第14話 沙橙(メンヘラなクラスメイト)ルート③
沙橙が教室から出た後、朱美はその場に座り込んだ。
心臓はまだドキドキしているし顔も熱いままである。
「……はぁ」
深いため息をつく。
まさか沙橙に告白されるとは思わなかったのだ。
いや、本当に沙橙は朱美のことが好きなのだろうか?
好きだという割にはあまりにもあっさりしているような……
そもそもなぜ沙橙は朱美のことが好きなのだろう。
朱美は誰かに好かれるような性格をしているとは思っておらず、沙橙の気持ちがわからない。
「……というか、なんで私はこんなにドキドキしているんだ?」
確かに沙橙は綺麗な顔をしているし、性格もいい方だろうとは思う。
そんな相手に告白されたのだから嬉しくないわけがないのだが、それだけではない気がした。
「なんだろう……この気持ち」
朱美が考えていると突然扉が開き、誰かが入ってくる音がしたので顔を上げる。
すると、そこには先程出て行ったばかりの沙橙が立っていた。
「あれ? どうしたの?」
朱美が尋ねると、沙橙は無言で近づいて来る。
そして朱美の隣に座った。
「……どうして戻って来たの?」
朱美は不思議に思い尋ねたが、返事はない。
その代わりに腰に手が回ってきて抱きしめられる形になってしまった。
突然のことに驚き離れようとするも力が強くて逃れられない。
「ちょ、ちょっと……!」
「……ねぇ」
呼びかけても返事がなかったはずの沙橙が突然口を開いた。
「……ボクのこと好き?」
「……え?」
突然のことに頭が追いつかない。
なぜそんなことを聞くのだろう。
そんな疑問を抱く朱美を気にせず、沙橙は続けた。
「……答えてよ」
「す……好きだよ……」
朱美は戸惑いながらもそう答える。
すると沙橙は満足そうに笑った。
その笑顔を見て胸が締め付けられるような感覚がするのと同時に、顔が熱くなるのを感じた。
なんだろうこの感情は……と不思議に思っていると、突然キスされた。
しかも触れるだけの軽いものではなく、舌を入れられ口内を蹂躙するような濃厚なもので、朱美は頭が真っ白になり何も考えられなくなる。
そんな朱美にお構いなく沙橙は何度も角度を変えて口付けを続けた後ようやく離してくれた。
「っはぁ……」
やっと息ができたと思い呼吸を整えようとするも、すぐにまた口を塞がれる。
今度は先程よりも長く深いものだったため息が続かず苦しくなり始めた頃になってやっと解放された。
「ぷはっ!」
やっと解放されて思いっきり息を吸い込むと、沙橙に再び抱きしめられる。
今度は優しく壊れ物を扱うかのようにそっと包み込むような感じだった。
「……朱美ちゃん……」
耳元で名前を呼ばれただけなのにビクッと肩を揺らしてしまう。
それが恥ずかしかったが、それ以上に嬉しかった。
そんな朱美の様子に気づかず、沙橙は続ける。
「……朱美ちゃん……ボクは君が大好きなんだ」
そう言ってまたキスをされたので慌てて止めると、不服そうな顔をされたので目を逸らした。
「……なんで目を逸らすの」
「いや……だって……」
流石に恥ずかしくなって顔を逸らすと、頬を掴まれ正面を向かされる。
そして再びキスをされた。
今度は触れるだけの軽いものだったが、それでも心臓に悪い。
「……もう、なんで目を逸らすかな」
「だって……恥ずかしいし……」
朱美がそう言うと沙橙は嬉しそうに笑った。
そんな笑顔を見てドキッとすると同時に胸が高鳴るのを感じる。
これは一体何なのだろうと思っていると、沙橙に抱きしめられた。
「……ねぇ朱美ちゃん、ボクのこと好き?」
「う、うん……」
「……良かった」
そう言ってさらに抱きしめる力を強くする沙橙の背中に手を回し抱きしめ返すと、さらに強く抱き締められた。
そして沙橙は重苦しそうに口を開いた。
「……朱美ちゃん、ボクの昔話聞いてくれるかな?」
「え? あ、うん」
突然の問いかけに戸惑いながらも頷くと、沙橙はゆっくりと語り始めた。
「……ボクね、ずっといじめられてたんだ。……ううん、あれはいじめなんかじゃない。ただボクのことが気に入らなかっただけ。ボクが『気持ち悪い』からって理由で。だからボクは自分が嫌いで仕方がなかった」
「沙橙……」
朱美は悲しげに目を伏せる沙橙を慰めようと名前を呼ぶと、彼女は弱々しく微笑んで首を横に振った。
「……そんな時、もう死んじゃいたいって思った時、君が助けに来てくれたんだ」
「……私?」
「……そうだよ。君は覚えてないかもしれないけど、それでもボクにとってはかけがえのない思い出なんだ」
そう言って微笑む沙橙の表情はどこか寂しそうだった。
そんな沙橙を見て朱美は何も言えず黙り込んでしまう。
すると沙橙は再び口を開いた。
「……ボクはね、ずっと君に憧れていたんだ。強くて優しくてかっこよくて、それでいて可愛くて。だから君を好きになれた時、とても嬉しかったんだ」
沙橙は嬉しそうに微笑み朱美の手を握りながら――続けた。




