第34話 ドタバタな日常(?)はみんなと共に
紫音はキスでだめだめになっている美桜と蒼衣を引き剥がすと、二人の頭を撫で始める。
美桜と蒼衣は嬉しさ全開といった様子で甘え始めた。
「ああ〜幸せだよぉ……」
「紫音さまぁ……もっとぉ……」
完全に堕ちてしまっているようだ。朱美と沙橙はドン引きした。
しかし同時に、この人なら二人をうまくまとめてくれるかもしれないという期待感も湧いてきている自分に気づいたりもしたのだった。
「まあ、あの人たちは放っておくとして……沙橙、お茶飲む?」
「……飲む」
沙橙はぶっきらぼうな態度の割に素直なところがある。
朱美は冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出しグラスに注ぎ入れた。それを沙橙に渡してあげると、お礼を言って受け取り飲み干していく。
「……美味しい」
「よかった」
沙橙はよく笑顔を見せてくれるようになった。やっぱり元々明るい性格なんだろうなと思う。朱美も自然と頬が緩んでしまう。
「こういう静かな時間もいいね。もちろんみんなとワイワイするのも楽しいけど」
「……そうだな。ボクは毎日パジャマパーティーでもいいけど」
「それは勘弁して欲しいかな。いくら親しい人とはいえ、ずっと一緒だと疲れちゃうって」
朱美は苦笑いしながら答えた。すると沙橙はジト目になりこちらを見る。
「……そう? ボクは朱美ちゃんとだったら四六時中一緒でも構わないんだけど」
「え、それってトイレとかお風呂とかも……?」
「……もちろん。なんなら寝るときも添い寝してあげようか」
沙橙の言葉は冗談なのか本気なのか判断が難しい。真顔で言われると尚更だ。
だけど今まで見てきた沙橙の言動を考えると、割と本気っぽく思えるからタチが悪い。
「みんなに悪いし遠慮します……」
「ふぅん……? でも、朱美ちゃんって隙が多いからボクみたいな悪い人に付け込まれないように注意しないとね」
「悪い人って……沙橙はそんなんじゃないでしょ」
朱美が乾いた笑顔を浮かべながら言うと、沙橙はくすりと妖艶な笑みを浮かべた。
「さぁ、どうだろうね?」
「……朱美さん。いつまで二人きりで話し込んでいるのですか?」
沙橙の言葉に振り回されていると、唐突に蒼衣が割り込んで来た。
まだ虚な目をしているものの、さっきまで放心状態だったとは思えない復活スピードである。
「二人共、よからぬことを考えていたのでしょう? 朱美さんと沙橙さんだけでキャッキャウフフなんて許しませんわ!」
蒼衣は朱美たちの方に詰め寄ってきた。その瞳からは嫉妬心を感じ取れる気がした。
いや、瞳というか言葉からすでに読み取れるけども。
とにかく蒼衣は怒っているようだ。
「……落ち着きなよ、蒼衣ちゃん。ボクは朱美ちゃんと楽しく喋ってただけなんだからさ」
「そうだよ。それに蒼衣も紫音先輩と楽しんでたじゃん」
「うぐ……そ、それは……」
朱美の指摘に蒼衣が悔しそうに拳を握る。
心なしかプルプル震えているように見えるのは気のせいだろうか。今にも泣き出しそうな表情になっていくのが可哀想に思えてくるほどだ。
だけど、そこで朱美の嗜虐心が目覚めてしまった。
「ほんとに楽しそうだったよねー。『紫音さまぁ』とか言ってさ」
「ふぇえっ!?」
朱美は蒼衣のモノマネをしながら煽る。
「そ、そんなことは言っていませんわ!」
「へー? あれは聞き間違いだったのかなぁ〜」
蒼衣は必死に否定するものの、朱美は意地悪く問い詰めてみた。
すると蒼衣はどんどん顔が赤くなっていく。
耳まで真っ赤になり、涙目になっていく様子がとても可愛らしい。
こうやって弄るのも悪くないと思うくらいには楽しい瞬間だった。
「言ってないんですの! みーちゃんも何か言ってくださいます?」
「んー……私もあおちゃんがどうしようもない変態だと思うから擁護はしないかな」
「みーちゃん!?」
美桜の容赦ない追撃により、蒼衣は崩れ落ちてしまった。
朱美としてはそこまで責めるつもりはなかったのだが、どうやら予想以上にダメージを与えてしまったらしい。
ちなみに美桜はいつの間にか正気に戻っていたようだ。よく見たら紫音は姿を消している。
「……ごめんね蒼衣。やりすぎちゃった」
朱美は慌てて謝罪した。まさかここまで落ち込むとは思わなかったのだ。
流石にやりすぎてしまったかもしれない。
申し訳なくなりつつ蒼衣に近付いていくと、急に腕を掴まれ抱き寄せられた。
「ちょ、蒼衣?」
突然のことで驚いていると、蒼衣が顔を埋めてくる。
彼女は朱美の胸元で深呼吸し始めた。
まるで朱美の匂いを堪能しているみたいに。
「スゥーハァー……安心しますわぁ」
蒼衣は恍惚とした声で呟いた。なんだか危険な香りがする発言だ。
今の蒼衣は正常な精神状態とは言い難いので余計に心配になる。
下手したらトラウマ級の事件が起きてしまいかねない危惧もある。
「えっと、離してもらえるかな?」
「嫌ですわ」
「即答かい!」
朱美は渾身の力を振り絞りながら抵抗するもビクともしない。
むしろ強く締め付けられる結果となってしまった。
しかも蒼衣の豊満な果実が押し当てられる感触があるので、別の意味でも辛くなってくる。
「あぁ……朱美さんの匂い最高ですわぁ」
さらに蒼衣は顔を擦り付けてくる始末。
朱美は恥ずかしさのあまり全身が火照ってきた。
どうしてこうなったんだろうか。もうわけが分からない。




