第13話 沙橙(メンヘラなクラスメイト)ルート②
「……あ、そういえば」
「ん?」
沙橙が何かを思い出したかのように言うので朱美は首を傾げたが、すぐにその疑問は解決した。
「……ボクとしたことが、君にプレゼントを渡そうと思っていたんだ」
「プレゼント?」
「……少し後ろを向いていてくれないかな?」
沙橙にそう言われ、朱美は素直に後ろを向く。
後ろでごそごそと何かを漁る音が聞こえたかと思うと、「もういいよ」と声がかけられたので前を向いた。
「……これ」
そう言って沙橙が差し出したのは、赤いリボンがついた黒い小さな箱だった。
リボンでラッピングされたそれを受け取りながら尋ねる。
「これは?」
「……開けてみてよ」
言われた通りにリボンを解き蓋を開けると、中には時計が入っていた。
「これ……」
「……そう、君に似合うと思って」
「ありがとう! 大切にするね!」
朱美が満面の笑みを浮かべてそう言うと、沙橙は顔を赤くして「どういたしまして」と言う。
その時朱美は気づいた。
沙橙の頬が赤くなっていることに。
「沙橙、どうしたの?」
「……っ! な、なんでもないよ」
慌てて顔を逸らす彼女を見て、朱美は首を傾げる。
さっきまで普通だったのに、急にどうしたというのだろう。
そんな疑問を抱きながらも時計を箱から取り出し、手首につけた。
「どう? 似合うかな?」
「……うん、とてもよく似合っていると思う」
「ありがとう!」
沙橙が褒めてくれたのが嬉しくて、朱美はさらに笑みを深める。
そんな朱美を見た沙橙は、少し俯くと呟いた。
「……もしかして、ボクを選んでくれた世界線なのか?」
「何か言った?」
「……いや、なんでもないよ」
朱美には聞こえなかったが沙橙は嬉しそうに笑うと、突然真剣な表情をして言う。
「……ねぇ朱美ちゃん、ボクは君のことが好きだよ」
「え……」
「……もちろん恋愛的な意味で」
突然の告白に驚く朱美を気にせず沙橙は続ける。
「……ボクは君のことが好きだけど、君は違うだろう? だから君に好きになってもらえるようにボク頑張るよ。……でも」
そこで言葉を区切ると沙橙は朱美の手を取り言った。
「……他の女の子になんて渡さない。絶対に、だ」
「……え?」
言葉の意味がわからなくて聞き返すが、沙橙は答えずすぐにいつもの笑顔に戻る。
そして朱美の頭を撫でた。
それがとても心地よくて、思わず目を細める。
沙橙はそんな朱美を見て目を細めると、頬に手を添えた。
そしてゆっくりと顔を近づけて来る。
何をされるのかわからないまま朱美はただそれを呆然と見ていたが、唇が触れる瞬間まであと少しというところで慌てて沙橙の口を手で覆った。
「な、何しようとしてるの!?」
「……キスだけど?」
「きっ!? なんで!?」
「……なんでって、君が好きだからだよ」
さも当然のように言う沙橙に、朱美は混乱するばかりであった。
そんな朱美を見て、沙橙はくすりと笑う。
「……まあでも、今はいいよ。君がボクを好きになってくれるまで待つから」
そう言って微笑む沙橙の表情はとても優しくて、朱美は思わず見惚れてしまった。
だがすぐに我に返ると慌てて首を振る。
今のは違う! 見とれたんじゃない! と自分に言い聞かせながら。
そんな朱美を見て沙橙はさらに笑みを深めると、耳元で囁いた。
「……覚悟しててね、朱美ちゃん」
それだけ言うと沙橙は教室から出て行った。
後に残ったのは顔を真っ赤に染めた朱美と、その手首で時を刻む時計だけだった。




