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朱美の百合ハーレム全ルート攻略記――選べないから、全員幸せに(攻略)します!――  作者: M・A・J・O
それぞれの完全攻略ルート

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第29話 クラスメイト:完全攻略②

 ……全部、思い出した。

 沙橙が朱美のことを『ボクのヒーロー』と言っていた意味も、たまに異常なまでの執着を見せていたのもすべて理解できた。

 あの時の少女が沙橙だったのだ。


 そして朱美との約束を守るために今までずっと笑顔で過ごしてきた。

 あまりその目に光が宿ることはなかったけど、それでも常に笑顔を向けてくれている。

 それは沙橙なりの精一杯の愛情表現だったのかもしれない。

 けれども、本当はもっと朱美に自分だけを見てほしかったはずだ。


 ――自分を自殺から救ったのだからその責任を取れ、と。


 あの時、屋上で初めて出会った少女。自分の命を軽々しく捨てようとしていたあの子が、今は朱美の友だちになり、そして……愛し合っている。

 その事実の裏側にある複雑な感情を思うと、胸が締め付けられる思いだった。

 沙橙は重い感情をぶつけることはあれど、決して束縛しなかった。

 朱美が他の女の子にデレデレしている時も、怒ることもなく、ただ笑顔で見守ってくれていた。


「……伝えなきゃ」


 気づけば、朱美はベッドから起き上がっていた。

 朱美はスマートフォンを手に取り、沙橙に電話をかける。

 ワンコール目で繋がった通話口からは、いつもより少しだけ低く響く沙橙の声が聞こえた。


『……朱美ちゃん? どうしたの?』

「うん。あのさ、直接会って話したいことがあるんだけど……今から来られる?」

『……もちろん。すぐ行くよ』


 電話を切った朱美は、ドアの方へ向かって小走りする。

 心臓が早鐘を打っている。あの日の屋上で出会った少女が今も近くにいると思うと、自然と笑みが溢れた。


 玄関のチャイムが鳴ったのは、それから十分後のことだった。朱美は急いでドアを開けると、そこにはいつも通りの落ち着いた表情をした沙橙が立っていた。


「急にごめんね」

「……ううん、全然大丈夫だよ。それで……話したいことって?」


 朱美は玄関先で立ち止まり、ふと視線を落とす。記憶が蘇ったことで知った沙橙の本心と過去。それをどう伝えればいいのか一瞬躊躇するが、思い切って顔を上げた。


「沙橙、私ね……全部思い出したんだ。私たちが屋上で出会った日のことを」

「!」


 沙橙の目が驚きに見開かれる。

 その大きな瞳はやはり吸い込まれそうなほど綺麗だった。


「それで……その、あの時の約束のこと、ちゃんと果たしたいって思ってる」

「……約束?」

「そう、笑顔の約束。これからもずっと、一緒に笑おう? 絶対これからも沙橙を一人にしないって誓う」


 沙橙の唇が微かに震えた。長いまつげが伏せられ、一筋の涙が頬を伝う。


「……朱美ちゃんが覚えてなくてもいいって思ってた。忘れられてても構わないって思った」

「沙橙……」

「……でも、嬉しいな」

「うん。もう絶対忘れないよ」


 朱美が沙橙を抱きしめる。

 沙橙もまた、朱美の背中にそっと手を回した。

 その温もりは過去からの解放と、新しい未来への第一歩を感じさせた。


「……ありがとう」

「これからもよろしくね」

「……それはこっちのセリフだよ」

「あはは」


 二人の笑顔が交錯する。

 朱美が見たかった沙橙の本当の笑顔。それは昔の仮面のような作り笑顔ではなく、心の底からのものだった。


「……じゃあ今日は特別に朱美ちゃんにお礼をしなくちゃ」


 沙橙は頬を染めながら微笑んだ。


「お礼なんていいのに」

「……ダメだよ。ボクがそうしたいんだから」


 沙橙が朱美の耳元に口を寄せ、そっと囁いた。


「……覚えておいてね。ボクの笑顔は、朱美ちゃんが一番最初に解放してくれたんだから」


 朱美はその言葉に胸がいっぱいになった。過去があってこそ、今の二人がある。

 朱美は沙橙の手を取り、ぎゅっと握った。

 もう二度と離さないと決めたから。


「じゃあうちでご飯食べてく?」

「……うん。でも、その前に一つだけ」


 沙橙の声色が変わった。どこか真剣な眼差しで朱美を見つめる。


「……朱美ちゃん、覚えておいて。ボクの幸せは朱美ちゃんといることなんだよ」


 その言葉は重かったが、同時に朱美の心を温かく包み込んだ。

 朱美は笑顔で頷く。


「私も同じ気持ちだよ」


 夕暮れの空が二人を優しく照らしていた。

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