第19話 妹:完全攻略④
その日の夜、朱美は自分の部屋で勉強をしていたのだがどうにも身が入らなかった。
理由は明白である。今朝見た夢のせいだ。そのせいで一日中悶々とした気分で過ごす羽目になってしまったのだ。
「はぁ……」
「朱美おねーちゃんいるー?」
ため息をついていると、ちょうどドア越しから声が聞こえてきた。美桜だ。
「いるよ」
返事をするとドアを開けて入ってきた。その手にはマグカップを持っている。どうやら飲み物を持ってきてくれたらしい。
「はい、ホットミルクだよ」
「ありがとう」
お礼を言いつつ受け取ると一口飲んでみる。温かいミルクが喉を通る感覚が心地よい。ほっと一息ついていると美桜が隣に座ってきた。
そしてそのまま私の肩に頭を乗せてきたのである。突然のことに驚いて固まってしまう朱美だったが、そんな様子など気にも留めずに美桜はそのまま朱美に寄りかかってきたのだった。
「……ねぇ朱美おねーちゃん」
耳元で囁かれる甘い声音に背筋がぞくりとする。そんな朱美を見て美桜は妖艶な笑みを浮かべた後、首筋に舌を這わせてきたのだった。そしてそのまま強く吸い付かれる感覚に襲われる。まるで自分のものだと主張するかのような行為だ。
「っ……!」
突然のことに頭が追いつかない。ただわかることはただ一つ。このままではまずいということだけだった。
慌てて引き剥がそうとするもののビクともしないどころかさらに強く抱きしめられてしまう始末である。
「ちょ……み、美桜?」
「……ふふ、これで朱美おねーちゃんは私のものだもんね」
そう言って笑う美桜はとても幸せそうな表情をしていた。その笑顔を見ると何も言えなくなってしまう。
「……もう、しょうがない子だなぁ」
朱美は苦笑しながら妹の背中を撫でる。すると嬉しそうに擦り寄ってくる仕草がとても可愛らしいと思ったのだった。
それからしばらくの間、美桜は朱美の首筋を舐め続けていたのだが不意に動きを止めたかと思うと今度は強く噛みついてきたのである。その痛みに耐えかねて「い……っ!」と声が出てしまった。
それを聞いた美桜は満足そうに微笑むと、ようやく解放してくれたのだった。
「えへへ、ごめんね? 痛かったよね?」
「……うん」
素直に頷くことにした。ここで下手に反論しても面倒なことになるだけだと思ったからだ。それに、美桜が満足してくれたのならそれでいいと思っていたのである。
「じゃあ次は反対側ね?」
……話を聞いていたのだろうか。
そう言って再び顔を近づけてくる美桜を見て、慌てて止めることにした。これ以上噛まれたら大変なことになってしまうと思ったからだ。
しかし遅かったようで今度は反対側の首筋に噛みつかれた後、強く吸われてしまったのだった。そしてそれが終わると満足げに微笑んで離れていったのである。
(うぅ……絶対痕になってるよこれ)
鏡を見なくてもわかる。きっと真っ赤になっていることだろう。明日も学校だというのにどうしてくれるのか……
「ふふっ、これで朱美おねーちゃんは私のものって証ができたね?」
「……ばか」
無邪気に笑う美桜を見ていると怒る気力もなくなってくる。
「でもね、朱美おねーちゃんモテるから……不安なんだよ」
「……えっ?」
突然の言葉に驚いてしまう。まさかそんなことを言われるとは思わなかったからだ。
そんな朱美を見て美桜は寂しそうに笑っていた。その表情を見た瞬間胸が締め付けられるような感覚が襲ってくるのを感じたのだった。
「だって朱美おねーちゃん、あおちゃんや紫音先輩……他にもいるかもしれないけど、その人達に言い寄られてたから……いつか取られちゃうんじゃないかって……」
そう言って俯く美桜の頭をそっと撫でると優しく抱きしめたのである。すると安心したかのように身体を預けてくる姿がとても愛おしいものに感じられたのだった。
(ああもう、本当にこの子は……)
普段は天真爛漫で元気な子なのだが、時々こうして弱い部分を見せてくれることがある。本当に、こういうギャップがたまらない。
「大丈夫だよ。私が一番好きなのは美桜だから」
そう言って微笑みかけると、嬉しそうな笑顔を浮かべてくれるのがとても可愛らしいと思うと同時に、愛おしさも増していくから不思議だ。
「ほんと?」
「うん、本当だよ」
そう言うと再び抱きついてくる美桜。
そんな彼女の頭を優しく撫でてあげると気持ちよさそうに目を細める。そんな姿を見ていると朱美まで幸せな気分になってくるのだった。
「えへへ……嬉しいな……」
そう言いながら胸に顔を埋めてくる美桜を見て、朱美はこの子を絶対に幸せにしてあげようと改めて決意したのだった。




