一
おれは東に向かっている。深い理由やこだわりはない。単にドゥミナウス領からはるか東が帝国首都カプティンペリアーレで、間には多数の領地があり、様々な教団があるからだ。また、首都方面なら行けば行くほど道中の安全が増していくと踏んだからでもあった。いずれ辺境も巡らなければならないだろうが、まずは旅そのものに慣れるのが先だ。
例えば革の防具がこんなにこすれるものだとは思わなかった。特に急所を覆うのが股の内側を擦り、歩くのが苦痛だ。やむを得ず、小休止の時にはずしてしまった。次の街で調整してもらおう。
道は帝国の公用街道をたどっている。荷車や騎乗の者のために作られた道で、すれ違えるくらいの幅がある。街道は大きな起伏や障害になる地形を避けるため遠回りになることがあるが、脇道を使えるほど知識や経験はないし、危ないのはごめんだ。
しかし、それにしてもはかどらない。日はもう背中側になったのに、ヴィシノオリエン領と東隣のマギソテラリス領の境の標識は気配すらない。頭の中で地図を拡げてみたが、どうやら見当を間違ったらしい。直線距離と、道をたどった場合の旅程をごっちゃにしたのか。いくら旅慣れてないにしてもお粗末すぎる、と自分に腹が立った。
道の両側に植えられている木はほどよく影を提供してくれるが、完全に道の屋根となるほど大木ではない。日光が枝葉を通ってできた光の斑が夕焼けに色づいてきた。そろそろ腹を決めなくちゃならない時刻だ。このまま自分の足を信じて領境の人里に出られるまで突き進むか、明るいうちに野宿の準備をしてしまうか。だれとも出会わないので尋ねることもできない。
そのとき、木の間から水の流れる音が聞こえてきて、おれは決めた。道をそれ、音のほうに向かうと小さな流れがあった。元来たほうに向かっており、幅はまたげるほどできれいに澄んでいる。手をつけると冷たく、一口含んでみたが飲めそうだった。
そして、脇にだれかが野宿をした跡まであった。おれは落ちている枝や油分を含む葉と実を拾い集め、そこで火をおこして小鍋をかけた。ちょうど日が沈み、おれは湯が沸くのを待つ間、木にもたれ、焼きしめた固い麦饅頭をかじった。半分で嫌になり、残りは砕いて湯に混ぜ、どろどろの粥にして食べた。
昨日の食事と寝台を思い出しながら、背負い袋を枕にし、腕を組んで横になった。火が揺れている。明日はマギソテラリス領に入って、すこし休んだらボーニタス様の教会に試合を申し込まなくちゃな、とぼんやり考えた。




