隣に寝ていいよ。今日はボクが悪かったし譲る」
「わぁ! ありがとうございます!」
「感謝しますわ」
美桜と蒼衣は喜びの声を上げている。
紫音が聞いたらどんな反応をするか気になるところではあるけれど。
「……ほら、朱美ちゃんも布団に入ってきて」
沙橙は掛け布団を捲ると、朱美の手を引っ張ってベッドに引きずり込んだ。
ベッドに放り出された朱美は三人分の温もりに包まれる。
その柔らかさに思わず幸せな気分になってしまう。
「あったかい……」
「えへへ~。朱美おねーちゃんと密着できて嬉しいなー」
「わたくしも幸せですわ」
美桜と蒼衣も幸せそうにしている。
そんな二人を見ていたらなんだかそれでいいような気がしてきて、細かいことを気にするのはやめた。
朱美は左隣にいる美桜の頭を優しく撫でる。
「朱美おねーちゃん? どうしたの?」
「美桜と一緒に寝るの久しぶりな気がして、ちょっと嬉しくなっちゃった」
「……そういうこと不意打ちで言うのずるい……」
照れ隠しなのか、美桜は朱美の腕に顔をうずめる。
その行動に庇護欲がうずいたのか、彼女の身体に腕を回した。
右側にいる蒼衣はというと、朱美に寄り添うように密着していた。
朱美はこの距離感と暖かさがたまらない。
「おやすみなさい、朱美さん」
「おやすみ、朱美ちゃん」
「朱美おねーちゃん、大好き♡」
それぞれ挨拶を交わして眠りについた。
朱美はそれを受けてすぐに意識が遠のく……かと思いきや。
三人が寝静まったあと、ギィと床が軋む音が響いてなかなか寝付けなかった。
おばけか不審者でもいるのではないかと怯えた朱美だったが、よく考えたら原因は明白である。
「……朱美、起きてる?」
「あ……紫音先輩」
「起こしちゃってごめんなさいね」
音の正体はやはり紫音であった。
朱美はホッとすると同時に少し怖くもあった。
美桜と蒼衣と沙橙と一緒に寝ているこの状況をどう捉えるだろうか。
「こんな時間にどうしたんですか?」
「少し喉が渇いたのよ」
紫音は朱美の問いかけに対し、さらりと答えた。
本当は違う理由があるのではないかと思わずにいられないが、追及するのは野暮というものだろう。
「じゃあ私は自分の部屋に戻るわね。おやすみなさい」
「え? あ、ま、待ってください……!」
くるりと向きを変えて出ていこうとする紫音を、朱美は布団から出ながら呼び止める。
そのことに紫音は戸惑っている様子だったが、無視せず足を止めてくれたので一安心である。
「なにかしら?」
「えっと……紫音先輩も一緒に寝ませんか?」
「それは嬉しい申し出だけど、流石に五人は狭くない?」
「まぁ……たしかに」
紫音は暗に〝自分のことは気にしないで〟と言ってくれている。
朱美だって無理やり誘ってまで一緒に寝たいわけでもないので、素直に引き下がるべきなのかもしれない。
でもそれではダメだと思ったからこそ朱美は行動に出たのである。
「……朱美?」
「紫音先輩は、それでいいんですか?」
「どういうこと?」
「……えっと、うまく言えないんですけど……」
「……」
紫音は朱美の曖昧な答えに何も言わずに耳を傾けてくれていた。
そのおかげで少し考える猶予を得ることができたのだ。
朱美は伝えたいことを整理してから口に出すことにする。
「……わたし、紫音先輩はもっと甘えてもいいと思っ」
「んぅ……朱美、愛してる」
「……えっ?」
不意打ちの告白に、朱美の思考が停止する。
朱美が硬直しているうちに、またも紫音の唇は朱美に重なっていた。
「んっ……ぷはぁ……」
数秒程度の短いものだったが、朱美の顔はトマトのように真っ赤になってしまっていた。それを見た紫音はクスクス笑う。
「かわいいわね」
「うぅ〜……」
朱美は恥ずかしさで悶絶していた。
頭がクラクラして今にも気絶してしまいそうになる。
「……気が変わったわ。やっぱり一緒に寝ましょうか」
「え?」
「その代わり、朝まで付き合ってもらうわよ?」
「……っ」
紫音は妖艶な笑みを浮かべながら、朱美の耳元で囁く。その吐息だけでも刺激的なのに、さらに追い討ちをかけるような言葉を投げかけてきた。
「……それならわたしだって」
「ん?」
朱美は意を決して、紫音の胸に顔をうずめて呟いた。
「……負けません」
「ふふっ、楽しみね」
紫音は慈しむような優しい手付きで朱美の頭を撫でてくれる。
その手の動きはとても心地良く、ずっとこうされていたくなるほどであった。
やがて紫音が立ち上がり、朱美を布団の中に招いてくれる。
朱美もそれに倣い、布団に入った。
「じゃあ明日までよろしくね」
「はい」
こうして四人の美少女に挟まれながら過ごすことになったのだが、朱美にとって最も重要なことは別にある。
それは〝ハーレム〟という関係性を維持するため、互いのわがままをできるだけ聞いてあげることである。
そのためには時には厳しい選択を迫られることもあるだろう。
しかしそれら全て乗り越えてこそ真のハーレム生活が始まるのだと信じている。
だからこれからもこの美少女たちと共に幸せな日々を送って行きたいと思っているのであった。




