三
朝起きたら、もう道連れになっていた。こんなに簡単なものだとは思ってもいなかったが、さっぱりとしたディーミディのおかげだった。
「いいじゃん。行き先も用もおんなじだし、連れで行こう」 それからおれの顔をじっくり見た。「へぇ、明るいとこで見ると、あんたかわいい顔してんね」
「それは勘弁してくれ。嫌いなんだ。子供っぽいだろ? 大人の歯が生えなくてな」
荷をまとめながら答えた。ディーミディはたき火の燃えがらを踏み割って残り火がないか確かめながら水をかけ、さらに土をかけた。
「念入りだな」
「ああ、火事は絶対だめだ」
おや、と思った。口調が変わった。だが、これはしつこく聞いちゃいけないなと勘でわかった。好奇心という泥で汚れた足を踏み入れちゃいけない領域だ。
半エルフは鼻をうごめかせ、かぶせた土の上で臭いを確かめていた。
公用街道に戻り、マギソテラリス領に向けて歩き出した。すぐわかったのだが、ディーミディは遅れなかった。子供のように小柄なのに息も荒らげない。背負い袋はおれのより大きく両側にはみ出てるくらいなのに。
これなら連れにしても大丈夫だ。気を遣わなくていいなら旅の妨げにはならない。
「な、あんたの足引っ張らないだろ?」
「心読めるのか」 そんなまじないは聞いたこと無いけど。
「いいや。でもこの体だから大体そういう心配される」
木々の間から日が差してきた。
「ま、足はまかせてくれ。デウセルフ様の〝恩恵〟がある」
おれは頭の中の本をもう一度開いた。エルフの神の知識なんか使うことないって思ってたが、まさかここで必要になるとは。
「エルフって神を選べないんだったよな。エルフに生まれたら自動的にデウセルフ様の信仰を持つって本に書いてあった。でもあんたは半エルフだろ? それでもそうなのか」
ディーミディはくすっと笑った。そこだけ切り取ると本当に子供みたいだった。
「父親がエルフだからね。でも〝半〟だから帝国人の神も信心できる」
「そんな都合のいい信仰あるもんか。からかうなよ」 驚いたのでつい声が大きくなったが、ディーミディは大笑いで返してきた。
「そこが、神の〝法則〟の穴さ。デウセルフ様はエルフだけの神で、帝国人や帝国人の神にはまったく関わらない。帝国人の神もそう。他の人種には知らんふりを貫いてる。で、神はすべて信仰の心を食べる。だからエルフの神と帝国人の神はお互いのやることに目をつぶる。ゆえに半々のあたしは両方信仰して、それぞれから〝恩恵〟を受けられるってわけ」
「虫のいい話もあったもんだな」 そう言えばそうだ、とおれは本に書いてあったことを思い出した。だから他人種の神は信仰の対象にならない。最強神探索もデウセルフ様は元々対象にしてないんだった。
「けど半々だから〝恩恵〟はさほど強くないけどな。まじないだって純粋な信者にくらべたら子供の遊びだ」
「ふうん。じゃあ、あんたの帝国人側の信仰は?」
「いまはグレシャ様だけど、ボーニタス様とくらべていい方につくつもり。病への抵抗力、あたしにはあんまり効き目ないみたいでさ。旅の多い身にしてみりゃ都合いいかなって思ったんだけどね。……済まないね。信心してないとはいえ、ドゥミナウス領出身の人に言うことじゃなかったかな」
またわからないことを言い出した。〝くらべて〟だって?
「あんた、神を取っかえ引っかえしてるのか。野菜選ぶみたいに」
歯の間から息を出すような、蛇が脅かしてるような音がした。
「そうだよ。ルシエスさん。半エルフとしてこの世を歩いて七十五巡年。神なんか野菜みたいなもんさ。選べるなら選ぶ。その時々で一番入り用なやつをね。わかるかい? 信心は金さ。神と取り引きするための」
わかりすぎるほどわかった。おれの最強神探索も、端から見ればこの半エルフの生き方とそう変わらないだろう。




