第22話 幼なじみ:完全攻略③
「――って、どういうことー!?」
その日の夜のこと。
朱美は自室で一人叫んでいた。
「もう! 沙橙のことがわかんないよ……」
朱美は一人頭を抱えていた。それもこれも、沙橙の言葉が原因だ。
(……沙橙はなんであんなことを言ったんだろう)
朱美は考える。だが、どれだけ考えても答えは出ない。
それになんだかモヤモヤする。
まるで胸に何かがつっかえているような感覚だ。
その感覚の正体を探ろうと、朱美はさらに思考を加速させる。
すると、ふとある一つの可能性に思い当たった。
(まさか……ね)
朱美はその可能性を振り払うように首を振る。だが一度浮かんでしまった考えはなかなか消えてくれない。
それどころかどんどん大きくなっていく始末だ。
「……はぁ」
朱美はため息をつく。
そしてそのままベッドに寝転がった。
天井を見上げながら考えるのは沙橙のことばかりだ。
朱美の思考はぐるぐると回るばかりで一向にまとまらない。
そんな時、ふとスマホが鳴った。
「誰だろう」
朱美はスマホを手に取る。画面を見るとそこには『蒼衣』と表示されていた。
「もしもし? 蒼衣?」
『はい。ごきげんよう、朱美さん』
電話越しでも伝わる蒼衣の優雅な立ち振る舞いに、思わず笑みが溢れる。
「ふふ、どうしたの?」
『いえ……その、少し声が聞きたくて……』
蒼衣は恥ずかしそうに言う。朱美はそんな蒼衣が可愛くて仕方がなかった。
思わず抱きしめたくなる衝動に駆られるが、ぐっと堪える。
蒼衣の隣に並んでも恥ずかしくないように、今の蒼衣に釣り合うように、自分を変えていかなければ。
だから、ここで衝動的に行動するわけにはいかない。
「うん、私も声が聞きたかったよ」
『まぁ! 嬉しいですわ!』
蒼衣の声が弾む。
電話越しでも蒼衣の喜ぶ姿が目に浮かぶようで、朱美まで幸せな気持ちになる。
『ところで……朱美さん』
「うん?」
だが、それも束の間のこと。
蒼衣の声のトーンが下がったことに気付き、朱美は首を傾げる。
何か気に障ることでも言ってしまっただろうか? そんな風に考えていると、蒼衣はポツリと言った。
『沙橙さんと何かありましたの?』
「え!?」
思わず声を上げる。
まさか蒼衣の口から沙橙の名前が出るとは思わなかったから。
もしかして、今日沙橙の家に行ったことを知っているのだろうか。
朱美は動揺しながらも、平静を装って答える。
「な、なんで?」
『いえ、別に。ただ……なんとなくですわ』
蒼衣はそう言って誤魔化すが、朱美にはわかっていた。蒼衣は勘がいいし鋭いところがあるから。
だけど、あえて深く追求しないのは朱美を気遣ってのことなのだろう。
そんな蒼衣に隠し事をするのが申し訳なくて、朱美は正直に話すことにした。
「大したことはないよ。美桜が私にフラれたのを沙橙に話してたみたいでさ。そのことについて色々聞かれちゃって」
『……そうなんですのね。でも、それだけですの?』
「うん」
『なら良いのですけど……』
蒼衣はどこか納得していない様子だったが、それ以上追及しては来なかった。
「心配してくれてありがとね」
『いえ……わたくしこそ急に変なことを尋ねて申し訳ありませんわ』
「ううん。蒼衣が私のことを心配してくれたの、すごく嬉しいから」
『朱美さん……』
電話越しでもわかるほど、蒼衣の声が嬉しそうに弾んだ。
朱美も思わず笑みが溢れる。
どうやらこの話題が終わりそうで朱美は内心ホッと安堵のため息をついた。
「あ! もうこんな時間か」
ふと時計を見ると、すでに23時を過ぎていた。
「ごめん蒼衣! そろそろ切るね」
『あ、はい。ではまた明日……』
「うん、またね!」
朱美は電話を切ると、大きく伸びをした。
色々あったからか、朱美の体は予想以上に疲れが溜まっていたらしい。
朱美はスマホを充電器に繋ぐと、そのままベッドに潜り込んだ。
今が幸せだからこれでいいはずなのに、なぜかモヤモヤがとまらない。
沙橙に変なことを言われてから朱美はどこか落ち着かない。
もう寝なきゃいけないのに、目を閉じようとすると沙橙の顔が浮かんでくる。
「もう! なんでよ」
朱美は枕を抱きしめて悶々とした気持ちを抱えながら眠りについたのだった。




