第35話 ギスギスであり仲良しなハーレム
「……そろそろ離れてもらおうか」
蒼衣に大事ななにかを吸われているところに助け舟を出してくれたのは沙橙だった。
沙橙は蒼衣を朱美から引き剥がし、朱美の腕に抱きついた。
「……まったく、朱美ちゃんはボクのだぞ」
そして沙橙はそう宣言してくる。相変わらず独占欲が強いというかなんというか……
だけど助けてもらった分際で文句は言えない。ここは大人しくしておくべきだろう。
「ありがとう、沙橙。助かったよ」
「……いいよ。困ったときはお互い様だし」
「ふふっ、沙橙さんも随分素直になりましたわね?」
引き剥がされた蒼衣はあまり恨んでいないのか、面白そうに微笑む。
蒼衣の言葉に沙橙が少しムッとする。
「……別にボクは変わってない。朱美ちゃんが大事なだけ」
「そうですか。ですが、わたくしも朱美さんは特別な存在ですのよ?」
蒼衣は挑発的な眼差しを向けつつ言った。
「あおちゃん、さっきまで正気失ってたのにまだ沙橙さんと張り合うの? 諦め悪いな〜」
「それはみーちゃんも同じじゃないですか。それにこんな暴挙、みーちゃんは見逃せるとでも?」
「いや……そりゃ、私だって朱美おねーちゃんは渡したくないよ。でもあおちゃんよりはマシかなって」
「ひどいですわ!?」
蒼衣と美桜が再び言い争いを始めてしまった。
先ほどキスで強引に喧嘩を止めた紫音は寝てしまったのか、仲裁に来る気配がない。
どうやらこの修羅場は自力で切り抜けるしかないようだ。
朱美が途方に暮れていると、沙橙がボソッと呟いた。
「……ボクは朱美ちゃんを守る盾だ。だからボクに任せて」
「いや、沙橙が出ていった方が余計やばいと思うんだけど」
沙橙は自信満々な様子で前に出る。一体何をするつもりなのだろうか。不安しかない。
そんな朱美の心配を他所に、沙橙は行動に出た。
彼女が取った手段は……
「……朱美ちゃん、好きだよ」
なんと告白してきたのだ。しかもかなりストレートな愛の告白である。
予想外すぎる出来事に朱美の思考が停止してしまった。
「「なっ!?」」
それに反応したのは蒼衣と美桜の二人である。
朱美だけでなく彼女たちにとっても予期せぬ展開だったらしい。
特に蒼衣に至っては目を見開いて固まっているぐらいだから相当驚いているのだろう。
……この集まりは朱美を取り合う彼女達が話し合って〝ハーレム〟に収まっているはずなのだ。
だからこそ、朱美に好意を持っていることが前提条件なのはわかりきっているのに。
二人は何をそんなに驚いているのだろう。
それともこれは一種の宣戦布告ということか?
「……ボクはずっと朱美ちゃんのこと考えてた。気づけば四六時中朱美ちゃんを想ってる。朱美ちゃんへの恋慕の情はボクが誰よりも深いんだ」
沙橙は朱美に対する気持ちを吐露していった。
それは決して嘘偽りなどではなく、純粋で真っ直ぐな想いの数々である。
朱美は聞いている内に照れ臭くなってきた。顔から火が出そうなほど熱くなる。
でも嫌な気分ではない。むしろ嬉しいという感情の方が大きかった。
「……だから朱美ちゃんはボクのものだよ。誰にも渡さない」
「っ……」
沙橙の鋭い眼光に射抜かれ、蒼衣は言葉を詰まらせた。
完全に圧倒されてしまっているようだ。
沙橙が怖いほど真剣なのは伝わってくる。
……いやいや、何この状況。
「待って待って、みんな仲良くしてよ。こんなギスギスハーレムなんか望んでない!」
朱美は全力で叫んだ。これ以上混乱させないで欲しいという切実な願いである。
みんなで仲良くハーレムするのが理想なのであって、断じて沙橙による独裁政権を認めた覚えはない。
それは蒼衣や美桜だって同じはずだ。
「……そうだね。ボクが間違ってた。朱美ちゃんはみんなで可愛がるのが一番だ」
沙橙はあっさり意見を翻して、ニコリと笑った。
どうやら最初から怒っていたわけではないらしい。
だけど逆にそれが不気味さを感じさせた。
「わかってくれてよかった……」
それでも今はひとまず安心できる。もし最悪な事態になっていたらと思うとゾッとする。
「とりあえずみんな疲れたでしょ? もう寝よう?」
「そうですわね。みーちゃん、沙橙さん、申し訳ございませんでしたわ」
「私もごめん。朱美おねーちゃん、これからはケンカしないようにするね?」
蒼衣と美桜は反省して謝罪する姿勢を見せてくれたので一安心だ。
これで平和を取り戻せるだろうか。




