二 アウローラ
ひどく叱られ、罰が下った。三巡日間の沈黙。言葉によって神を愚弄した報いだった。口をきいてはいけないと示す戒めのマスクをされ、飲食と祈りの時のみはずされた。ひどく痒いし、目立つマスクで、とても恥ずかしかったのを覚えている。
恥ずかしい以上に嫌だったのはだれもそれについて嘲ったりからかったりせず、ただ哀れむところだった。戒めマスクをはめた子は愚か者だとさらされてるに等しい。愚かさは、哀れみをもって救えというのが教えだったから、みんなそうした。おれにとってつらく、忘れられない三巡日間だった。
でも、もっと嫌で不満だったのは、おれの問いにだれも答えてくれず、また、あの疑問がなぜいけないのかも教えてくれなかったことだった。
「それはそう。ルシエス、あなたグレシャ様を試すつもりだったの?」
三巡日が過ぎ、戒めマスクで荒れた口や頬の塗り薬を持ってきてくれたのはアウローラだった。この子はおなじ巡年の捨て子、という意味の同期だった。帝国人で、肩までは届かない黒髪に濃い焦げ茶の瞳、肌の色はおれよりは薄く、丸い頬をしている。母は生まれてすぐ亡くなり、父も数ヶ巡月後に街道の盗賊捕縛任務中の事故で死んだ。それから、親戚のだれもこの子を引き取らず、ここに連れてこられたという話だった。頭が良く、ものをよく知ってるので、おれは頼りにしてたけど、この問いについてだけは神官やほかの子とおなじく答えてくれなかった。
祈りの形で胸に手を当てるアウローラを横目で見ながら薬を塗った。しみるし、ひどい臭いで、せっかくマスクをはずしたのにつけてたって言いふらしてるようだった。
「効くから、がまんして」
「痛っ、あ、姉様みたいな言い方しないでよ」
『神の子たちの小屋』では、年長者は兄様、姉様と呼ばれていた。神官でもなく、世話役の大人でもないが、雑用をまかされている。それだけに偉そうだった。アウローラの口調は、その姉様みたいだった。
「でも、いまのあなた、半分の歳の子供みたい。〝全知全能〟って言葉に小理屈で絡みたかっただけでしょ? 考えなしに思ったままを口にするなんてありえない……」 アウローラはちょっとの間口を閉じて周りの様子をうかがった。言うべきか言わざるべきか考えてるようだった。「……ルシエス、本当にグレシャ様を信じてる?」 しかし言った。他人の信仰を疑う言葉。神官にでも聞かれたら戒めマスクなんかよりずっと重い罰――たとえば食事抜きとか――を下されかねない。
おれはアウローラの顔を、目を見た。いまは偉そうではない。非難、でもない。心配してくれていた。
「わからない。けど、みんなみたいには信じてないと思う」 ささやくような声で返した。アウローラの目が驚きに見開かれた。
「そう……。薄々そうじゃないかって思ってたけど、あらためて聞かされると……。おまじない、苦手だもんね」
「ほっといて」 おれのまじないの力は弱い。いつも神官に小言を言われていた。
「ほっとけない。信仰の力が神様を強くする。強くなった神様は信者により良い〝恩恵〟やまじないを与えてくださる。それが世界の仕組みなのはわかってるでしょ。人は神様を心から信じなくちゃ」
「実を言うとその仕組みは気に入らない。まるで神様の〝恩恵〟が町で売ってる野菜みたいじゃないか。信じる気持ちはただのお金なの?」
「……ううん、そうじゃない。信心はわたしたちを結びつけてる。凍りつくような冬の朝、暖かい毛布にくるまってるように。この小屋では親はいなくてもみんなグレシャ様の〝恩恵〟を受けて心豊かに暮らしてる。違う?」
「それは君の言葉じゃない。神官の受け売りだ。あと、さっきから拝礼忘れてるよ」
アウローラは赤くなった。神の名前を口にしたのに祈りの形をしていなかった。これは、罪ではないが行儀の悪い行為と見なされていた。
「さ、そろそろ食堂に行かなきゃ。お祈り、当番だろ? それと、受け売りの言葉だろうがなんだろうがありがとな。やっぱりアウローラは頼りになる」
顔がまだ赤い。いつまで拝礼忘れを悔いてるんだろう?




