第21話 幼なじみ:完全攻略②
「……やぁ、朱美ちゃん」
蒼衣と愛を確かめ合った翌日。
朱美は沙橙に呼び出されて、彼女の部屋を訪れた。
沙橙の部屋はこれでもかというほど物が少なくて、まるでモデルルームのように綺麗に整理されている。
「沙橙? どうしたの急に」
「……うん、ちょっとね」
朱美が問いかけるも、沙橙はどこか歯切れが悪い。
……これは何かありそうだ。朱美は直感的にそう思った。
それから朱美は無理に聞き出すこともせず、沙橙が話し始めるのを待つ。
「……美桜ちゃんから電話が来て『お姉ちゃんにフラれたぁぁぁ!』って泣き叫んでたから、何かあったのかなって」
「あー……」
沙橙の言葉に、朱美は思わず苦笑する。
沙橙は美桜、蒼衣、紫音の三人が朱美に好意を抱いていることを知っている。
それを詰められて逃げたという苦い過去もある。
だから沙橙は朱美と美桜に何があったのか詳しく聞きたいのだろう。
朱美の友人として、美桜の相談相手として。
「ちょっと、自分の気持ちにケリをつけようと思って」
「……そっか」
朱美の言葉に、沙橙はそれ以上深く追及してこなかった。
「ねぇ、朱美ちゃん。……いや、なんでもないや」
「ん? なに?」
「……いや、その……蒼衣ちゃんと紫音先輩のことも、ケリをつけたのかな?」
沙橙は恐る恐るといった様子で朱美に尋ねる。その顔はどこか不安げだ。
……だと言うのに、どこか期待にも満ちている気がして朱美には少し不気味に見えた。
だが、誰がなんと言おうと朱美の答えはもう決まっている。
「うん。私は蒼衣が好き」
「……そっか」
「え? なんで沙橙がちょっと残念そうなの?」
「……いや、なんでもないよ。ははっ」
「えー?」
どこか慌てたように誤魔化す沙橙に朱美は思わず首を傾げる。
そんな朱美に、沙橙はどこか寂しそうな笑みを向けた。
「……ねぇ、朱美ちゃん」
「ん? なぁに?」
「……その、蒼衣ちゃんのどこを好きになったの?」
「……え?」
沙橙からの予想外の質問に、今度は朱美が戸惑う番だった。
だが、沙橙は至って真面目なようで、朱美を真っ直ぐ見つめている。その目は真剣そのもので、茶化しているようには見えない。
だから朱美も真剣に答えようと思った。
「蒼衣はね、いつも私の側にいてくれたんだ。私が寂しい時や悲しい時は慰めてくれたし、楽しい時は一緒に笑ってくれた」
「……うん」
朱美の言葉に沙橙は頷く。その表情は少し寂しそうにも見えた。
だが、それも一瞬のこと。
沙橙はすぐにいつもの調子に戻る。
「……幼なじみっていいね」
「うん」
沙橙の言葉に朱美は大きく頷く。
そう、幼なじみとは良いものだ。なんでも話せるし、一緒にいるのがとても心地いい。
でも……それだけではないことも朱美は知っている。
「でもね、それ以上に蒼衣は大切なんだ」
「……っ!」
朱美の言葉に沙橙は目を見開く。その目には驚きの色が浮かんでいた。
だがそれも束の間のこと。沙橙はすぐにいつもの調子に戻る。
「……大切、か。朱美ちゃんにそこまで想ってもらえて蒼衣ちゃんは幸せだろうな」
「そうかな? どっちかと言うと私の方が幸せ……って、言ってて恥ずかしくなってきた」
朱美は顔を赤らめて俯く。
そんな朱美を見て、沙橙は声を上げて笑った。
「……ははっ! いやー良いもの見せてもらったよ」
「うぅ……なんかすごく恥ずかしい……」
朱美は穴があったら入りたいと言わんばかりに、顔を手で覆う。
だが沙橙はそれを止めるように朱美の手を掴んだ。そしてそのまま顔を近づけてくる。
その距離わずか数センチと迫ったところで、沙橙は囁くように言ったのだった。
「……その顔、ボクが奪ってしまいたいな」
「っ!?」
その言葉に朱美は目を見開く。その顔は、まるで林檎のように真っ赤だった。
そんな朱美を見て、沙橙はクスリと笑うと何事もなかったかのように朱美から離れた。
「……冗談だよ。奪える気がしないし」
「も、もう! からかわないでよ!」
朱美は頬を膨らませて怒るが、沙橙はどこ吹く風だ。
そんな朱美を見て、沙橙は楽しそうに笑う。
「……ははは、ごめんごめん」
「むぅ……」
朱美は不満げに頬を膨らませたまま、沙橙を睨む。
だが、そんな表情もすぐに崩れてしまった。
なぜなら……沙橙がとても優しい顔をしていたから。
「……ねぇ、朱美ちゃん」
「なに?」
「……ボクは諦めないよ。例えどんな手を使っても、必ず手に入れてみせるさ」
「……へ? あ、うん……」
沙橙の言葉の意味がわからず、朱美は曖昧に返事をする。
そんな朱美を見て、沙橙はまた笑ったのだった。




