二
枯れ枝を踏み折る音がし、おれは起き直った。獣? 腰の短剣に手を置く。実と枝を放り込み、火を大きくした。
「良かった。人がいて。世話んなる」
暗がりから出てきたのはやけに小柄な女で、声は子供みたいだった。まさか、魂持たぬ魔物の類いか。でも、こんなところで?
しかし、そいつはしょってきた枝をどさっと火のそばに投げ出した。
「火ぃ使うよ」 腰を下ろすと枝をくべ、さらに火を大きくすると湯を沸かし始めた。
「ああ、好きなように」 おれはほっとした。おれとおなじ旅人だ。女の一人旅は珍しいが、公用街道をたどるならできなくはないんだろう。野宿しようとしてこの火を見つけたのか。
「あたしゃディーミディ。あんたは?」 沸いた湯になにか粉を入れてすすり、名前のよくわからない実をこりこりかじりながら聞いてきた。
「おれはルシエス」
ディーミディと名乗った顔は、たき火の橙色と薄暗さではっきりしないが、かなり浅黒く見えた。耳にかかるかかからないかの髪の色は白か銀か。また、揺れる火で光る目は大きく、耳の形も違う。服装はおれとそう変わらないが防具をつけておらず、こざっぱりとしてる。あきらかに帝国人ではない。
「なにじろじろ見てんだい?」
「あんた、エルフか」 そうであれば子供のように小柄だが、おれより年上かもしれない。教会の本には三百巡年ほど生きると書いてあった。
「半分な。父がエルフ、母が帝国人。ここらへんじゃ珍しいだろ」 にやっと笑うと犬歯が目立った。いま気付いたが、腰帯に帝国人の短剣にあたるエルフ針をさしていた。毒かまじない、あるいはその両方が仕込んである油断ならない武器だ。
「実を言うと田舎者で、エルフはあんまり見ないから。無礼だったらすまん」
「どこの出?」
「ドゥミナウス領」
「ああ、グレシャ様か、じゃ、あんた火か雷のまじないがいけるんだ」
おれは首を振った。「信仰は無い」 これを言うとこれからの説明がややこしくなるとわかっていたが、無い信仰をある振りするような嘘はつけなかった。
「そっか。ま、いいや。で、どこ行き? あたしゃマギソテラリス領。ちょいとボーニタス様に用があってね」
おれは一瞬答えに詰まった。半エルフは実の殻をたき火に放り込んだ。神をもたないという告白を〝ま、いいや〟と片付けた。面白い。
「……おれもだ。ボーニタス教会に行く」




