第17話 妹:完全攻略②
「……ここは?」
目を覚ますと辺り一面真っ白な空間にいた。どこまでも続いているような長い空間だ。床も天井も壁もない不思議な空間。
「……目が覚めた?」
「沙橙!?」
声がする方を見ると沙橙が座っていた。
慌てて駆け寄ると、彼女は優しく微笑んだ。
「……まさかこんな奇跡が起きるなんて。嬉しいよ」
「どういうこと?」
「……ボクはずっと君に声をかけ続けていた。やっとその声が届いたみたいで、嬉しいな……っ」
沙橙は泣いていた。
大粒の涙が頬を伝う。
その涙はとても綺麗で、思わず見惚れてしまったほどだ。しかし、すぐに我に返る。泣いている彼女を放っておくわけにはいかない。
だから朱美は彼女の隣に座って手を握る。
すると沙橙は驚いたような表情を浮かべた後、嬉しそうな笑みを浮かべた。そして、そのまま抱きついてきた。その体は小さく震えているようだったが、それでもしっかりと私を抱きしめているのがわかった。
朱美はそんな沙橙を優しく抱き返した後、頭を撫でた。すると沙橙はさらに強く抱きしめてくる。まるで離れたくないと言っているかのように。
しばらくそうしていると、やっと落ち着いたらしい。沙橙はゆっくりと顔を上げて私を見た。
その瞳はまだ潤んでいて頬には涙の跡が残っていた。
それでも彼女は微笑んでくれたので安心することが出来た。どうやら嫌われたわけではないようだ。
そのことに安堵しつつ、朱美は改めて問いかけることにした。なぜここにいるのかと、どうしてこんなことになっているのかと。
すると彼女はゆっくりと語り始めたのだった。
「……ボクはね……ずっと前から君のことが好きだったんだ」
それは、前にも聞いた愛の告白。
だけどあの時よりずっと重たく、朱美の心に響いてきた。
「うん、ありがとう。でも私は……」
だけど、朱美は美桜を選んだ。選んでしまった。だから、沙橙の気持ちには応えられない。そう言おうと思ったときだった。
「……わかってるよ、美桜ちゃんのことが大切なんだよね?」
「うん」
沙橙の問いに朱美は迷わず答える。すると、彼女は悲しげに微笑んだ後、再び話し始めた。
「……それでも構わないよ。だって、ボクは諦めないから」
「……え?」
予想外の言葉に驚いてしまう。そんな朱美に構うことなく沙橙は続けた。
その瞳には強い意志が込められているように見える。まるで決意を固めたかのようだった。
「……ボクは君のことを諦めない。絶対に振り向かせてみせるよ」
「どうしてそこまで……」
「……だって、君のことが好きだから」
「……っ!?」
真っ直ぐな言葉に思わず赤面してしまう。そんな私を見て沙橙はクスッと笑った後、言葉を続けた。その顔はとても楽しそうだった。
まるで悪戯を成功させた時の子供のような表情をしているように見える。
そんな沙橙を見ていると不思議と嫌な気分にはならなかった。むしろ、可愛いとさえ思ってしまうほどだ。それほどまでに彼女の笑顔は魅力的だったと言えるだろう。
「ふふ……可愛いね」
「……うるさい」
照れ隠しのために顔を背けるが、それでも彼女の顔を見ることは出来なかった。きっと今の顔を見られたらからかわれてしまうと思ったからだ。
そんなことを考えている間にも彼女はどんどん距離を詰めてくる。まるで獲物を狙う肉食獣のようにジリジリと迫ってきているのだ。
このままではまずいと思った朱美は慌てて距離を取ろうとするが、時すでに遅しだったようで捕まってしまった。
そしてそのまま抱きしめられてしまったのである。
「ちょ、ちょっと!?」
慌てて離れようとするがビクともしない。それどころかさらに強く抱きしめられてしまう始末だ。
一体どうすればいいのかと考えているうちにも彼女の顔がどんどん近づいてきていた。このままではキスされてしまうと思った、その時。
「――朱美おねーちゃん!」
「わっ!?」
突然聞こえてきた声に驚いて飛び上がる。慌てて声のした方を見ると、そこには美桜が立っていた。
朱美はベッドに横になっている。どうやら夢を見ていたらしい。
「もう、いつまで寝てるの? 遅刻しちゃうよ?」
美桜は呆れ顔で朱美を見ている。時計を見ると確かにそろそろ準備を始めないといけない時間になっていた。朱美は慌てて起き上がると急いで支度を始めたのだった。
「まったく、朱美おねーちゃんは私がいないとダメなんだから……」
そんな小言を言いながらも手伝ってくれるあたり優しい子だと思う。
「ありがとう、美桜」
素直にお礼を言うと照れてしまったようでそっぽを向かれてしまったが、耳まで赤くなっているのが見えて微笑ましくなってしまった。
本当に可愛らしい妹だと思いながら頭を撫でると、今度は怒られてしまった。どうやら子供扱いされていると思ったらしい。そういうところも可愛らしいのだけれど。
「ほら、早く行くよ!」
そう言って朱美の腕を引いて歩き出す美桜に苦笑しながらついていく。
そんなやり取りをしながら学校へと向かうのだった。




